8月30日に京都地裁ですばらしい判決がありました。
窃盗で服役と出所を繰り返していた知的障碍者の男性が、再度、軽乗用車を盗み、常習累犯窃盗で裁判にかけられていた事件で、男性が違法性を意識せず、行動を制御する能力もなかったとして、心神喪失を理由とする無罪判決が言い渡されました。
知的障害のために窃盗などの軽微な犯罪を繰り返してしまう人がいます。
盗むことが悪いことだとは一応理解していても、それが自分の行動と結びつかなかったり、欲しいと思う衝動をコントロールできなかったりするために、窃盗を繰り返してしまうそうです。
刑務所を出所後、頼るべきところもなく、所持金もないため、すぐに万引きなどをして、またすぐに刑務所に戻ってしまう高齢者も増えています。
こうした事件に対して、再犯者、累犯者ということで、裁判にかけて有罪判決を下し、刑務所に送るという無為なことを繰り返しています。高齢化社会が進むにつれて、益々、こうした事件は増えていってしまうでしょう。
しかし、こうした人たちは、社会の中にきちんと居場所や生きていくための福祉的方策があれば、本来は犯罪などしなくて済む人たちです。
しかし、社会にそのような方策がないため、犯罪をするほかなく、刑務所が福祉施設として機能してしまっているのです。
最近、ようやく厳罰化では問題が解決しないということが意見が出始めて、司法と福祉の連携ということが言われるようになりましたが、まだまだ判決で無罪とした例は極めて珍しいといえます。
この判決は刑事司法に一石を投じる判決になると思います。
この判決がリーディングケースとなって、罪を犯した人への社会の対応が変化していくことを期待します。
ところで、京都は心神喪失や心神耗弱という理由で責任能力が否定された事案がけっこうたくさんあります。
裁判員裁判でも、京都ではすでに2件の心神喪失無罪が出ています。(この2件も含めて全国でも3件しか心神喪失無罪はなかったはずです。)
私が弁護人を担当した殺人事件でも、つい先日、心神喪失で不起訴処分になりました。
一昨年にも殺人未遂事件で心神耗弱で不起訴処分となりました。
京都は伝統的に精神科医療が進んでいたり、京大病院や洛南病院などに刑事司法をよく理解している医師がいることが大きいのかもしれません。
弁護士会でも精神科の医師の方を招いて勉強会などしています。
【京都新聞 2013年8月31日朝刊】<o:p></o:p>
累犯障害者に無罪 軽乗用車窃盗京都地裁判決「違法性理解せず」<o:p></o:p>
『 軽乗用車を盗んだとして、常習累犯窃盗の罪に問われた京都市伏見区の無職男性(36)の判決が30日、京都地裁であった。市川太志裁判官は、精神鑑定で重度の知的障害と認定された男性は、心神喪失の状態で刑事責任能力はなかったと認定し、無罪(求刑懲役3年)を言い渡した。<o:p></o:p>
男性の弁護士の西田祐馬弁護士によると、男性は自動車盗などで服役と出所直後の再犯を4回繰り返していた。弁護側は公判で「収容施設での矯正教育は効果を発揮しておらず、刑罰ではなく福祉による支援が必要」と訴えていた。<o:p></o:p>
西田弁護士は、重度の知的障害のみを理由に心神喪失が認められるのは極めて異例とし、「判決は累犯障碍者の処遇について司法と福祉の橋渡しの重要性を示した」と評価している。公判では、知能指数が25、精神年齢が4歳7か月で重度の知的障害と認定された精神鑑定の評価が争点となった。検察側は男性に計画性や違法性の認識があり、心神耗弱にとどまるとし、弁護側は「障害で善悪の判断能力がなく、車を運転する欲求が抑えきれなかった」と心神喪失を主張していた。市川裁判官は、犯行は稚拙で場当たり的と判断し「重度の精神発達遅滞で自動車盗が違法行為だと真に理解できておらず、行動を制御する能力もなかった」と結論付けた。<o:p></o:p>
京都地検は「判決内容を精査し、上級庁とも協議の上、適切に対応したい」としている。』<o:p></o:p>
社会の流れ反映<o:p></o:p>
『石塚伸一・龍谷大学法科大学院教授(刑事法)の話 累犯の障害者や高齢者に対し、福祉の支援の必要性が指摘される社会の流れを反映した判断だろう。男性に社会で受け皿があるのなら、再び服役することで支援が断ち切られる恐れもある。検察は福祉につなげることを考慮し、起訴猶予とする選択もあり得たのではないか。』<o:p></o:p>
心神喪失と心神耗弱<o:p></o:p>
『精神障害などにより善悪の判断や行動のコントロールができない状態を心神喪失、不十分な状態を心神耗弱という。刑法39条で、心神喪失者の行為は罰せず、心神耗弱者の行為は刑を減軽すると定められている。』<o:p></o:p>
今後、このような犯人をどのように処遇するかまでを考えなくては片手落ちというものですね。
このままでは被害に遭った方が“運が悪い”“泣き寝入り”ということになりそうです。