今度、どこ登ろうかな?

山と山登りについての独り言

・北ア、七倉岳・北葛岳・船窪岳・不動岳・南沢岳・烏帽子岳

2007年09月14日 | 山登りの記録 2007
平成19年9月9日(日)10日(月)
七倉岳2,509m 北葛岳2,551m 船窪岳2,459m 不動岳2,601m 南沢岳2,625m 烏帽子岳2,628m

残っている夏休みを使って泊まりがけで静かなアルプスに行こう。と思いながら、なかなかお天気が味方してくれない。台風9号が通過した後、休みが取れそうなので、この時を逃さず…でも長野方面の道路は軒並み通行止めで大丈夫かな、という不安材料もあったが決行とした。

 北アルプスは2年ぶり、子供と奥穂高に登って以来になる。「テント担いで」はキツイので、今回は久々に山小屋泊まりにした。北アルプスで今時発電機を使っていないランプの小屋、船窪小屋にも泊まってみたかった。8日の土曜はお休みで、台風一過の晴天。10日の月曜に傘マークが付いてしまったが、まあどうにかなるさ、で出発した。

 9月の北アルプスは、連休を除けば夏山と違って驚くほど静かで、過去にも想い出に残る山行が幾つもあるが、今回は安曇野側で唯一登り残している、ぼくにとっての空白域、七倉岳~船窪岳~烏帽子岳のコース。針ノ木・蓮華と裏銀座に挟まれた、標高的には低くて地味な山域だ。一番高い烏帽子で2,628mしかない。森林限界を前後するから、頂上はかろうじてハイマツ帯で鞍部に下ると針葉樹林帯の繰り返し、夏だと暑くてかなわないだろう。過去には北アルプスでも手入れのされていない、ゆえにコースが不明の箇所や危険箇所が連続する難コースだったが、今は整備され、メインコース程ではないけれど普通に歩ける縦走路になっている。でも烏帽子小屋と船窪小屋の間には小屋が無く、アップダウンが多くて距離も長い手応えのあるコースなのは変わらない。

 8日の夜に家を出て、長野に向かう。台風で唯一通れる碓井バイパスを抜け、上田から三才山トンネルを越えて松本を経由し、安曇野を北上して大町まで、一般道を4時間半で登山口の七倉ダム駐車場に着いた。土曜だけど、駐車場には20台程しか車は無いし、その車もほとんど無人。もうみんな山に入っているようだから、当然日曜から登る人は少ないということだろう。直前に台風の通過もあったので、それも人が少ない理由かな?星空も広がり、明日の晴天を期しシュラフにもぐった。

9日(日)晴れのち曇り
 4時半に目覚める。まだ薄暗いが、パンを食べ、支度をして出発する。他に起きて準備をしている人も今のところいません。七倉荘の先に車止めがあって、ここから一般車は通行できない。ゲートの所に登山者用の仮設トイレと監視所があるが、今は無人。七倉沢の橋を渡り、内部にオレンジ照明があるトンネル入口を右に、5時14分沢沿いの七倉尾根登山道に入る。台風で大雨が降った後の、たっぷり水を含んだ登山道をゆっくりゆっくり登っていく。
6時過ぎに木々を透かして、七倉沢対岸の北葛岳頂上部が見えてくる。まだまだ稜線は遙かに高いが、空は抜ける程高く青く、しかし流れる汗でびっしょりだ。

 1536mピーク付近で尾根に上がり一段落。七倉ダム湖が、朝日で鏡のように反射しているのを見る。尾根を少し行くと、背後に唐澤岳がシルエットになって聳えたっているのを仰いだ。餓鬼岳の稜線から外れて孤高に聳えるこの唐澤岳も、いつか登ってみたいな。

 相変わらず急な登りが続くが、周囲はコメツガに変わって、時々右手に大きく北葛岳の全容が望まれるようになる。下から人の気配が近づき、間もなく30代初めくらいの女性が一人、軽装で追いつき抜いていった。この人は、おそろしく健脚で、この日の午後北葛岳で再び会ったが、何と日帰りで蓮華岳までピストンしていたのだ。船窪小屋の方によれば、七倉登山口から小屋まで3時間半で登ったと話していたということ。凄い女性もいたもんだ…脱帽です。その後、昨夜船窪小屋に泊まったと思われる、7,8人の人たちが相次いで降りてきてすれ違っていった。

