urt's nest

ミステリとかロックとかお笑いとかサッカーのこと。

京極夏彦『邪魅の雫』講談社ノベルス

2006年10月16日 | reading
ネタバレ注意。

京極堂シリーズ最新刊。
何人ものストーカーと何人もの被ストーカー。何人ものそれを守ろうとする人たち。殺そうとする人たち。何人もの警官と元警官。影の薄いレギュラーメンバー。特に榎木津。
読んでる間はそれらの構成が物語を冗長にする要素にしか感じられず、結構ストレスが溜まります。『陰摩羅鬼』も冗長だったからね。しかし真相が明らかにされてみると、それらがすべてこの「反転」の構図を描くのに不可欠なものだったことが分かるのでした。いかにも「操り」テーマっぽく描く、アンチ「操り」。僕も実際、「なんだコレ、『絡新婦』じゃん」とか思ってたらものの見事にひっくり返されました。ラストシーンもなぜか清々しさ、あるいはキュートささえ感じさせる京極にしては珍しい読後感で、そこでの榎木津の役割も素敵。読後の満足感は案外に高いものでした。
不満を挙げるとすれば薀蓄が迫力に欠けることかなあ。「世間」と「社会」とかって社会学っぽいテーマで興味深くはあったのでしたが。
あとは、《そう、生命は当たり前ではない。生きている状態と云うのは当たり前の状態ではないのだ。》(535p)ってあたり、やっぱり似てんだなあと思った。
あと《「学生時代は健忘さんと呼ばれていたくらいだ」》(592p)に爆笑した。

作品の評価はB。

邪魅の雫邪魅の雫
京極 夏彦

講談社 2006-09-27
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