urt's nest

ミステリとかロックとかお笑いとかサッカーのこと。

D.ウィンズロウ/東江一紀訳『砂漠で溺れるわけにはいかない』創元推理文庫

2006年09月02日 | reading
ネタバレ注意。

クソみたいな小説を読まされてしまったので、お口直しをしなければなりません。
というわけでニール・ケアリーシリーズの最終作。今回はシリーズをシメるための、後日談的な趣もある小品。メインの事件はあるけど、それもニールが背負ったものとの決着を導くためのもの。
物語としてのスケールは小さいですが、もうコント小説と言ってしまってもいいような、全編に満ち溢れて零れてしまいそうなユーモア・センスが、なんとも幸福なひとときを提供してくれます。

《「二、三日で戻るから」/「わーい」ちっともうれしくなさそうな声。/「あの……おみやげは何がいい?」/「元気な精子」》(19p)

…トバすなーw
それぞれ異なった手法で描かれる3組のカップル。最も重要な一組は完全なハッピーエンドを迎えるというわけにはいかなかったけど、その予兆が仄見える、絶妙なホロ苦さが素敵でした。ラスト。
この愛すべきシリーズの見事な着地は喜ぶべきことだと思うけど、この素敵に「へんてこ」な舞台でホンイキの長編書いたらヤバかったべな…というのは愉しい想像。

《しかし、へんてこ度の選手権などというものがあったら、ラスヴェガスがぶっちぎりの第一位に輝くだろう。/(中略)/そもそも、モルモン教徒が開拓した州に、つむじ曲がりというあだ名のユダヤ人ギャングが街を興したのが、へんてこ史の始まりだった。その男がみずからカジノ第一号をこしらえて、付けた名前が……<フラミンゴ>。/砂漠の真ん中で。/ピンクの大きな水鳥の名を。/それも、アフリカの水鳥の名を。》(38p)

作品の評価はB。

砂漠で溺れるわけにはいかない砂漠で溺れるわけにはいかない
ドン ウィンズロウ Don Winslow 東江 一紀

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