今度、どこ登ろうかな?

山と山登りについての独り言

・蕎麦粒岳(独標)、風越山

2010年10月15日 | 山登りの記録 2010
平成22年10月11日(月)
 風越山1,698.5m、天狗山2,118m、独標蕎麦粒岳2,338.7m
 
 2年前の同じ時期に中央アルプスの南駒ケ岳に北沢尾根から登った。非常に長くてきつい尾根だったが、尾根の中間辺りから北方に三沢岳(さんのさわだけ)が見え、風越山から繫がる尾根の真ん中に突き出した岩山が見えた。ぎざぎざの鋸歯の頂稜は周囲の高峰に比べれば決して高くは無いが、樹林に包まれた尾根の中程に一人その存在を誇示しているような目立つ山だった。家に帰ってきてから気になって地図で見てみると、以前ネットで名前だけ知っていた『蕎麦粒岳』という山のようであった。エアリアで見ても全く登山対象にはなっていないが、風越山の登山道から引き続いて三沢岳まで踏み跡があり、そこそこ人も登っている様だ。そんなことから、いつか登ろうと思っていた。

 今回は3連休。しかし前半は雨降りで、晴れは月曜のみ、あるいは日曜は晴れ間が出るかもというのが事前の天気予報だったから、実質一日しか登れる日は無い。一応スケジュール?的には南アルプス白峰南嶺の「あそこ」を予定していたが、一日では無理だ。今年はもうダメかな…。
 そんな訳から、急遽浮上したのが今回登ることにした蕎麦粒岳だった。しかし、多くの人が登っている蕎麦粒岳の記録は真の蕎麦粒岳では無い様だ。ぼくが遠くから見て「凄いな」と思った岩山の蕎麦粒岳に登っている記録はネットで一件しか見られない。『独標蕎麦粒岳』とエアリアに記載されている三角点峰は、真の蕎麦粒岳の隣のピークだが、多くの記録はこの独標に登っているのだ。独標と蕎麦粒岳の間には深く切れ込んだギャップがあり、藪もかなり酷い様だ。結果的には今回この真の蕎麦粒岳までは届かなかった(時間が足りなかった…)。

 日曜の夕方に家を出て木曽に向かう。一般道をいつものコース、内山・麦草・杖突と3つの峠を越え、高遠から伊那に出る。途中、佐久でお買い物と夕食を済ませた。伊那から権兵衛トンネルを抜けて木曽路を南下し、旧上松町(現木曽町)の名勝「寝覚の床」の分岐から寝覚集落に入り、吉野に向かって風越山の登山口を探す。ナビには林道の地図が入っていないので役に立たず、結局登山口に繫がる林道を探し回って右往左往し、1時間近くのロス。東野林道に接する登山口に着いたら0時を過ぎてしまった。

 この風越山登山口への案内標識は無いので、寝覚集落から吉野に向かって『木曽古道』と示された標識に従い滑川に掛かる橋を渡って吉野に入り、この集落の入口にある『木曽古道』と示された標識を反対方向に右折する舗装路が東野林道の入り口だ(東野林道という標識がある)。この林道をどこまでも上っていくと、風越山登山口に着く。4,5台の駐車スペースと簡易トイレがある。
 登山口の余り広くもない駐車スペースのど真ん中に上松町(もう無い)が簡易トイレを建てたので、駐車は実際には3台が良いところか?もう少し端に避けて建てれば良かったのにね…。5時半にアラームをセットし、シュラフに潜って仮眠した。

 アラームが鳴る直前に目が覚めた。良く晴れている、ぐっすりとは眠れなかったな…。起きてパンを食べ、支度を済ませると車が一台やってきて駐車場に停まった。登る人は居るんだな、風越山かな?木曽地方の山(アルプスは除く)としては、この風越山や糸瀬山・南木曽岳が知られたところだろうが、木曽三岳の一つ南木曽岳以外は登山者も少ない様だ。

 6時に風越山登山道に入る。いきなりの急登で雑木の急斜面をジグザグに登っていく。急な上りが少し緩くなってきたなと思ったら、間もなく『カヤトの丘』に出る。後続のご年配は元気良く先行していった。カヤトの丘からは眺めも良く、木曽谷を見下ろすパノラマは素晴らしい。下の上松の町並みや、南には須原・大桑の集落が見えるが、何と言っても北に大きく根を張る御嶽山が一番の眺めだろう。木曽谷沿いでは須原の町並みの上に糸瀬山が形良く、その向こうに目立つのは南木曽岳、そしてその向こうに鯨の背のような特徴ある恵那山が巨大だった。

