弁護士辻孝司オフィシャルブログ

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死刑廃止への道~京都女子大学公開講座 11.24~

2012-11-24 20:17:04 | 社会・経済

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京都女子大学で開催された公開講座 「死刑廃止への道」に参加してきました。

世界的に死刑廃止への流れが強まる中で、日本でも廃止への道が開かれるのかを、
宗教、法律、心の観点から考えるという講座で、3人の講師の先生がお話しされました。

1 死刑廃止に向けて : 京都女子大学現代社会学部 秋本勝教授 

2 法律的に考えた死刑存廃問題 : 東京理科大学理学部教養学科 三土修平教授

3 人は変われる 詩が開いた心の扉 : 作家 寮美千子氏 

という内容です。 
  
秋本教授からは、
世界的には死刑廃止国が139カ国(事実上の廃止国含)に対して存置国は58カ国であること、存置・廃止のそれぞれの理由、

日本でも725年に聖武天皇によって「死刑廃止の詔」が出され、818年に嵯峨天皇が死刑廃止を徹底した後は1156年に保元の乱で源為義が斬首されるまで300年以上にわたって死刑が廃止されたこと

などが説明されました。

また、日本では国民の大多数が死刑存置を支持しているとされる世論調査の結果にふれ、
フランスで死刑が廃止されたとき、時のバダンテール法相の

「民主主義と世論調査を混同してはならない。民主主義は世論に追従するものではない。政治家が自分の政治的見解を世論に追従させるのは、デモクラシーではなく、デマゴジーである。」

との発言が紹介されました。

被害者遺族の感情にも触れ、死刑によって報復感情は満たされても、それだけでは解決しない。悲しみや喪失感は続く。これに寄り添う手だてが必要であると話されました。

最後に、親鸞の言葉

「何事もこころにまかせたることならば、往生のために千人殺せと言はんに、すなわち殺すべし。しかれども、ひとりにてもかなひぬべき業縁なきによりで害せざるなり。わがこころの善くて殺さぬにはあらず。また害せじと思ふとも百人千人を殺すこともあるべし。・・・さるべき業縁のもよほさば、いかなるふるまひもすべし」 
が紹介されました。

殺す人が悪人で殺さない人が善人ではない、
「業縁」があれば殺す、「業縁」がなければ殺さない、
過去の出会い、環境や行動によって殺す、殺さないが分かれるのであって、
心が善いか悪いかで殺す、殺さないが分かれるわけではないという意味だそうです。

  

三土修平教授は、経済学がご専門ですが、東大寺で得度もされ、大学では教養学科で理系の学生に社会的な問題を教えておられるそうです。

三土教授からは、被害者保護と死刑存置が結びつくのか?という問題意識から、
木下恵介監督の映画「衝動殺人、息子よ」を紹介され、被害者が刑事裁判においてないがしろにされてきた実状が紹介されました。

わかりやすく刑事責任と民事責任についての説明があり、
刑事責任は社会全体からの制裁として行われること、
殺人などの事件では刑事責任は科されるが民事責任としての損害賠償がなされないことがほとんどであること、犯罪被害者給付金ができたがまだまだ不十分であること、
そのような状況の下では「死んで償え」という考えが盛んになることにはやむを得ない面があると話されました。

最後に、孔子論語の中から、

悪意に対しては理性で応じる、善意に対しては善意で応じるべきである

という話が紹介されました。

    
 
寮美千子氏は長編小説「楽園の鳥」で泉鏡花文学賞を受賞した作家さんです。

奈良少年刑務所で社会性涵養プログラムの講師をされています。

はじめに講師の依頼を受けたときは、少年受刑者のことが怖いという気持ちがあったけれど、刑務官から過酷な環境で育ってきた少年がほとんど、加害者になる前に被害者であった子どもがほとんどと教えてもらったそうです。

プログラムでは、寮氏の絵本を声に出して読んで、最後は少年たちに絵本の中の役になって朗読してもらう、そうするとまわりが朗読した少年に拍手してくれる。

初めてほめられることに、とても効果があるそうです。

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プログラムでは、朗読の次に、詩を書いてもらうそうです。

私もそうですが、詩を書けと言われても簡単には書けません。
寮氏は、少年たちに、つぶやきでもいい、愚痴や悪口でもいい、好きなことを書いて心の扉を開いてもらうそうです。

それでも詩を書くのが難しい少年には、「好きな色を書いてきて」と言うそうです。
そうしたところ、ある少年が、「雲」というタイトルで詩を書いてきました。それが、

「空が青いから白をえらんだのです」

というたった1行の詩だったそうです。

この詩がどうして生まれたのか、ぜひ、

奈良少年刑務所詩集「空が青いから白をえらんだのです」(新潮文庫)で読んで下さい。

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人から大切にされることによって、感情や人間の心を取り戻す。

そこから初めて、償う心が生まれてくる。

閉ざされた心のままでは償う心が生まれてくることはない。

変わらなかった少年は一人もいない。

寮氏が熱く訴えられました。
  
会場に、兄を強盗に殺された遺族の方が来ておられました。
事件からずっと犯人を憎み、死刑制度も当然だと思っていた。
でも、だんだんと死刑に対する考えが変わってきた。
そういう意見を言えないことがつらいと語っておられました。
とても重い言葉でした。
 
私たちのような実務法律家、法学者、宗教、文化、行刑に関わる人たちなど、様々な分野から問題提起をすることが重要だと感じました。

「空が青いから白をえらんだのです」 早速、買いました!

寮美千子氏のHPはこちら。 http://ryomichico.net/

  

三人の先生方の話は、どれも刺激的で、エネルギッシュで、感動的でした。

   

 


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