今度、どこ登ろうかな?

山と山登りについての独り言

中倉山・沢入山

2006年06月27日 | 山登りの記録 2006
平成18年6月25日(日)
(中倉山1539m  沢入山1704m)

 足尾の中倉山と沢入山は、足尾の町を流れる渡良瀬川支流の松木川と仁田元沢に挟まれる稜線上のピークで、この稜線は庚申山に繋がっている。鉱毒で「日本のグランドキャニオン」とかつて呼ばれた、一木一草も無い山肌には少しずつだが関係者の努力で緑が再生されてきている。それでも、足尾の町をぐるりと取り囲む山々は崩壊した岩肌が目立ち、やはり一種独特の景観を呈している。

 足尾の山々といえば、渡良瀬川左岸の足尾山地(登山では安蘇山塊と呼ばれる事が多い)と右岸の庚申山から皇海山が知られている。それらの前山に当たる備前楯山は足尾銅山の象徴として目に付くが、その右奥に控えた中倉山や沢入山になると、以前は名前も地図に記載されていない山で、当然登山対象になってはいなかった。近年、この山の稜線が標高に似合わず(煙害によって自然破壊された産物なのだけれど…)笹原とアルペン的な岩稜を持っていることで、注目されている。ネットでも登山記録が散見されるようになった。
 数年前に日光の社山や、向かいの黒檜岳・シゲト山の稜線からこの方面を望んだり、昨年備前楯山から見上げたりして、中倉山と沢入山も気になる山の一つになっていた。

 遠くの山ばかり行っていられないので、今回はお天気の不安もあったが、中倉山と沢入山に登ることにした。
 
 前夜のうちに足尾ダムの駐車場に入り、仮眠して夜明けを待った。駐車場には関西方面のナンバーの車まで停まっている。何処に登るのかな?
5時に起きた。支度をして大きなザックを担いだ人たちが、既に何人か山に向かっていく。松木沢方面に向かう様だ。松木川を詰めて国境平に上がり、皇海山方面に縦走かな?泊まりで山に行ける人たちが羨ましい。

 空はどんよりと曇り、山の頂上部は黒っぽい雲に隠れている。何となく出発する意欲が湧かないまま、シュラフにまたもぐってしまった。
 6時半になった。相変わらずの空模様だが、少し空に明るい部分も見えてきた。まあ、今日は展望の良い山ながら、展望は諦めた方が良さそうだ。ぐずぐずしていても、時間がもったいないので支度をして出発することにする。お天気次第では、中倉山までにしようかな、と思った。晴れの予報が出ていた土曜の日中には、沢入山の先のオロ山までピストンしようと思ったのだけれど。家から近いので、いつでも登れるし…。

 7時に出発する。外は気持が悪いほど蒸している。ゲートの降りた林道を進み、松木川を小さな橋で渡り仁田元沢方面に進む。松木川は川底が浅く、きれいな水が流れている。カジカガエルのひゅるひゅるという涼しげな鳴き声が川面に響いている。でも、少しも涼しくない。前方から渓流釣りと思われる3人の人たちが歩いてきてすれ違う。趣味の世界は色々だ。
 足尾ダムから延びる導水管が橋になって渡る仁田元沢沿いの林道に、随分大回りをして入る。仁田元沢も松木川と同じく、浅い水流が緩やかに流れていた。上高地の梓川のようだ。川底の小石が澄んだ水にきれいだった。
仁田元沢沿いの林道を進むが、陽も出ていないのに朝から湿度が高く汗をたっぷりかいてしまった。林道脇の笹藪でごそごそシカの群れが動いている。この辺りは、どこもかしこもシカだらけなのだった。かわいらしい子ジカがこっちを見ていた。

 「栃木の山紀行」さんの情報を参考に歩いているが、それに書かれた上久保沢の砂防ダムまで登ってきた。その先まで行ってみたが、林道はこの先大きくヘアピンカーブになって上流に向かっている。上部をガスに隠して岩壁をぐるりと巡らした山が高い、この山が中倉山のようだ。
 上久保沢の砂防ダムから登るのがルートらしいが、特に目印は無かった。下って来てから気づいたが、紹介されていた管理用路の登り口には細いロープが立木に張ってあったから、これが目印なのだろう。そこは上久保沢砂防ダムから20㍍程林道を先に進んだ幅の広い沢状の地点だった。