次第に樹高が低くなりハイマツが出てくると、一遍に展望が開け「天狗の庭」と名付けられた黄色いポールの立つ一角に8時52分に出た。ここで、真下に高瀬ダムとそれを囲むアルプスの峰々、唐澤岳・餓鬼岳・燕岳・大天井岳に遠く槍・穂高から真砂岳・野口五郎岳・三ツ岳・烏帽子岳に不動岳までぐるっと大展望のパノラマが広がった。ということで、ここで小休止。

もうここからは、展望のあるプロムナードになる。素晴らしい快晴でるんるん気分だ。ヒトケの少ない静寂のアルプスの始まりだった。登りの疲れも一辺に吹き飛ぶこの開放感。

ハイマツの稜線を緩く進んで、リンドウが咲いた小さなお花畑を過ぎると、目の前に形の良い鋭峰が現れた。針ノ木岳と分かっていながら、何となく剣岳に見間違えてしまう。この角度から見た針ノ木岳はかっこいいなあ。間もなく針ノ木の左手奥に立山と、剣岳が姿を現してほぼ平坦になると、ハイマツの丘の展望台の様な、かわいらしい船窪小屋が見えた。北アルプスのほぼ中央に位置するこのロケーションは、本家アルプスの山小屋を思わせる素晴らしい景観を欲しいままだった。9時53分に船窪小屋着。5時間近く掛かってしまった…。

今、その小屋の前のベンチに、小屋の管理人のお母さんと大阪弁の井上さんとアルバイトの祐子さんの3人がお茶を飲んでいて、ぼくにもお茶を入れてくれた。発電機の音もなく、アットホームなこぢんまりした小屋に今夜お世話になる事を告げ、荷物を部屋に置かせてもらって、早速北葛岳に向かった。

小屋を後に緩く登って船窪岳との分岐から、ハイマツの切り通しを上に向かう。崩壊した薙が幾重にも切れ込みを見せる船窪・不動の稜線を下に見て、針ノ木岳と蓮華岳が「お対」の様に高く聳える景色が広がると、10時22分に七倉岳山頂に着いた。この山頂は周囲の高峰に比べると低い分、展望には最高の場所だった。少しずつ北葛岳に大町側からガスが這い登ってきてはいたが、ほぼ四周は大パノラマ。チョコレートをかじって、静かなアルプスを独り占めの幸せ。

10時36分に七倉岳から北葛岳に向かう。ここから北葛岳までは、一旦七倉乗越まで下って登り返さなければならない。ハイマツからダケカンバ等の茂る樹林帯まで、岩場の痩せた稜線を下る。ハシゴやワイヤーが付けられた所もあるが、特に問題はない。下るに連れて、針ノ木岳と蓮華岳がどんどん高くなっていった。最低鞍部の七倉乗越は、崩壊したザレの縁を慎重に進み、またハイマツの海をジグザグに再び登り返して行く。大町側からガスの塊が押し寄せて、すっかり北葛岳はガスに飲まれてしまった。雷鳥が3羽、直ぐ側で餌をついばんでいた。大きくなったヒナが2羽と母鳥だ。ヒナも母鳥とほぼ同じ大きさで区別が付かないくらいになっている。
12時12分に北葛岳山頂着。ガスで何も見えない山頂には黄色い山頂標識があるだけ。誰もやってこない静かな山頂で、カップラーメンを作って30分ばかり休憩した。12時49分に山頂を下り、また七倉岳を登り返す。同じ所で雷鳥一家が、まだお食事中だった。

七倉乗越で、朝追い越して行った女性が、北葛岳から相変わらずハイペースで下ってきてすれ違う。聞くと、もう蓮華岳までピストンしてきたのだという…絶句(北葛岳から蓮華岳まで、一般のコースタイムだと往復5時間半…いくら早く歩いても4時間近くは掛かるハズ)

