大ホールの末席ゆえに会場を俯瞰しうるを楽しんでいる(「星座」)
わが意思にそぐわざること知らしめて雨が激しく硝子窓たたく(「運河」)
捨つべきは何と何と何みずからに問いつつ歩め 風は湿れど(「星座」)
硝子戸に映すわが顔表情の乏しき上を甲虫が這う(「運河」)
戦場は海のかなたにありぬべし青また青の連なりの果て(「運河」)
断定を避けつつ話す男らの罪あるごとき声を聞きおり(「運河」)
一生になし得ることのいかばかり楡の古木は夕映えのなか(「運河」)
クレソンを食むとき著き匂いしてまた蘇るひとつ記憶は(「運河」)
聞きとれぬ速さに物を言う人がうつむきながら眼鏡をはずす(「星座」)
こは誰の鋭き声かと思いつつ演壇を見ずに杯を乾す(「星座」)
かの人は風に形があると言う街路樹の葉の騒ぐ真昼間(「運河」)
風強く眠れぬ夜に思いおりグレゴリオ暦のその由来など(「運河」)
< 2009年6月に神奈川県立多摩高等学校20期同窓会ブログに投稿するため、最近作より選んで用意したもの >