 何も目印はないが上久保沢の右岸沿いに登っていく。薮が覆い、踏み跡らしきものも見あたらない。しばらく登ると、トラロープが付いた小径に合流した。これが書かれている管理用の道らしい。
 トラロープのガイドが付いた管理用路は、しばらくの間はジグザグにはっきりしていたが、広い沢状の急斜面にになって消失した。斜面の崩壊と落ち葉の堆積に埋まってしまっている。この管理用路は使われないまま一部を残して消失しているので注意が必要だ。

 さて、ルートはほとんど消えてしまった。本来、多くの人が利用しているルートは上久保沢の隣の尾根らしいから、そちら側にトラバースしていったが、崩壊したガレの急斜面はざらざら崩れ落ちてとても進めたものではない。仕方なく、またルートが消えてしまった管理用路の広い沢状の急斜面を上に向かった。蒸し暑い上にとてつもない急斜面を登るので汗でびっしょり。薮もなくどこでも歩けるから、急だけど最短の直登を頑張る。
 時々木々の間から見下ろす下に、仁田元沢の上部を赤く縁取られた砂防ダムが遙か下に見え、向かいに赤茶けた崩壊斜面を所々に見せる山が次第に低くなっていった。
 ナラの明るい斜面になると稜線は近いようだった。この辺りまで来ると、時々赤テープやピンクのビニール紐が出てきた。

 9時少し前に尾根に出る。尾根沿いはルートもハッキリとし、道と言っても良いレベルだ。赤ペンキのマークがうるさいくらいに出てきた。雰囲気の良い低い笹の緩斜面を進む。相変わらずどんよりと曇って、むっとする湿度に満ちた空気に包まれている。そよとも風は無い。株立ちになったナラの斜面を進むと、右手に展望が開けてくる。もちろんガスで景色は見えないが、うっすらと松木川とそれに沿った道路が下に見える。一度も休んでいないので、ここで休憩してパンを食べ、水を飲んだ。

 小休止して歩き出したら、直ぐにガレの斜面の突端に出た。ここが展望台と書かれていた地点らしい、10時着。随分のろいペースのようだ。蒸し暑くて少しもペースが上がらないせいだろうか…。
 残念ながら展望は無い。さっきと同じでうっすらと松木川が見えているだけ。山の上部は雲に頭を突っ込んでいるようだった。
 ここからが稜線で、ルートは直角に折れて西に向かう。笹丈は低く膝の下。稜線の南側はこの笹の斜面で、北面は崩壊したガレになっている。ルートはその間を進んでいる。時々ツツジの薮になるが、歩くのに邪魔になるほどではない。

 ガスで周囲50㍍くらいしか見えないが、高い木もなく、晴れていればさぞや眺めが良さそうな所だ。小さなコブを一つ越したら、そこに山部さんの「中倉山」の山名板がぶらさがっていた。中倉山三角点はここより下にあるようだが、どこだか分からない。今現在「中倉山山頂」となっているのは、この先のピークで1539mの地点だった。

 稜線を快調に進む。中倉山山頂の標柱が直ぐそこ、小山のケルンの上に立っているのが見えてきた。その時、3㍍と離れていない左手の窪地に何か黒い物体が動くのを見た。あっと、思う間もなく、その二つの黒いものはもの凄い速さで笹の斜面を転がり落ちるように下っていった。瞬間何が起きたのか分からなかった。しかし、それは間違いなく2頭のクマで、体長は60㌢程の仔熊だ。変に冷静だったが、仔熊が2頭と言うことは…至近距離に母熊が居ることが容易に予想できた。辺りをぐるりと眺め回したが、それらしいものは居ない。ちょっと安堵。

 推測するに、この窪地はクマの休み場で、母熊は仔熊を残してお出かけ中。お留守番の2頭の仔熊は、近づいてくる人間(鈴を鳴らしていました)にドキドキしていたが、もう限界の至近距離まで来てあわてて飛び出して逃げていったのだろう。窪地は低い笹がベッドのようで、いかにもクマが好みそうな場所だ。窪地の周囲にはクマの糞が沢山あった。
 と、冷静な分析はともかく、近くにクマが居ることには間違いはない。中倉山の標柱まで行ってザックを下ろしたが、何となく気が休まらないのだった。

