今度、どこ登ろうかな?

山と山登りについての独り言

・竜ヶ岳、笹塒山

2007年11月27日 | 山登りの記録 2007
平成19年11月23日(金)
竜ヶ岳1,410.5m 笹塒山1,402m

 今年は一足早く、各地の山に雪が来ている。ここ2,3日、日本海側を中心に
11月としては、異例の大雪に見舞われていると言うことだ。赤城山辺りも、雪雲に隠れ気味で見えない日が多い。そうなると、行ける山も大分限られてしまう。今年最後の3連休だが、後半は用事で山には行けないから、23日の金曜日は山に行くことにした。

 先週の土曜に奥秩父に行ったばかりで、まだ5日しか経っていない。このところのガソリンの値上げも家計に厳しく、そう遠くにばかり行っていられない現実もある。昨年の今頃登った、吾妻の菅峰と高ジョッキから眺めた、竜ヶ岳と笹塒山(ささどややま)に行くことにした。この辺りなら、まだ雪も来ていないだろう。

 竜ヶ岳と笹塒山は旧倉渕村(現高崎市)にある。烏川の源流域に当たり、最奥の浅間隠山・鼻曲山から派生した山並の右岸には、剣の峰・角落山・雨ん坊主・中垣岩等が連なり、角落山塊とも呼ばれている。左岸には竜ヶ岳と笹塒山が対峙している。これらの山々は、県内とはいえ、ぼくの家からはかなり離れているが、冬になると真っ白い浅間山の手前に、浅間隠や角落山等、特徴のある形でシルエットになって眺められる。

 竜ヶ岳と笹塒山は、「わたしが登った群馬300山」という本に詳しいガイドがある。どちらもちゃんとした登山道は無いが、ルートは比較的しっかりしているようだ。この山域は浅間隠や鼻曲山・角落山等がポピュラーだが、その他にも面白そうな山が幾つかある。名前が面白いのは雨ん坊主(あめんぼうず)で、なんでこんな名前なのか不明だが、雨ん坊主(ドドメキの頭の別名あり)と、隣の中垣岩の2山も時間が余れば登ろうと思い、資料と地図を持って木曜の夜に家を出た。

 倉渕までは2時間弱。高崎市街から、烏川に沿って406号を西に向かう。権田から406号と別れ、北軽井沢に向かう県道になる。倉渕ダムの付け替え道路で様子が変わってしまい、登山口を通り越して先の「はまゆう荘」まで行ってしまった。道路はできたが、肝心の倉渕ダムは建設計画が中断したままになっている。ダム論争やその是非については、県内外各地で今も続いているが、ここもその一部だった。ここで、ダムについて語る気は無いが、逼迫した必要性の無いものを当初の計画にこだわって建設する必要も無いだろう。時代は変わっているのだから。今まで懸けた金(税金)が無駄になると言う声もあるが、要らなくなったものは、潔く止めてしまう方が後生の為になる。もちろん、自然保護や環境保全の観点からも…。

 その『群馬県倉渕ダム現場事務所』の脇に、竜ヶ岳・笹塒山への登山口に繋がる滑川林道の入口があって、ゲートが降りていた。向かいの道路反対側にあるチェーン装着場に車を停め仮眠した。外は月明かりが煌々の快晴だが、県北方面で降り続いている雪雲の破片が千切れ飛んできて寒かった。アラームは6時にセットした。
6時に目覚める。外は快晴で薄明るいが、寒いからシュラフから出られない。6時半にシュラフから出て支度をし、パンを食べる。北軽井沢方面に向かって行く車が何台も通り過ぎる。浅間隠に登ろうという人もいるだろうか?その、浅間隠は雲が晴れて姿を現している。すっかり雪化粧だ。竜ヶ岳や笹塒山はどうだろうか?今日は雪に備えた支度は一切用意していなかった。

 倉渕ダム現場事務所は、現在使われていない施設らしく、門扉はクサリで固められていた。その門柱脇のスペースに車を停めなおして6時50分に出発する。ゲートが降りた林道入口には『県指定天然記念物、笹塒山のヒカリゴケ及びウサギコウモリ生息洞穴3㎞→』と書かれた看板と、土建業者の現場の案内看板があった。烏川を挟んだ反対側には四角い中垣岩が朝日を浴びていた。

