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台湾訪問記その14・死刑制度廃止検討委員会視察 2019.9.2.-9.4 -法務部訪問

2019-09-22 13:37:02 | 日記・エッセイ・コラム

台湾視察の最終日は、法務部(日本の「法務省」を訪問してきました。

【玄関前が工事中でした】

 

法務部では、法務部政務次長(日本でいう「法務省副大臣」です。)が対応して下さいました。

また、私たちが、死刑制度に状況について知りたい、死刑囚の処遇について知りたいというリクエストをしていたことから、

法務部矯正署長(刑務所での処遇の最高責任者です。)、4名の検察官(+通訳の方)が出迎えてくださいました。

 

【陳明堂法務副大臣です。】

死刑のことについて、陳副大臣自らが詳しく説明して下さったのが驚きでした。

日本で副大臣というと、非専門家で、官僚に教えてもらわないと何もできない国会議員がなっているというイメージですが、陳大臣は検察官からのたたき上げの方です。

ですので、私たちからの質問にも、周囲の部下にほとんど確認することもなく答えておられました。

陳明堂大臣のプロフィールはこちらです。

 

陳副大臣の話は次のようなものでした。

台湾では、死刑はステップバイステップで廃止の方向にある。

法務部内にも死刑廃止を検討するチームがあり、国連自由権規約を国内法化したのでそれに従って検討を進めている。

今は、絶対的死刑(法定刑に死刑しかない罪名)はなくなり、すべて相対的死刑(死刑以外の刑罰を選択できる)になった。

今、法律上、死刑が残っている罪名についても死刑の必要性を検討している。死刑となる罪名を増やしてはならないと考えている。

捜査・審判(裁判)・執行の過程でも慎重にし、なるべく早い段階で精神鑑定も実施している。

実際に執行数はとても少なくなっている。

 

蔡英文政権になって、2人の死刑囚の執行をした。

2016年の執行はMRTで怒った大量無差別殺人事件、精神鑑定も行われて問題ないということで執行された。

2018年の執行は妻と子の二人を殺害した殺人事件

どちらも凶悪な事件で、世論の死刑にしろという声が強かった。

 

2006年以降、死刑執行は慎重になった。

死刑になる事件は、必ず最高裁まで審理が行われる。

判決が確定すると、訴訟記録はすべて最高検に送られてくる。

最高検で再審・非常上告の可能性を審査し、それらの可能性がないということになれば法務部長(法務大臣)のところに記録が送られてくる。

法務部長は参事に事件を審査させ、参事はその結果を法務部長に報告する。

さらに、実際に死刑を執行するためには、再度、再審、非常上告、憲法裁判の可能性がないか、精神状態に問題がないかの審査を行う。

そして、情状を考えて執行するかどうかを判断する。

総統には恩赦の権限があるので、総統にも執行に付いてお伺いを立てることになる。

そこまでして、すべて問題ないということになって、初めて執行される。

執行は、高等検察庁の検察官が担当している。

(実はこういう具体的な手続の流れは日本ではブラックボックスの中にあります。陳部長がスラスラと説明してくれたことは驚きでした。)

 

【黄俊棠矯正署長です。】

矯正署長から、死刑確定者の処遇について教えていただきました。

死刑確定者については、精神状態の安定のための処遇をしている。

教誨を実施し、民間の心理士、有識者、学者、弁護士などのボランティアが個別教誨を行っている。

団体での宗教協会も行っている。

動物を飼うことも認められており、それによって生命を重視するという教育を行っている。

また、刑務所で作成した生命に関する番組も見てもらっている。

図書を借りる制度もあるし、一般受刑者と一緒に音楽や書道といった活動にも参加している。

修復的司法も取り入れている。

テレビ・ラジオも持つことが出来るし、写経をしている人もいる。

医療については、一般市民と同じ健康保険が適用されている。

死刑確定者については外部交通は緩やかで、弁護士の面会には制限はないし、家族は週2回(1回30分)の面会ができ、必要があれば増やすこともある。

春節や母の日には特別な面会が認められていて、アクリル板や格子越しではなく、直接会うこともできる。

携帯電話での面会も可能だということです。

 

【ドラマに出てくるようなイケメン検察官です。東大に留学していたということで日本語ペラペラです。】

 

陳副大臣からは、執行のことについてさらに教えてもらいました。

執行する時期は秘密で、本人にも家族にも事前には知らせず、執行後に家族に通知し、マスコミに公表するそうです。(日本と同じです。)

死刑廃止連盟などから事前に知らせるように要望されているが、事前に知らせてしまうと再審や非常上告を出されてしまって執行できなくなる、だから知らせることはできないということです。

