urt's nest

ミステリとかロックとかお笑いとかサッカーのこと。

石田衣良『4TEEN』新潮文庫

2005年12月29日 | reading
ネタバレ注意。

最近コメンテータとしてテレビに出演してらっしゃるのを拝見して、そのファッションセンスに作家としての彼に抱いていたイメージが崩壊していくのを感じています、石田衣良の直木賞受賞作。月島の中学生四人組を描いた連作です。

うーん。これに直木賞か。IWGPシリーズとか『娼年』とか、他にいくらでも評価すべき作品があると思うけどな…これはちょっといただけない。ヌル過ぎるよ。
《NHKの「中学生日記」みたいに爽やかになんてなれるはずがなかった》(137p)なんて記述があるけど、正直「中学生日記」のがドロドロしてたりすると思うよこれじゃあ。『うつくしいこども』なんかもそうだったけど、石田は幼い視点で書くのがあまり上手くないと思う。この中学生たちのドラマ、彼らの心理描写を「ヌルい」と感じてしまうのは、俺が自意識と性欲の肥大(笑)した中学生時代を送ったからってだけじゃないと思うけどな。中学生の心理描写(瑞々しい、とか形容する向きもあるのかもしれないが)がキモなんだろうけど、俺にとって感興は「森を走るより都会を走る方が好き」ってとこぐらいだった。
戦略的になんだろうけど現代風俗をあまりに無防備に取り込んでるのも俺には気恥ずかしく感じられたし、性があまりにあっけらかんと書かれているのもリアリティを欠いてるように思った。それらリアルを描いてる要素が逆にファンタジー的だと感じられてしまい、作品通してフワフワした、座りの悪さがあった。《僕らはきっと空だって飛べる!》なんてちょっと恥ずかしい煽りのフレーズそのままに。

…とまあ、期待が大きかったので不満点が先に立ってしまいましたが、美点もありますよ。月島を中心とする東京の風景描写は実際にその地点に立ってみたくなる。地理小説(んなもんあるのか? 古川の『LOVE』とかさ)としてはとても素敵。

《遥か下方には白い砂を撒いたように細かな建物がびっしりと落ちていた。それは目の届く限り遠くまで続き、東京という形のない街を無理やりひと目でわからせようとするみたいな景色だった。》(266p)

あとやはり、石田の小説はなんてことのない描写にはっとさせられることが多いよね。読者各人のツボに従って、発見は多いと思う。

《「こんなところでいいんじゃないか」/ジュンがそういってぼくたちはダイへの手紙を終りにした。白い紙のうえには、へたくそな字でなんだかあたりまえの言葉がならんでいた。ぼくは間違いがないか確かめるために、もう一度読み直して泣いてしまった。ジュンにわたす。ジュンも読んで泣いた。ナオトはぼくとジュンが泣いているのを見るだけで泣いた。》(221p)

おじいちゃん子の俺としては「大華火の夜に」がたまらんかったな。

作品の評価はC。

4TEEN4TEEN
石田 衣良

新潮社 2005-11-26
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