循環型社会って何!

国の廃棄物政策やごみ処理新技術の危うさを考えるブログ-津川敬

国庫補助金返還が不可避となった自治体の損害賠償請求(上)

2008年11月13日 | 廃棄物政策
◆会計検査院の手が自治体に
 本年(08年)11月7日、会計検査院は厚さにして30センチもある平成19年度検査報告書を麻生(暫定)首相に手渡した。麻生はそれをどう扱うべきか、口をひん曲げ、当惑げにそれを受け取った。
 報告案件の総数は全省庁および関連機関分を合わせ981件。金額にして1,253億6,011万円だった(指摘金額)。このほかに問題ありとして取り上げた、いわゆる背景金額が23件。307億円強に上るという(背景金額とは「不合理な支出」を生じさせた原因が法令や制度などにあるような場合を指す)。
その中で注目すべきは86%に及ぶ省庁分のうち環境省分が4件あったことである。うち3件はし尿処理施設関連だが、残り1件は一般廃棄物処理施設だった。そこに投じた国庫補助の金額は「計画どおりの発電ができず、補助の目的を達していない」として環境省とNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の補助金額3億268万円を「不当な支出」とした案件である(内訳は環境省分が2億4,793万円、NEDO分が5,475万円)。
 廃棄物処理施設で補助金全額を不当としたケースは異例であり、地元マスコミは国庫補助全額返還、補助事業に伴う市債4億2,000万円の繰り上げ償還も求められる可能性があるとも報じている(渡辺洋子氏主宰「東京23区のごみ問題」参照)
この事件については小生のブログ(本年8月26日付)で一度紹介した。「自治体がメーカーを訴える」というテーマで、当時すでに南日本新聞は2月20日付けで「いちき串木野市が補助金返還へ・会計検査院が可能性示唆」と報じていた。
 以下、ブログ全文を再掲しておく。

小型発電所という気負い
 相手を信じて導入した小型焼却設備(メーカーは発電設備という)はまったくの不良品だった。そこで施設を開発した大学院教授、基本設計会社、施工会社の三者を相手取り約10億円を上回る損害賠償請求を起こす方針を決めた自治体がある。過去、欠陥プラントであるとしてメーカーを訴えたケースに静岡県御殿場市のRDF施設の損害賠償請求等があるものの、かなり稀有なケースといえよう。
 その自治体とは鹿児島県のいちき串木野市(人口3万1,837人)である。同市は損害賠償請求額を約10億4,700万円と算定。9月4日の市議会定例会に提案し、10月にも鹿児島地裁に起こす方針を明らかにした。
 この施設は一般ごみと肉骨粉を焼き、発生するガスで発電するというまったくの新技術である。2005年に合併する前の旧市来町(人口7,700人)が全国で初めてこれを採用し、総事業費約9億9,385万円をかけて2004年4月、稼動開始となった(焼却能力24t/日・発電能力900Kw)。
 総事業費の内訳は国の補助金が2億4,793万円、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)から6,444万円の補助、残りは起債となっている。
 施設名は「市来一般廃棄物利用エネルギーセンター」。ごみを単純焼却するのではなく、自治体が設立する小型発電所という気負いが見えるネーミングだったのだがーーー。


欠陥商品を掴まされた?
 稼動後わずか3ヶ月で6基の発電設備(1基の出力150KW)にトラブルが発生した。ガス中に含まれるタール、アンモニアが除去できないため、発電機が回らなかったというお粗末な事故である。今日まで改修工事を7回重ねたものの、ことごとく失敗し、ついに発電を断念せざるを得なかった。当初の目論見では900Kwを九州電力に売電し、年間2,000万円を維持管理費に当てることになっていた。しかしそれは幻となり、ごみの焼却量も当初計画の約3割というお寒い状況となった。会計検査院はこれまで2回、「補助金の効果が認められない」と指摘し、補助金返還を求める可能性を示唆していた。エネルギーセンター、通称エネセンは発電機能復旧の見通しがたたぬまま、現在に至っている。
 同市はトラブルの原因を専門業者に依頼して検証。その結果を前記三者に送って改善を要請したが、回答はなかった。とりあえず2006年に基本設計会社に改修工事費5,000万円の半額を支払えとして鹿児島簡裁に民事調停を申し立てたが、不調に終わった。そこで今回裁判に踏み切ることになったのである。
 