 舗装された林道を上っていく。この滑川林道は烏川支流の滑川に沿って、竜ヶ岳と笹塒山の山腹を縫っている。最初に竜ヶ岳に登り、続けて笹塒山に登ろうと思っていたから、笹塒山への分岐に当たる「林道細尾沢支線」入口の『笹塒山のヒカリゴケ及びウサギコウモリ生息洞穴2.7㎞』の看板がある地点を過ぎて先に進む。県道の滑川林道入口にある「…洞穴3㎞」の看板から20分も歩いて「…洞穴2.7㎞」の看板は数が合わない?地図上で計っても1㎞以上あるのだが…。この洞穴は笹塒山ではなく、正確に言うと竜ヶ岳の中腹にあるが、『笹塒山のヒカリゴケ及びウサギコウモリ生息洞穴』ということになっている。

 国土地理院の地図には竜ヶ岳の表記はなく、隣の笹塒山にだけ山名が書かれている。竜ヶ岳は、地元では岩岳と呼ばれているそうで、じゃあ誰が竜ヶ岳と名付けたのかしら?どっちにしても、岩壁が山をぐるりと巡り、ずんぐりと厳つい特徴のある竜ヶ岳に比べて、笹塒山は3つの頂上部を持ったなだらかで余り目を惹かない山容をしているが、目立つ竜ヶ岳(岩岳)は無視されているかのようである。笹塒山の方は旧帝室御用林の山だったようだから、あるいは名前が記載されているのは、そのせいかも知れない。

 薄暗く陽が当たらない杉林沿いの道から、伐採された茅戸の道になって右に折れると、正面に握りこぶしみたいな竜ヶ岳が姿を現した。山の中程に岩壁をベルトのように巻いてゴツイ山容だ。丁度黄葉の名残を見せる落葉松の前山に陽が当たって、その奥に陽が当たらない黒々とした姿は、青空を背景にくっきりと浮かび上がり、うずくまる入道という雰囲気で迫力がある。前山に近づくと再び樹林に隠れて見えなくなった。

 林道入口から46分で「…洞穴880m」の標識の地点に着いた。ガイドブックによると、竜ヶ岳はこの道を洞穴まで辿り、その先は踏跡になるらしい。林道から丸太の階段の道に入る。おそらくこの先の洞穴が天然記念物の指定を受けた後、当時の倉渕村教育委員会がそこまでの道を整備したものと思われる。しかしそれから20年以上経ち、遊歩道は荒れて落ち葉が積もり、薮に隠れ気味で、そのうち埋もれてしまいそうだ。沢沿いに緩く登って「…洞穴250m」の標識を見て8時11分に洞穴に着いた。遊歩道から一段上の岩に幅50㌢程の穴というよりスリットが横に開いて、その中には入れないように柵がしてあった。県教育委員会の天然記念物指定の石柱と大きな看板が立っていて、そこには「県指定天然記念物・笹塒山のヒカリゴケ及びウサギコウモリ生息洞穴」とウサギコウモリやヒカリゴケの絵入りで説明が詳しく書かれてあった。それによると、今この時期にはウサギコウモリは居ないようだった。中を覗いてみたが、ヒカリゴケらしいものも見えなかった。

 洞穴から先も、それまでと余り変わらないしっかりした道が付いていた。道は沢を離れて右手の尾根にからんでその上に出た。尾根は落葉松や雑木の明るい小径で「県教委」と書かれた文化財境界杭が立っていた。木々を透かして2つに割れた竜ヶ岳が近づいて来た。竜ヶ岳は南峰と北峰の2峰に分かれ、三角点は南峰にある。頂上部は丸く、その下に帯状の岩壁が巡らされていた。

 尾根はやがて、岩壁下のカエデなどの雑木の広い斜面になり、そこから十八曲がりが始まった。道は大きくジグザグに付けられ、傾斜は急でないものの、歩く距離は倍ぐらい長くなる。でも、傾斜が無いだけ登りは楽だ。十八曲がりを登り切ると、南峰と北峰の真ん中に、割れ目のようにくい込んだ沢の上部に回り込む。この辺りは笹が深いが、しっかりとした道があった。道はここから北峰に斜上するのだが、南峰の岩壁には上部から20㍍くらいの滝が落ちていて、その滝は凍って氷瀑になっていた。付近にはうっすらと雪も積もっていた。なかなか見事な眺めの滝を後に、北峰に回り込んで登っていく。

