今度、どこ登ろうかな?

山と山登りについての独り言

・ブドー沢の頭、滝谷山

2007年12月17日 | 山登りの記録 2007
平成19年12月15日(土)
ブドー沢の頭1,658.1m  滝谷山1,659m

 昨年の11月に、南天山から滝谷山までピストンした。本当はブドー沢の頭まで行くつもりだったが、残念ながら時間切れで樹幹越しにブドー沢の頭を透かし見て引き返した。1年経った。時期的には、本当は陽の長い春がベストだろう。どうしても薮が深くて時間が掛かるこの方面。しかし、行きたい山はたくさんあって、なかなかそうもいかないのだ。

 群馬・埼玉県境については、沢山の人の記録がネットで紹介されている。最も入りやすくて一般コース化している、天丸・帳付や赤岩尾根近辺の記録は多いが、帳付以南は記録も少なく、三国峠か天丸付近から入山して縦走している県境縦走が多いようだ。ぼくが昨年入った南天山からのものも、最近はちらほら見られるようになった。しかし、滝谷山にしろブドー沢の頭にしろ、縦走の途中で通過しているもので、直接この山に登っている記録は見ていない。もっとも、単独で登るような山では無いと言うことも事実ではあるが…。滝谷山もブドー沢の頭も、群馬の山であるにもかかわらず、群馬県側から登った記録が見あたらないことは、群馬県人として、はなはだ寂しい事だった。

 2万5千図を見ると、上野村の乙父(おっち)から県境に向けて南下している神流川の支流乙父沢川西沢沿いに林道が延び、そこから県境稜線に向かって破線が続いている。ぼくはずっと前からこれが気になっていた。エアリアの西上州には「ヤブ深い」の記述があるが、それ以上の情報はない。多分、かつては山仕事道?でもあったのだろうが、今これが辿れるかどうかは分からない。そればかりか、林道だって車が入れるかどうかも不明だ。ブドー沢の頭を登り残してしまい、次回これを辿って群馬県側からブドー沢の頭を登りたいと思っていた。結局は、他の山域に行けなくなってしまった12月に入って、再びブドー沢の頭に行こうと思い立ったのだった。

 金曜の夜に家を出て、上野村に向かう。地図で目星を付けておいた乙父トンネル手前から乙父沢集落に向かい、そのまま東沢分岐を過ぎて西沢沿いの林道になった。幸い林道の状態は良好で、未舗装ながら路面も比較的段差が少なく林道終点まで入れた。林道終点は広場になっていて、真新しいコンクリート製の堰堤(間伐材を積み上げた様に見えるが本体はコンクリート)が西沢を塞いでいた。時刻は深夜の1時半。満天の星空で、気温は-2℃この時期としては冷え込んで居ない方か?シュラフにくるまり、アラームを取りあえず6時にセットして眠った。

 6時にアラームで目覚めるが、当然まだ真っ暗。快晴のようだ。もう少し寝ることにして、シュラフに潜る。6時半に起きて、パンを食べ、熱い紅茶を飲んで支度をする。結局7時20分に林道終点広場を後に、コンクリート堰堤を越えて西沢に入る。

 西沢は、初め大きなチャートがゴロゴロした普通の沢だったが、次第に両岸が狭まって岩壁の間を抜けていくようなタイトな流れになった。期待した破線の『道』はどこにも見あたらなかった。うっすらと踏み跡?が付いている所もあるが、ケモノ道か人の踏み跡か判然としない。歩きやすい所を選んでの遡行になった。岩から岩を飛び、小さな滝やゴルジュ状の箇所は巻いて先に進む。基本的には踏み跡も、マーキング類も一切無かった。堰堤を降りて直ぐにあった古い赤テープが、稜線に出るまであった唯一のマーキングだった。

 GPSで位置確認をしながら歩いているが、狭くて深い沢の中だから、場所によっては衛星を捕捉できなくて追尾不能になる。結局ほとんど稜線に出るまで余り役に立たなかった。

 ここでこの沢の位置関係をざっと説明しておきます。乙父沢川は西沢と東沢に分かれ、西沢はブドー沢の頭と帳付の間付近(西沢の頭1,609m)から発し、帳付と諏訪山の山稜に挟まれて北上し、乙父沢集落付近で東沢(帳付と天丸山の間付近が源流)と合流して乙父沢川となり、乙父集落で神流川に流れ込んでいる。ということは、帳付山と諏訪山の秩父古生層・チャートなどの岩脈を貫流しているということで、地図で見ても諏訪山の「下ヤツウチグラ」の岩峰と、帳付の岩稜が落ち込んで谷を作っているのがこの沢という訳だ。狭いゴルジュや、切り立った岩壁に挟まれて滝があるのも当然のことだった。

 堰堤から1㎞程遡った辺りが、この沢が最も狭くなり遡行が困難になる所。ここで沢は南から東に向きを変えるが、切り立った岩壁に挟まれ、小滝が連続する。最も大きな滝は20㍍くらいある。