14時20分に再び七倉岳山頂着。大分雲が増えたが、それでもここからはまだ大展望だった。小屋へは直ぐに下らずに、船窪岳方面に進んで、キャンプ場の水場まで行ってみた。随分下ってキャンプ場には長いハシゴで降りた。一張りのテントもないキャンプ場から更に急な下りを随分降りて、小さな湿原みたいな所からまだ一下り。途中でトリカブトやアザミや木イチゴが沢山あった。木イチゴは普通のいちごくらい大きな実だ。

不動沢源頭の花崗岩が砂礫状に崩壊したざらざらの沢の上部まで降り、アルミのハシゴで降り立つと、ブリキの樋が差し込まれた風化した花崗岩の間から勢いよく、結構な量の水が流れ出していた、手が切れるほど冷たい水で顔を洗い、汗を拭った。飲んでみると大変美味しい水だった。ペットボトル2本に水を満タンにして、また上り返して小屋に向かった。

 15時13分に船窪小屋に戻ってきた。小屋の前のベンチに40代くらいの男性が一人休んでいた。彼とぼくが、この日の船窪小屋のお客さんだった。小屋の南側の砂礫にコマクサが幾つか咲き残っていた。

 小屋に入ってまたお茶をもらって、横になって少し休んだ。夕食は山菜などの天ぷらとトマトシチュー、古代米の赤米御飯、豆腐の蕗味噌あえ、きのこと野菜の煮染め、生春巻きの胡麻味噌あえ風に漬け物3品、デザートのラズベリー入りの寒天と、凄い豪華。腹一杯で満腹でした。美味しかったです。既製品など一つもない見事と言うほか無い、山小屋とも言えないお食事でした。
寝る前に、囲炉裏を囲んでランプの優しい明かりを中心に、ネパールの甘いお茶を頂きました。小屋のみなさん3人(お母さん・井上さん・祐子さん)に、ぼくを含めた2人の客の5人きり。色々なことを語り合い、とても懐かしい雰囲気で、楽しかったです。

 8時前に部屋に戻って布団に潜った。翌朝は5時出発だから、充分眠れるだろう。でも、夜中に数回目覚めた。

10日(月)曇りのち雨
 3時頃雨が降っている音がしていたが、4時半に起きたら星が出ていた。
パンを囓って支度をし、みなさんにお別れを言って、5時に小屋を出発。まだ薄暗いので、ヘッドランプを点けて行く。高曇りで景色は良く見えるが、天気は下りの予報なので、先は少し不安だ。今日のコースは北アルプスでも、かなりアップダウンが多くて長い、その上危険箇所もあるという、一応一般的には難コースとのこと。

 昨日降りたキャンプ場まで下り、その後もどんどん下って樹林帯をなおも下り続ける。高瀬川側は崩壊薙の縁を歩く危なっかしい道だ。間違って落ちれば、真っ逆さまに数百㍍は転がりおちるだろうから、一応気は抜けない。とはいっても、そんなに危険では無い。ハシゴやワイヤーが至るところにあるが、これも特には問題なし。でも、上り下りの多さにはくたびれる。

 船窪岳との鞍部がこのコースの最低鞍部で2,180mくらいまで降りてしまう。とてもそんな感じだから、北アルプスの稜線歩きというイメージには程遠い。日光や足尾の山の中みたいだ。
 
 台風で濁った水が白く見える高瀬ダム湖を遙か下に見下ろして、向かいの餓鬼岳から燕岳と表銀座の稜線が黒々とシルエットになって高く、穂高や槍方面は雲が被っていた。黒部側は立山・剱と針ノ木・蓮華方面が少し天気が良くて所々青空も見える。立山から薬師岳に続く稜線は間近にくっきり見えていた。とはいえ、もちろん樹林帯なので、これらの景色は時々木々の切れ間から見えると言うことだ。船窪小屋が乗っかっている七倉岳は、ずんぐりして南側が大きく崩壊斜面で白くえぐれ、クジラの巨体を思わせる奇景だ。帯状にまとわりつくガスも雰囲気を出して、ジュラ紀の恐竜でも出てきそうな景観。