大学教授というよりビジネスマン
 新聞は個人名を出していないが、賠償請求の相手方になっているのは東京工業大学大学院総合理工学研究所の吉川邦夫氏である。もともと三菱重工業広島研究所の研究員から東京工大に移籍、1980年に助手、90年に助教授、その8年後、教授に昇り詰め、現在、前記の地位についている。
 専門分野は、エネルギー変換、高温熱工学、燃焼工学、大気環境工学であり、廃棄物処理、機械技術など著書多数。主な受賞は、米国機械学会(ASME)ジェームズ・ハリー・ポッター・ゴールドメダル(2001年)、米国航空宇宙学会(AIAA)最優秀論文賞(1999年)、学研科学大賞インテル賞(2006年)、日本機械学会環境工学部門技術業績賞(2006年)と華々しい。
 これまで規制などでベンチャーが参入できなかったエネルギーの分野において、教授はその自由化の趨勢を敏感に受けとめ、画期的な“小型ゴミ発電と熱利用”(STAR-MEET)のシステムを開発し、さらに複数の大学ベンチャーを立ち上げている。
 国立大学の教官に民間企業の役員兼業が認められたのが2000年の4月。吉川教授に(全国で5番目という)認可が下りたのは同年8月だが、すでに7月にはベンチャー企業(EMS=エコミート・ソリューションズ・東京都千代田区、藤田淡水社長)を創設している。
 2004年には、合併前の市来町にごみ発電施設を推奨し、本格稼働に入ったことは前記のとおりである。当時、市来町は浮き立っていた。「人口7000人の鹿児島の片すみの町ですが、(小型ごみ発電の)先進的な技術を導入し、それで町起こしをしていこうという考え方です」(市来町大久保幸夫町長)。
 プラズマ発電という高温エネルギー変換が専門の研究者であった吉川教授は、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(CREST)から、5年間で10億円ものの研究資金を獲得したという。
 さらなる進化を経て、いずれは、東工大発の廃棄物エネルギー利用という技術体系を打ち立てたい、という壮大な狙いもあったようだ。大学教官というより気鋭のベンチャー企業経営者である。だが、JSTから10億円の研究資金を獲得したにも関わらず結局、技術は結実せず、トラブルの決着がつかぬまま2005年10月11日、市来町は串木野市に吸収合併され、いちき串木野市が発足した。負のお荷物付きの合併であった。

責任のなすりあい
 吉川教授と並んで「被告の座」につくことになったのが基本設計と施工管理を担当した前記㈱エコミート・ソリューションズであり、実施設計と本体工事を請負ったのはすでにこの分野から撤収したという三井三池製作所。発電部門を施工したのは㈱ヤンマーである。
 すでに昨年(07年)9月13日、いちき串木野市議会に市来一般廃棄物利用エネルギーセンター調査特別委員会が設置され、開発者としてベンチャー企業に深く関わってきた吉川邦夫教授が参考人として招致された。同委員会による小型発電施設の現状、つまりなぜ発注書どおりの性能が出ていないのかという質問に吉川教授は次のように答えたという。「まず、契約については実証的性格を有する協働研究事業であり、性能が出るまで予想し得ないことが起こり得るものである」。つまり「九州の片隅の小さな町を実証試験の場にした」と悪びれもせず答えたのである。
 このあと基本設計事業者、本体工事・発電所部門事業者がそれぞれの見解を述べたというが三者それぞれに自らの立場を正当化するのみで、改善工事の提案はおろか、三者の協調体制すらとれない状況だという。以下、現地住民の一人が以下のような感想をブログに載せている。「つまるところ、今回の件はビジネスとしての契約ではなく、研究への投資として考えるべきであったことを行政側がわかっていなかったということのようです。でもそんな具合で大学発のベンチャービジネスって、ビジネスといえるのでしょうか」。
沖縄の離島といい、都市部から遠く離れた過疎の町はいいようにベンチャーの餌食になっているといわねばならない。循環型社会形成という美名の陰でーーー。

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