 滝の落ち口付近の上部に出て笹も低くなり、沢の詰め状を登ると、ナラなどの茂る頂上部に出た。右手は北峰で踏跡は無い。左も薄い踏跡は笹に隠れ気味だが、所々に赤テープがあった。頂上稜線は木々が茂り、葉が落ちた今も眺めは無いが、樹林を透かして浅間隠から北に連なる山並みと、見覚えのある懐かしい菅峰が見えた。

 なだらかに登って、9時21分にうっすらと雪が残った平坦な竜ヶ岳山頂に着いた。登り始めて2時間半を要したから、意外に時間が掛かった。標高差は少ないが、林道を含め距離が長かったせいだろう。竜ヶ岳の山頂は平坦な樹林で眺めは無い。三等三角点と、少し離れて山標石、壊れ掛けた木製の「竜ヶ岳」の山名標識、木に打ち付けられた「達筆名板」と、いびつになった古い石祠が朽ちた木の根本にあった。祠があるのだから、昔は地元で信仰があった山なのだろう。

 西に少しヤマツツジの群落を下ると、木々の切れ間から雪化粧した浅間隠が顔を出した。南に少し下った所で、ヤマツツジの上に南面の展望があった。すぐ向かいに雨ん坊主・角落山・剣の峰等がシルエットで並び、遠くにうっすらと表妙義のギザギザが見えた。しかし、眺めは垣間見えるといった程度で、良くなかった。

 少し休んでおむすびなどを食べ、9時55分に山頂を後にした。さて、次の笹塒山だが、竜ヶ岳とは鞍部を介して稜線続きの山ではあるが、北峰の笹塒山との鞍部側には岩壁があって、そのまま行くことはできない。「…300山」にあるガイドでは、滑川林道を戻り林道細尾沢支線分岐まで下ってから登り直さなくてはならない。25,000図で見ると、竜ヶ岳に登ってきた尾根と笹塒山へ登る尾根は、沢を一つ隔てているだけで、最も接近している地点での直線距離は200㍍程しかない。下まで降りてから上り返す事を思えば、ほんの少し薮を漕ぐだけだから、竜ヶ岳の尾根から笹塒山の尾根に渡った方がずっと得策だろうと思っていた。
 竜ヶ岳北峰の岩場を避けて鞍部に下り、笹塒山に上り返すよりも効率的で安全だとも思った。岩場は巻いても、鞍部は薮が深そうだから薮こぎの時間も掛かりそうに思われた。

 十八曲がりを下りきって尾根になり、地図で目星を付けた地点はここだとばかり、沢を下った。薮もなく、直ぐに沢に下り着いて上り返した尾根は薮もない落葉松の尾根だったが、そこは笹塒山に繋がる尾根ではなかった。また再び沢を下って上り返した所はひどい笹藪で、進めそうもない。見上げると直ぐそこに竜ヶ岳北峰の三角型の岩壁があった。どうも、最初に尾根を下る地点が早すぎた様だ。地図で確認すると、渡ろうと思った笹塒山頂に続く尾根との間には、上部でもう一つ短い尾根が挟まっている。そこに渡ってしまったようだった。悪いことに、この尾根は上に向かって小さな沢が放射状に刻まれ、上部は岩壁が巡っていた。

 下った沢床に水流はないものの、斜度の強いスラブ状の岩盤がむき出しで表面は濡れて凍っていた。滑り台の様だった。この沢から次の尾根に上がるにはもの凄い薮こぎが必要だ。皮肉なことに、今まで姿を見せなかった笹塒山が、この沢底からすっきりと高く見えているのだった。ここから見上げる笹塒山は、三つのピークを持った幅広の山で、真ん中のピークは顕著な岩が見え、そこが最高点の山頂の様だった。
 仕方なく、かなり危険な沢を慎重に、地図で初めに目星を付けた尾根に出会うまでしばらく下った。距離にすれば200㍍程だったが、気疲れがする下りだった。