 めぼしい滝は全部で5つ。沢の本流が角度を変える辺りにある滝が、Y字型をした7㍍くらいのもので、この滝付近は両岸が幅10㍍程に狭まって一番狭い所。諏訪山側の斜面には急角度の水流のない沢(岩壁状)が落ち、つららが幾重にもぶら下がっていた。これは危なっかしい左岸をへつって通過。
次に現れるのは、5㍍程の小滝で、飛沫が凍っている岩を飛び石にして水流の中を直登する。
 3番目は竜の口から水が噴き出しているような、水流に穿たれた樋状の岩から落ちている10㍍程のもので、右岸を高巻きして通過。ここも滑りやすいトラバースを慎重に上に出た。
 4番目はよじれて落ちる10㍍程の滝で、左岸を大きく高巻きする。この辺り高巻きする所も岩盤の沢を横切るのだが、凍っている岩の上を慎重に通過しなくてはならない。上部はスズタケの薮が深く、薮の薄い所は足場が悪くて難儀する。ここは沢の本流から30㍍くらい高い所をトラバースするので、高度感が凄く一番気を遣うところだった(帰りの下りはもっと怖かった。一番の難所で、滑ったら終わりの所…)。
 最後の一番大きい20㍍落差の優美な滝(日記に添付した写真の「乙父西沢の滝」です)は、右岸を高巻きするが、ここも崩れやすく足場の悪いトラバースは慎重に通過した。4番目と5番目の滝には、それとなく巻き道の踏み跡があるが、実際はケモノ道だろう(シカの糞が多数見られた)。

 どうにか、沢の核心部を通過すると。シオジ等の巨木が茂る広い沢になった。この辺りには昔の道らしい明瞭な踏み跡があり、散弾の空薬莢などが散乱していた。間もなく水流は消失し、落ち葉の堆積した気持ちの良い明るい斜面になる。本流に分かれて南に遡る急な薄暗い沢を見送り、更に東に向きを変えた沢は帳付側に折れ曲がっていく。振り返ると、いつの間にか山稜の間に樹林を透かして、遠くの景色が見えてきた。真正面に遠いのはぶどう峠付近の山並みだろう。右手には、帳付から派生した岩稜が急角度で落ちているのが見える。この付近で一旦無くなった水流がまた現れた。

 薄く雪が積もった急なゴロ石の広い溝を登っていく。時刻は10時38分になった。沢は全く水が無い涸れ沢になって、背後には同じくらいの高さで諏訪山と下ヤツウチグラが見てきた。その上には御座山と赤火岳の山並みが高い。左の尾根に笹の斜面が現れ、木々はいつしか細いミズナラやブナになっていた。諏訪山の見える角度からして、もう稜線は近そうだ。

 真ん中を岩稜で分かたれた分岐に出た。左のものは帳付方面に直登している。その帳付山も姿を現した。右手の沢の源頭を進む。全く薮もなく、その代わり岩盤が崩壊した岩屑でざらざらと崩れやすい急斜面になった。シカ道があるのでそれを利用して、崩れやすい急な登りにあえぎ、10時52分にコメツガの巨木とスズタケが茂る県境稜線に辿り着いた。ずっと北面の沢を登ってきたので陽射しが無くて暗かったが、県境は快晴の陽射しが心地よかった。

 稜線に出た喜びは大きかったが、登りだしてから3時間半も経っている。最初の予定では、ブドー沢の頭まで3時間あれば行けると思っていたから、西沢の遡行は思った以上に難儀だったということだ。帰りも思いやられる…。

 スズタケの薮があるとはいえ、県境稜線は西沢の登りに比べれば、もはやらくちんな道だ。直ぐにブドー沢の頭に向かう。埼玉側に両神山や赤岩尾根・オオナゲシなどの山並みが樹林越しに見える。行く手には薮に覆われたブドー沢の頭が直ぐ近く、その向こうに蟻ヶ峰や大蛇倉山が雪を積もらせた姿で見えていた。長野県方面には薄暗い雪雲が雲堤を作り、その雲のちぎれた塊がこちらに向かって飛んでくる。

 稜線はスズタケの薮がトンネル状で倒木も多いが、問題ない程度の歩き良さ。大した登りもなく、細いブナやツガ囲まれ、低木層にアセビが茂ったブドー沢の頭に11時20分に到着。全く展望もなく、落ち葉が積もった小平地に二等三角点がぽつんとあるだけの山頂だが、ここに至った喜びは大きかった。やっとここに来られたという感じ。朝からパン一個だけで、ろくに休まずに登っていたから、ここで小休止しておむすびやパンを食べた。

 木々を透かしても、ほとんど眺めはない。薄れて読めなくなりかけた「ブドー沢の頭1658.1m」のブリキの手書きプレートが三角点標石の傍らに落ちていた。木に打ち付けてあったものが、外れて落ちたのだろう。

