岩田亨の短歌工房 -斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・短歌・日本語-

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『短歌』6月号 特集「昭和90年」

2015年05月28日 23時59分59秒 | 総合誌・雑誌の記事や特集から
『短歌』2015年6月号の特集は「昭和90年」だった。昭和は64年まであったが、最初と最後の1年はわずかだった。実質的には62年余り。

 歴史学を専攻した身として、言わせてもらえば、「昭和90年」と言うのは余り意味がない。元号は天皇の在位期間に対応したもので、「帝王が時間を支配する」という中国の思想に基づく。

 だから一言で「昭和」と言っても時代が全く異なる。

 初期の20年は「戦争の時代」。満州事変に始まる15年戦争の時代だ。

 次の15年は「戦後の焼け跡と、経済復興の時代」。日本が冷戦西側陣営となる選択をした時代だ。

 続く13年は「高度経済成長の時代」。日本がGNLP世界第2位となった時代だ。

 最後の10年は「バブルと不景気の時代」。平成を含めて「失われた20年、30年」と呼ばれる。

 この時代のどこに焦点をあてるかで、その歌人の感じ方の違いが現れる。


 佐佐木幸綱は「煙草の時代」という。永田和宏と坂井修一は「科学技術の進歩や、社会の変化」に焦点を絞っている。岡井隆は「身辺の回想」をしている。

 岡野弘彦、高野公彦、馬場あき子、篠弘、清水房雄、尾崎左永子、高野公彦、小池光、岩田正、小島ゆかりは、戦争体験を採り上げている。

 これもそれぞれ比重が異なるが、岡野、馬場、清水、高野、篠、岩田、尾崎の7人は、戦争体験を、短歌やエッセイに表現している。

 現代の安倍内閣の政策を意識しているのだろう。篠は「歌人九条の会」、馬場と岩田は「万葉九条の会」の活動をしている。時代に真向かい、異議申し立てをしている。


 ここで注目したのは尾崎左永子だ。作品7首は自分の戦争体験を、強い当事者意識で表現している。そしてエッセイは戦争中の恐怖を語り、「それにしても、戦争絶対反対」とまで言い切っている。

 尾崎はかつて「8・15を語る歌人の集い」で、「私は戦争反対を声高に言う立場ではないが、戦争は嫌ですね。」と述べた。「厭戦」ではあったが「反戦」ではなかった。その尾崎に「反戦」を言わしめるほど、現在の日本が危ない状況に来ているという事だろうか。

岡井隆は作品で一首だけ戦争に触れているが、永田和宏、米川千嘉子、坂井修一、佐佐木幸綱は全く触れていない。少しは触れてもよさそうなものだと感じた。


戦後、佐藤佐太郎は「社会性がない」と批判された。しかし、佐藤佐太郎の薫陶を受けた尾崎左永子が最もハッキリとものを言っているのは、何とも表現のしようがない。



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