弁護士辻孝司オフィシャルブログ

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教誨師 堀川惠子 講談社2014年

2014-10-06 14:54:49 | 本と雑誌

「教誨師」の紹介です。

本書は、14歳の夏にヒロシマで被爆した教誨師渡邉普相さんから、作者に託された遺言ともいえる作品です。

 

死刑確定囚は希望すれば宗教家による教誨を受けることができます。

しかし、その教誨でどのようなことが行われているのか、死刑確定囚がどのような話をしたのかは秘密であり、具体的な内容が教誨室の外に出ることは通常はありません。

教誨師は死刑の執行に立ち会います。しかし、誰がどのように執行されていったのかは秘密であり、執行の様子が執行室の外に出ることはありません。

渡邉さんはその死後にのみ公にすること条件にその秘密を作者に告白します。

堀川さんに対して、死刑確定囚の様子、死刑執行の様子が具体的に生々しく語られます。

渡邉さんは、若くして教誨師となり、死刑により命を奪うことを宣告された人々と向き合います。
浄土真宗の教え「悪人正機」の教えを伝えることで、死刑を執行される人々に「救い」を与えようと熱意を燃やします。
しかし、渡邊さんは自らの職務に懊悩し、やがてアルコールに溺れ、アル中で入院まですることとなります。
その事実を死刑確定囚たちにさらけ出して初めて渡邉さんは気付きます、自分の教誨は一方通行だった、大上段に構え、何かを伝えなくてはと焦ってばかりいたと、
教義を教え込むことよりも、ほんのひと時でもほっと出る時間、考えることのできる「空間」を作ることこそが大切なのだと。

事実を知らなければ、私たちは死刑について意見を持つことなどできません。
本書を通じて伝えられた事実は、死刑の問題を考える上で極めて重要です。
死刑確定囚のこと、死刑執行のこと、執行する人たちのこと、ぜひ、本書を読んで知っていただきたいと思います。

渡邊さんの告白を、本書にまとめ上げた作者の筆力にも感嘆せざるを得ません。

渡邉さんは、龍谷大学で学生生活を送っていたそうですが、当時の下宿は、どうやら私の実家のすぐ近くのようです。

まだ、私が生まれる前のころの実家近くの様子が伝わってきました。