弁護士辻孝司オフィシャルブログ

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台湾訪問記その10・死刑制度廃止検討委員会視察 2019.9.2.-9.4 -羅乗成政務委員

2019-09-19 17:45:53 | 日記・エッセイ・コラム

死刑廃止連盟との懇談会には、行政院政務委員である羅乗成弁護士もお越しくださいました。

「行政院」というのは、日本の「内閣」に相当します。

そして、政務委員というのは、「無任所大臣」(特定の省庁のトップではなく、各省の大臣が所管しない事務を執り行う国務大臣のことです。)です。

要するに、「大臣」というとんでもない立場の人です。

羅大臣は、「大臣」でもありますが、もともと弁護士(今も弁護士)でもあり、えん罪問題や死刑問題に取り組んでこられた刑事弁護人です。

羅弁護士の弁護士としての姿勢は、法廷で高い品位を保ちつつも、弁護人として、被告人の権利を守るために、裁判所、検察官に毅然と立ち向かう方だという方だそうです。

そして、以前は、台湾イノセンスプロジェクトの理事長も務められていました。

ということで、今や「大臣」というVIPになられた羅弁護士が、私たち視察団が来るということでわざわざ時間を作って、話をしに来てくださったということです。

なんて気さくな大臣なんでしょう。

日本の国務大臣は、霞ケ関やってきた京都の死刑廃止派弁護士になど絶対に会ってはくれません。

 

【お顔は「大臣」っぽいです。】

 

羅大臣(弁護士)も、台湾における死刑廃止に向けての状況を話してくれました。

 

台湾でも、日本と同様に死刑廃止への道のりは長い、ステップバイステップで進めていくしかない。

現段階では、

① 法律上、死刑が適用される罪名を少なくしていく

② 死刑求刑を少なくする

③ 死刑の執行を少なくする

この3つが重要だということです。

①死刑適用罪名を減らすという点については、過去にはあった絶対的死刑(有罪になったら必ず死刑になる犯罪)はなくなった、人の生命を奪っていなくても死刑にできる犯罪については死刑を外していくべきであるとお話になっていました。

ただ、世論は死刑廃止への反対が多く、立法する立場にある国会議員(立法院委員)は選挙を気にして、「死刑廃止」と言うことが難しい。

飲酒運転の交通事故で悲惨な事件が起きた時には、飲酒運転致死の事件にも死刑を適用できるようにすべきだという世論が巻き起こった。

それで、飲酒運転致死に死刑を適用する法案を法務部(日本の法務省)が作ってきたが、行政院で審査して廃案にした。

②の死刑求刑を少なくするという点は、現実に少なくなってきている。

国連の自由権規約を国内法化したことや、2013年の最高裁判決で死刑適用の厳格な基準を定めたことが効果を上げてきている。

今では、人の生命とは関係のない覚せい剤事件では死刑は法律上は可能性があるが、実際に死刑判決が下されることはない。

③については、執行されるまで、すべての過程において適切な弁護がなされなければならない。

死刑が問題となる事件では、弁護士は必ず3人以上、その中にはベテラン弁護士、死刑廃止の理念のある弁護士がいなければならない。

最近は執行数は減少していて、2018年は1件だけだった。

執行しない年を積み重ねていけば、韓国のように事実上の廃止国になれる。

 

2015年に、台湾の原住民がカップルを殺害して、放火して死体を遺棄したという事件があった。

この事件では、3人の弁護士が、検察官に対して、被告人の生い立ち、成育環境、人権問題、すべてを調査して、死刑を求刑しないように検察官の説得を試みた。

その結果、検察官は死刑を求刑せず、無期刑を求刑した。

上訴されたが、心理鑑定、精神鑑定もして、無期求刑だったが、25年の有期刑になった。 

 

➀②③の3つの方向は、立法、司法(求刑、判決)、執行(行政)においてそれぞれ減少をしていくということ。

穏やかでゆっくりだが死刑を終局させる方向に持っていける!

と力強く話して下さいました。

 

羅弁護士は、現在は蔡英文内閣の一員である大臣であり、その発言には極めて重いものがあります。

それにもかかわらず、日本から来た弁護士たちに、これだけの思いを話して下さいました。

羅大臣には、本当に感動です。

そして、尊敬すべき刑事弁護人です。

 

世論に逆らえず、人権を守ることが難しいという環境は台湾も日本と変わりません.

しかし、羅弁護士ような死刑廃止の立場が明らかな人を特命大臣に任命し、国連の人権規約を国内で実現しようとする台湾政府の姿勢には、日本政府よりもずっと死刑廃止に近いものがあります。

 

 

 

 


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