 10時22分中倉山着。ガスで見え隠れする枯れた木の根っこ(これはこの辺りに沢山あった。煙害で枯れた木の残骸か…)がクマに見えたりした。相変わらずシカがそこいらにうろうろしているが、動くシカがクマに見たりもした。まあ、しかし危険は去ったと思う。少なくとも仔熊と母熊の間に入る危険は運良く避けられたようだ。でも、腰掛けておかしやパンを食べても、何となく周囲に気を配っている自分を感じた。

 沢入山まで行ったものかどうか?時間は充分余裕はある。ガスで展望は皆無なので、どうしてもと言うほどでもないが…。ここなら何時でも来られるし。でも、仮にここで引き返したからといって、クマに対する危険回避ができるという訳ではない。そう考えると、行っても戻っても同じだった。

 10時32分、沢入山に向かうことにする。稜線は気持ちの良いプロムナードだが、景色は全く見えない。視界は相変わらず50㍍程度しか無い。ここから沢入山までの途中、松木川側のガレ斜面に合計4カ所、土嚢を四角く囲って積み上げ、木枠で仕切ってある構造物?を見た。これは何の為のモノなのだろうか?雨水が流失しないで地中に浸透するように作ったものの様にも見える。これを作るための管理用路として造られたのがトラロープの小径なのではないかと思う。

 沢入山までは思った以上に長く感じた。途中、岩稜を伝ったり、まるでアルプスの稜線歩きみたいな錯覚を起こさせる、砂礫と低い植生のプロムナードが交錯していた。やはり、晴れていれば素晴らしい所なのだろうな…。

 何度も頂上とだまされて11時29分に沢入山山頂着。ここに来る途中の方がよっぽど山頂らしい所が何カ所もあったが、沢入山の頂上は木々と低い薮に囲まれたあまり山頂らしくない場所だった。「山」標石があった。木に「沢入山1704m」と書かれた丸太輪切りの手作り看板がぶら下がっていた。奥深い?山頂には霧が去来し、シカの声ばかりがこだまする。静寂そのもの。

 12時04分に沢入山から引き返す。オロ山まで行くような日ではないでしょう…。沢入山を下って中倉山との鞍部辺りで少しガスが晴れ、沢入山の全貌と備前楯山や下の松木川辺りが少しの間見えていた。直ぐにまた霧のベールに包まれたが、せめてもの「お慰み」だったろうか。中倉山の山頂付近を通過するときは、さすがに少しクマを意識したが…。中倉山から沢入山までの稜線にも、ばらまかれた様なシカの糞の他何カ所かに明らかにクマのものと思われる「お忘れ物」がありました。足跡もそこいら中にありました。

 1時05分に中倉山頂を通過。尾根に下る最後のガレで真下の展望が開け、足尾ダムやぼくの車が遙か彼方に小さく見えた。尾根を下ると、最後の急降下。下りはさすがに道なんか無くても速い。枯葉の急斜面をざくざく下って2時には林道に下り着いた。林道に下り着く手前、管理用路近くの斜面で白骨化したクマの頭骨を見つけた。大きさからするとまだ若いクマのものだと思われる。

 相変わらずムシムシする林道を、エゾハルゼミの鳴き声に囃し立てられ、カジカガエルの声に励まされてたんたんと下った。2時45分に足尾ダムに戻ってくる。
日曜日だから、観光客がほんの少しだけど居た。駐車場に停めてあった山に向かった人たちの車は、何故か一台もなかった。みんなリタイアしたのでしょうか?

 足尾温泉、国民宿舎「かじか荘」に寄って汗を流した。それにしても今日は汗をかいたなあ。庚申山の登山口には20台以上も車が停まっていた。庚申山や皇海山は賑やかだったのでしょう。ぼくはクマやシカにしか会いませんでした。
中倉山や沢入山には、今度はぜひ秋のお天気の良い日に登ってみたいと思いました。その時はオロ山まで、あるいは庚申山周回でもいいなあ…。

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