(とても正直な説明です。再審中、非常上告中は死刑は執行しないということです。日本でも事前告知はされませんが、その理由について説明されることはありません。また、日本では、最近は、再審請求中でもお構いなしに執行されてしまいますので、再審を出されると困るから事前告知しないという理由は通用しなくなっています。)

米国では本人に事前告知するし、執行時期が公表もされているということは承知しているが、台湾ではそのようにはなっていないと、海外のこともよくご存じでした。

(諸外国の死刑の状況について、法務部でいろいろと調査・研究されているのだと思います。)

7、8年前までは、執行後の臓器提供が出来たそうですが、臓器提供するとなると事前に医師に執行を知らせることになり、マスコミにも情報が漏れてしまうので、今は臓器提供ができなくなったということです。

 

【訪問記念に刑務所で受刑者が作成した魔除けの壁飾りをいただきました。シーサーみたいな感じです。)

 

そして、最後に、「法務部としては死刑廃止に進んでいきたい」とはっきりとおしゃっていました。

台湾法務部のHPを見ると死刑廃止に関する台湾法務部の方針」が公表されています。

基本方針の前文は次のとおりです。

「死刑は報復の理論に基づいており、国家権力が有罪判決を受けた犯罪者から生きる権利を奪い、社会から永遠に引き離します。

死刑は残酷であり、刑罰は教育を包含するべきであるという概念に反するため、死刑の廃止は徐々に世界的な傾向となっています。

多くの民主的先進国は、死刑を完全にまたは条件付きで廃止しました。

死刑を完全に廃止するかどうかは、社会の発展、法と秩序の概念の成熟度、国民のコンセンサスとサポートにかかっています。

近年の世論調査では、回答者の約80%が一貫して死刑の廃止に反対しています。

ただし、量刑の上限の引き上げや終身刑の仮釈放の条件などの補完的な措置が含まれている場合、反対は40%に低下します。

補完的な措置と教育を考慮すれば、報復としての死刑についての一般の支持は明らかに方向転換され、

死刑の段階的廃止について一般的なコンセンサスが形成される可能性があります。

 法務省は広範な議論と研究を用いて廃止に関する一般的なコンセンサスを形成し、しかる後、既存の法律に必要な改正を提案して、治安を維持しながら人権保護を拡大します。」

 

代替刑や教育刑について全社会的議論と研究を重ねて、国民の理解を促進して、法律上の死刑廃止をしようということですね。

台湾では、こうした死刑廃止の方向性を法務部が明言しHPで公表しています。

日本より相当進んでいます。

台湾は、中華人民共和国との関係があるため、国連に加盟することができていません。

正式な国家として国交のある国はわずかです。(最近もソロモン諸島、キリバスと国交が断絶されたと報道されています。)

そうであるからこそ、台湾は国際社会の中で国家として確固たる地位を確保するため、国連人権規約を国内法として整備し、国際的にもっとも進んだ人権水準を実現しようとしています。

戦後、間もなく世界の中で経済的に確固たる地位を築いてしまったがために国際社会の声に耳を傾けずガラパゴス的人権保障で良しとしながら、他方で国連の非常任理事国入りを常に伺う日本とはずいぶんと違います。

 

記念写真】

法務部のお決まりのポーズは右手親指を立ててGood!という感じですね。

でもイケメン検事は、そんなポーズをしてない....

 

 

今回の法務部視察は、前日にお世話になった政治大学の林超琦副教授のお兄様である林超駿教授(台北大学法律学院)のアレンジです。

私たちの視察スケジュールをご覧になって、死刑廃止を推進する立場の人ばかりから話を聞くのではなく、死刑を行っている側の人の話も聞いた方がいいでしょうとアドバイスをいただき、アレンジまでしてくださいました。

林超駿教授は、以前は台北大学法学院長(法学部長)として中央大学法学部と学術連携協定を締結されていますので、中央大学の方はご存じかもしれません。

林兄妹のお父様である林永謀氏は元大法官(最高裁判所・憲法裁判所の裁判官)だったということで、法曹の世界では一目置かれているようです。

ということで、私たちのためにわざわざ副大臣を筆頭にそうそうたるメンバーがお出ましいただき、厚遇していただくきました。

日本で、私たち京都弁護士会の死刑廃止検討委員会のメンバーが霞ケ関の法務省を訪問して、死刑について話を聞きたいと申し入れたらどうでしょう?

きっとまったく相手にしてもらえないでしょう。

理由付けて断られるか、返事すら来ないか、あれこれ厳しい条件を付けられるか、質問してもろくに答えてもらえないかというところでしょう。

それが、台湾という外国で、副大臣まで出てきて話をしてくれたということは本当に貴重な経験です。

林超駿教授、本当にありがとうございました。

 


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