 11時46分にブドー沢の頭を下り、滝谷山に向かう。滝谷山か帳付か、どちらにしようか迷ったが、昨年辿れなかったここから滝谷山までのルートを確かめたくて、滝谷にした。帳付も3年前の同じ頃登ったきりだが、やはり展望に乏しい山だから、どのみちどっちにしたって同じ様なものだろう。

 ブドー沢の頭から滝谷山まではコブを一つ越していく。そのコブは滝谷山側に岩のギャップがあった。笹藪の状態も同じ様で、時々両神山方面が薮越しに見える。同じように蟻ヶ峰や大蛇倉山も樹林越しに見えた。どこでも、すっきりと邪魔のない展望は得られない。ブドー沢の頭の向こう、少し群馬県側に張り出すように、いかつい帳付山が見えていた。この付近の山域で標高こそやや落ちるが、やはり帳付が、姿形からして主峰の名に恥じない立派な山容だった。

 ミズナラやツガの巨木が鬱蒼とした痩せた尾根を登り切ると、懐かしい滝谷山の山頂だった。1年前と少しも雰囲気は変わらない。樹木に遮られて眺めも無いが、それでも群馬県側の斜面の木々に枯れ木が目立ち、疎らになった木々の間から、正面に蟻ヶ峰と大蛇倉山が大きく迫った。眼下には諏訪山が低い。蟻ヶ峰の中腹には御巣鷹の尾根の慰霊の園らしい場所が見て取れる。ぶどう峠に上っている道路も見えた。

 12時56分に滝谷山を下る。長野県側から雪雲が押し寄せてきて、時折小雪が舞うようになる。この時期もう何となく陽が傾いて、行動時間も限られてしまう。ブドー沢の頭まで引き返し、1時48分にブドー沢の頭を通過。そのまま西沢下降地点まで下る。行きに付けておいた赤テープを目印に、2時丁度に西沢を下る。帰りは赤テープを全部回収しながら下った。

 登りは大変だった西沢だが、シオジの巨木付近まではらくちんの下り。しかし、すっかり薄暗くなってきた沢の核心部の通過には神経を使った。特に3番目の滝の上部をトラバースする辺りでルートを失い、右往左往した。どうにか最後のY字滝をへつって通過すると、緊張が融けてどっと疲れが出てしまった。その後も気を緩めずに、沢を下り、堰堤と車が見えた時はほっとした。見上げる沢の上部には行きには気付かなかった帳付山が奥に高くそびえ立っていた。4時25分、すっかり薄暗くなった林道終点広場に辿り着いた。どうにか暗くなるまでに沢を下れて良かった。暗くなったら、危なくてあの沢は下れないだろう。

 林道を下り、すっかり暗くなった静かな上野村を後にした。帰りは南牧の村の駅「オアシス南牧」でこんにゃくと味噌を買おうと思い、上野村の「しおじの湯」を諦めてまで急いだのに…。既に閉店でした。残念!(閉店が早すぎるよう)
結局、いつもの磯部の「恵みの湯」に寄って汗を流し、さっぱりとして家路についたのだった。恵みの湯は熱くて良くあったまるなあ。
 ともあれ、一年来の念願であったブドー沢の頭に登れて、ぼく的には大変満足でした。


(追記)
地図の破線記号を信じて安易に今回このコースを辿ったが、もし、この記録を見て行かれる方は、水流が凍結しない時期を選んで下さい。地図にある道は現在存在しません。沢登りをすると思って行った方が良いと思います。技術的には難しくないですが、ルートミスした場合も想定して補助ロープ程度は必携です。ただし、気を付ければこのルートは全く薮もなく、RFも易しいので、ブドー沢の頭や滝谷山、帳付への最短ルートとしての価値はあると思いますが…。

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2 コメント

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目から鱗 (重鎮)
2007-12-17 23:14:02
こんんちは、念願のブドー沢の頭に登頂おめでとうございます。
ところで、こんなルートがあったのかと、まさに目から鱗が落ちました。
先月、滝谷山を目指して、見事に敗退。
埼玉方面から行くことばかり考えていました。
そうか、群馬県人は群馬から行かなくては。

あさぎまだらさんのルートは、諏訪山への最短ルートとして、地元では馴染みがあるようです。

葡萄沢も良く見ると道がありますね。
ちょっと、食指が動きます。
ザイルは必携でしょうね。




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一般向きでは無いですけどね (あさぎまだら)
2007-12-17 23:28:04
そうですか。諏訪山?諏訪山側はそれこそ断崖絶壁が続いています。どこをルートにしているのでしょうかね。昔、深田久弥が諏訪山に登った時に、この沢に下降してひどい目にあったという事を本で読んだ事があります。諏訪山と県境稜線を繋いでいる尾根は薮がひどそうですから、これを辿ったのでもないですね。

西沢も葡萄沢も夏場(凍結していない時期)なら面白いルートだと思います。ぼく的には、冬場はもうこのルートはこりごりですが…。
もちろんザイルは必携です。面白いですけどね、バリエーションとしては。


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