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毎日社説:赤ちゃんポスト 幼い命救う策ではあるが

2007-02-24 00:09:11 | 国内社会
 さまざまな事情から親が育てられない新生児を匿名で受け入れる「赤ちゃんポスト」設置問題で、厚生労働省は「違法とは言い切れない」との見解を示した。この判断を受け熊本市のカトリック系病院に全国初の赤ちゃんポストが誕生する見込みだ。

 赤ちゃんポストはドイツで生まれた。望まない出産や経済的事情で育てることができない赤ちゃんの遺棄事件を防ぎ、地域社会で育てようという構想だ。熊本の病院が行った妊娠に関する電話相談で、妊娠した30代の女性が「赤ちゃんを殺してほしい」と依頼したケースもあったという。

 計画では、病院の外壁に取り付けられた扉が室内の保育器に通じている。扉を開けて赤ちゃんを置くと、重みでセンサーが感知し職員にブザーで知らせる。監視カメラは設置しない。預けられた赤ちゃんは市長が名前をつけ、里親に託されるか、乳児院や児童養護施設で育てられる。

 この設置をめぐっては「育児放棄を助長する」「悩んでいる未婚の母や赤ちゃんを救える」と賛否両論が渦巻いた。病院の設置申請に対し、厚労省と熊本市はポスト設置が「公序良俗に反しないか」「児童福祉法違反に当たらないか」などいろいろな角度から検討した。結論は「ポストに子供を置く行為は認めがたいが、違法性があるとは言い切れない」という苦渋に満ちたものだった。法務省も「確実に安全な場所なら遺棄にあたらない」という見解だ。

 ポストに赤ちゃんを置くのは、親の「捨て子」行為であることに変わりない。公序良俗に反するものではあるが、現実に赤ちゃんが遺棄され死亡する事件も起きている。幼い命を救う次善の策、緊急避難の措置として、厚労省が出した結論はやむを得ないものだったといわざるを得ない。

 厚労省は、実際に設置する際は(1)ポスト近くに「相談してほしい」のメッセージを掲げる(2)子どもが預けられた場合必ず児童相談所に通告する(3)親が考え直したときは引き取ることができるようにする--などの条件を出している。今後、同じような施設を設置する動きが出ても一律に容認せず、新生児が適切な看護を受けられるかどうかを検証し、個別ケースごとに判断するとしている。

 子どもの権利条約は「児童は父母を知る権利を有する」と明記する。ポスト設置はどの親から生まれてきたかを知る権利を奪いかねないため、子供の自我形成に問題が生じると指摘する識者がいる。一方で、養育困難な親に「育てろ」と強要しても結局破たんするだけだ、と設置に理解を示す人もいる。

 子供の虐待死事件が相次ぐ中で、赤ちゃんポストは難しい選択を迫っている。ただ、ポストの設置以前に、いま一度見直すべき視点がある。養子縁組を進める公的機関の体制が貧弱なことや婚外子に対する差別意識などだ。改善への努力を重ねたうえでも赤ちゃんポストの需要が将来広がっていくようなら、法的整備が必要になるかもしれない。

(出所:毎日新聞 2007年2月24日 0時00分)

 余録:赤ちゃんポスト
 
 五代将軍綱吉が1687年に出した「生類憐(あわれ)みの令」では捨て子の保護も定めていた。捨て子は届け出るに及ばない、拾った者が養うか、養いたい者に預けよとのお触れだ。役所は関係ない、拾った者が育てろというのだから、無責任といえば無責任だ

 ▲ただ当時の捨て子はそれほど目に余るものだったらしい。大塚英志さんの「『伝統』とは何か」(ちくま新書)によると、これも江戸時代には捨て子がさして罪悪視されず、貰(もら)い子制度と表裏一体をなしていたことの表れという。捨て子が激減したのは明治後半から大正時代という

 ▲同著では、この捨て子の減少と入れ違いに、母子心中が昭和初期に急増したことにも注目している。と、そんな昔の経緯を振り返ってみたくなったのも、親の育てられない新生児を匿名でも引き受ける「赤ちゃんポスト」が設けられるというからだ

 ▲熊本市の慈恵病院が計画していたこのポストの設置をめぐり厚生労働省が「違法性はない」と容認する判断を示したのである。もちろん「赤ちゃんの遺棄はあってはならない」とし、これはあくまで個別のケースについての判断だと念を押している

 ▲多くの人の胸をよぎるのは、これでは無責任な親の新生児遺棄を助長するという懸念である。すでに80カ所の赤ちゃんポストのあるドイツでも、これを制度化しては育児放棄の歯止めがなくなるとの声も大きく、法制化が進まないのもよく分かる話だ

 ▲ただこの世のルールをめぐる論議は、やって来た赤ちゃんのあずかり知らぬことだ。まず何より先に救える命なら救いたいという病院の気持ちは貴重である。どんな境遇の赤ちゃんであれ、新しい生命を「ようこそ」と迎え入れるのは、この世の大人すべての責務ではないか。

(出所:毎日新聞 2007年2月24日 0時00分)
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