岩田亨の短歌工房 -斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・短歌・日本語-

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唐招提寺の歌:佐佐木信綱の短歌

2010年12月10日 23時59分59秒 | 私が選んだ近現代の短歌
・秋さむき唐招提寺の鴟尾(しび)の上に夕日は照りぬ山鳩の鳴く・

 「新月」所収。1909年(明治42年)作。

 先ずは読みから。唐招提寺は奈良時代の創建で鑑真の開いたもの。日本に渡ってくる困難さは井上靖の小説「天平の甍」でよく知られており、この寺に所蔵される「鑑真和上像」も国宝として著名である。

 それから「鴟尾(しび)」。屋根の棟木の両端に据えられる瓦。「鬼瓦」と同じ位置だが、それより大きい。空につきだす様態になる。さらに巨大化すると「シャチホコ」になる。魔除けの意味がある。

 さてこの一首。万葉学者の作者らしく、重厚でゆったりとした響がまず第一の特徴である。また旧派和歌にはない新鮮さがある。「唐招提寺」「鴟尾」「山鳩」と読み込まれた名詞を見ただけでもそれが理解できよう。

 さらに唐招提寺金堂の屋根に焦点が集中されているのも、特色といっていいだろう。


 本林勝夫の作品評をいくつか抜粋しよう。

「当時の旅の歌としては、重厚かつ清新な一首。・・・父弘綱の家の学問をうけ旧派の歌から出発した人で、明治20年代の中頃からしだいに新派に移った。・・・和歌に対する古典的な教養が重厚で軽くすべらない歌調を生みだしているところに特色がある。」

「重厚で破綻のない作風は、和歌の骨法をよくとらえたものということができる。」


 新境地を拓く上で伝統を踏まえ、咀嚼することの重要さを教えてくれる一首である。

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