 今度は間違いなく、頂上に繋がる尾根に登り返し、テープを見つけて一安心。薮もなく快適な道が延びていた。しかし、しっかりした踏跡と頻繁にあったテープも広い沢のツメで消失した。木々から透かし見る隣の竜ヶ岳は、ほぼここと同じくらいの高さになっているから、このままこの斜面(もの凄い急斜面!)を登り切れば笹塒山頂に出ることは間違いないだろう。カモシカが付けたらしい、横に延びている獣道は所々にあるが、これを行っても頂上には向かわない。

 ざらざらとした礫石が、足元の土の下にあって、登るとずるずると滑り落ちてしまう。傾斜が急なので、滑ったら下の岩ゴロの沢まで落っこちてしまいそうだ。こんな有様で、急な登りを登ってはずるずるを繰り返して、ようやく低い笹に覆われた頂上稜線に辿り着いた。そこで合流する分岐尾根に黄色いテープが幾つも付いていたから、ここが本来の下降点(分岐地点)なのだろう。稜線も樹林で眺めはない。木々を透かして菅峰や高ジョッキの山並みと、遠く白い白根山方面の山並み、下に東吾妻の集落が見えた。そこから東に一度下って、上り返した所が笹塒山頂だった。12時39分に笹塒山頂着。結局、竜ヶ岳の山頂から2時間半以上掛かってしまった事になる。下まで降りてから登り直しても同じだったようだ。

 笹塒山頂にはブリキ?製の鳥居に石祠があり、小さな手作り山名板があった。狭い山頂は、灌木に囲まれて眺めは良くないが、南に一段下がった所が岩の上で素晴らしい展望台だった。この岩は下から良く目立ち、山頂の目印になる様な顕著なものだ。

 岩の上の展望台に出ると、風も止んで暖かな陽射しが一杯に注ぎ、足下に大展望が広がった。県道のダム付け替え道路の橋がよく目立ち、そこを走る車が豆粒のような小ささだ。烏川源流の鼻曲山から右岸の角落山や雨ん坊主が手前で、奥に妙義、更に遠く西上州の山並みの上に奥秩父の青い連嶺がずらっと並んでいた。すぐ西には拳骨のような竜ヶ岳と浅間隠山が近く、浅間隠の上に真っ白い浅間山が覗いている。東は榛名の山々に高崎の市街地まで、手に取るようなパノラマだ。

 ここで、カップうどんを作り、それまで余り展望がなかった借りを一気に返した。本当に気持ちの良い場所で、3連休初日の快晴でも人っ子一人居ない正真正銘の「静かなる山」だろう。

 13時25分に立ち去りがたい山頂を後に、黄色いテープが付けられた下降点から尾根を下った。ところが、やはりこの山は一筋縄ではいかない薮山なのか、下り過ぎてまた少し上り返したり、ルートを探しながらの下りであることには変わりなかった。

 下から登った場合、滑川林道の林道細尾沢支線分岐(「←洞穴2.7㎞」の看板がある分岐)から入るのだが、「…300山」のガイド通り登っても非常に分かりにくい。古い林道や仕事道や獣道が幾つもあって、テープ類は少なく標識などの類は一切無いから、地図にコンパスやGPSは必携だろう。基本的には下から頂上まで一つの尾根を忠実に辿れば良いのだが、それが結構難しい。地図で見たのと違って、歩いてみなくては分からない要素だ。

 日の短い晩秋で、すっかり傾いた午後の陽に照らされながら15時25分に林道入口ゲートに帰り着いた。帰りはゲートが開いていた。向かいの中垣岩は城塞の様に夕照に映えていた。

 帰りは倉渕温泉「長寿の湯」という小さな旅館の湯に入った。誰一人会わなかった静かな山を、大きな露天風呂に浸かりながら気分が良かった。ここの温泉は少しぬるめなので、長い時間入っていないと芯まで温まらないが、却ってノンビリ浸かれるので良いかも知れない。臭いも少ないさらっとした温泉だった。館内に流れるど演歌のBGMは少しご愛敬か…。

 思いも掛けず時間がかかり、手こずった竜ヶ岳と笹塒山だったが、静寂と展望とほんの少しバリエーションが?楽しめたから、とても印象の良い山になった。こんな山が、ぼく的にはお好みだ。

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