 5時57分に船窪山頂の黄色い標識のある所を通過(とても山頂という雰囲気ではない)。ここからもアップダウンが多くて、幾つもの小さなピークを過ぎて7時1分に船窪第2ピークの標識のある地点を通過する。船窪岳は幾つものコブの塊でどれが山頂か?余り判然としない。今回登った山では一番低いピークだが、ここの通過がこのコースの核心部だろう。船窪岳から少し下って、今度はきつい登りをしばらく上り返して、ピラミダルな不動岳山頂には9時22分に到着。不動岳の山頂部は南北に細長く、北に角を出した様な岩が突き立っていた。ここまで登ってくると、またアルプス的な景観になる。花崗岩の砂礫とハイマツのコントラストが美しい。黒部側の景色が今まで以上に近く見えるようになった。黒部湖も下に見えている。

 ここまで小屋から休まず歩いてきたので、小休止した後、不動岳を9時48分に出発。不動岳から南沢岳に下る辺りの砂礫にはコマクサの群落が見られた。花期を過ぎてはいたが、まだ可憐に咲き残っているものも多かった。南沢岳との鞍部付近で、この日唯一の大きなザックを背負った単独の若い登山者とすれ違う。

 南沢岳への登りはお花畑を通過する。トリカブトくらいしか残っていないが、夏には沢山の花が咲くことだろう。背後の不動岳との間にある小山の、白くえぐれた崩壊斜面には、赤い横縞があって面白い眺めだ。だんだん雲が多くなってガスの去来も激しくなってくる。時折霧雨状に吹き付けてくるが、景色はまだ高曇りでほぼ見えている。
 11時10分南沢岳着。残念ながら小雨が降り出してきた。もう、今日はこの先悪くなりこそすれ、好転することはないだろう。南沢岳山頂からは、高い三ツ岳と野口五郎岳を背に中国の山水画みたいな烏帽子の岩山が緑のカーペットの上に突きだしていた。あるいは古城の様にも見える…。南沢岳には三角点があった。10分程休んで、間断なく降ってきた雨の中、四十八池に下る。

 南沢岳と烏帽子岳の鞍部には四十八池と名付けられた池塘群があって、烏帽子小屋から近いにもかかわらず、訪れる人も少ないらしい。細道がその間を抜けているが、裸地も少なく自然が良く保たれている。裏から見る烏帽子岳は、烏帽子型ではなく鶏のトサカみたいな幾つもの岩峰を突きだして、その池に映えた。今回のルート中でも一番の景勝地。でも、雨は次第に強くなって、カッパを着ないで歩いていたぼくは、すっかり濡れてしまった。まあ、もうこんなに濡れてしまったことだからこのまま行こう。

 烏帽子分岐まで行くと、急にそれまでの草に覆われがちの道と違って、いわゆる北アルプスの良く整備された遊歩道みたいな道になった。岩をクサリで登って12時32分烏帽子岳山頂着。辿ってきた船窪方面はすっかりガスで見えなくなった。周囲の山々も雲に隠れ気味だが、ニセ烏帽子の向こうに高い、野口五郎岳方面は良く見えている。

 ニセ烏帽子で中高年のご夫婦2組とすれちがう。空身で烏帽子小屋からピストンの様だ。烏帽子小屋の青いトタン屋根を見下ろしてほっとする。どうにか烏帽子小屋まで縦走できた。雨は本降りだが、気持は軽い。13時8分に烏帽子小屋着。小屋には数人の気配がしていた。

 霞んできた三ツ岳を見上げ、そのままブナ立尾根を下った。名にしおう急登のブナ立尾根ということだが、それ程のこともなく、一気に下って15時30分に不動沢登山口に降りた。雨も止んで少し青空がのぞいていた。不動沢のダム口に堆積している花崗岩が風化した例の砂を、浚渫しているブルドーザと、それを運んでいるダンプが賑やか。不動トンネルを抜けると、高瀬ダムに出て、ここから七倉まで歩く予定だったが…。客待ちのタクシーに声を掛けられ、あと2時間近く歩くのもしんどいので、相乗り客も無い単独で2,000円の出費は痛かったけど乗ってしまいました。ということで、16時30分に七倉駐車場に無事帰還。疲れたけれど、静かなアルプスを満喫できたのと、予定のコースを辿れた満足感で一杯だった。

 大町温泉郷の日帰り温泉「薬師の湯」で2日分の汗を流し、疲れも取れました。穂高町で食事をして家路についた。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