urt's nest

ミステリとかロックとかお笑いとかサッカーのこと。

米澤穂信『さよなら妖精』創元推理文庫

2006年07月06日 | reading
ネタバレ注意。

ラストの余韻は圧倒的である。あまりにも苦く、哀切なこの物語の終焉をどういう言葉で評価すべきか、とても難しい。単にキャラクタへの愛着だけがもたらすものではない感情への侵食作用は、この小説の「小説」としての高い達成を示すものであると思う。…そんな風にしか評価できない。俺は。
ストーリーとしては、主人公とその友人たちが、ユーゴスラヴィア人の少女マーヤとの出会いと交流を通して、日本文化に根ざした「日常の謎」を解き明かし、日本文化を再発見していくというもの。墓地に供えられた紅白饅頭の謎など、ミステリとしてなかなか面白い展開を見せてもいる。「セカイ」とやらに閉じるものとは正反対の、「世界」を再発見する、正しきライト・ノベル・ミステリの力作。
ライトノベルのレーベル以外で書くのはこれが最初だったのではないだろうか。マーヤとの別れのシーンで主人公はあまりにも「ラノベの主人公」的な思考をしていて、だからこそその挫折を経ての哀しみが胸に迫る。それはきっと、作家としての自意識が反映されて描かれた「脱却」であるのだと思います。

作品の評価はB。

さよなら妖精さよなら妖精
米澤 穂信

東京創元社 2006-06-10
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