 眺めは良いけど、このカヤト(ススキの穂が揺れる)の原沿いの登山道は、刈り払いされていないので、カヤトを掻き分けて進むから朝露で既にズボンはびっしょり(しょぼ)。カヤトを抜けると細いカエデやブナの明るい森になり、7時15分に風越の頭に着く。更にゆるい上下をしてしばらく進むと、やや薄暗い樹林になって道の途中のような風越山頂を7時27分に通過する(標識と三角点があるが、休むような所ではない)。山頂の標識が5分と示す、『展望』とある中央アルプス展望台もやっぱり薄暗い森の中で、7時34分に着いた。ここからは、窓が開いたように文字通りの中央アルプスの『展望』が望める。三沢岳が右手手前に一番大きく、その向こう側は麦草岳から牙岩へ続く、昨年登った懐かしい稜線だった。青いシルエットで聳え立っていた。

 展望で写真を撮っていたら、後続してきた2人目の単独ハイカーさんが先行していった。先ほどのご年配といい、今の単独ハイカーさんといい、みんな蕎麦粒岳まで行くのかなあ?結構登る人が居るのだろうか(ここなら人も居ないかな、と思っていただけに、少しガッカリ)。

 7時40分に『展望』からいよいよ道の無いルートになる。とは言っても、踏み跡は明瞭だったし赤テープも間断なく付いているようで、準登山道といった様子で、しばらくは平坦な尾根を進む。羊歯が繁茂していてルートを覆っているところもあるが、尾根の次の高みとの小鞍部までは細いダケカンバの疎林を歩いていく。林内は明るいが、緩く下りになってシラビソが多くなり倒木が目立ち始めるとやや薄暗くなった。倒木にはスギヒラタケがびっしり生えている。かつては安全な食菌として、山登りのついでに採って帰った事もあったが、数年前に相次いで発生した中毒事故以来、これを持ち帰ることもなくなった。

 緩い下りを下りきると、1,880m程の無名の円頂峰を登る様になるのだが、この上り下りは意外に距離が長い。1,880m峰は結構大きな山で、遠くから風越山を見る場合、この山を含めた全体が風越山と見える。風越山はこの大きな山の先っちょ、という感じか?1,880m峰の頂上部は、平坦で藪は薄いが、踏み跡も薄く何種類もの赤テープ類が紛らわしい。倒木も多くルートははっきりしない。ここで朝一に先行していたご年配が引き返してきた。良く分からないが、直ぐ先から引き返したということで、目的地は蕎麦粒岳ではなかった様だ?(「この尾根は前三沢岳まで続いていますよね?」と聞かれたが…)

 1,880m峰の下りは笹が深く、ルートは笹に埋もれている。身を没する程の所も有り、この日のルートの中ではここが一番不明瞭だった。尾根の行く手に幾重にも立ちはだかるように山が見えてきた。一番手前は2,118m峰(天狗山)の前尾根で、その奥に天狗山、次が独標蕎麦粒岳の前衛峰で、その次に砲弾型の独標蕎麦粒岳、その右にノミの先が鋸歯になった様な蕎麦粒岳が逆光のシルエットになってそそり立っている。尾根の南側(荻原沢側)は急峻で、正に突き立って見える感じで、この先の登りが思いやられる。いやー高いなあ…という感じです。

 目の前に黒木に覆われ、点々と黄葉したどんぐり型の山が立ちはだかる。これが天狗山の前尾根で、これを登りきると2段目の登りになって、その上が天狗山ということだ。荻原沢側はガレになって尾根は痩せ、足場の悪いところが多くなる。砂礫の縁から滑り落ちたら、100m位下に真っ逆さまだろう。砂礫の縁は侵食が激しく、北側はびっしりと茂った樹木が藪になっている。歩けるところはほとんど無いので、慎重に通過する。南に糸瀬山や恵那山が快晴の空の下にくっきりと見えていた。

 前尾根をあえいで登りきると、更に痩せた花崗岩混じりのガレを通過し、花崗岩の岩場とシャクナゲ藪が混じる、この日一番の急峻な登りになった。背後には西の展望が開け、登ってきた風越山からの尾根がうねうねと延び、その向こうに御嶽山や乗鞍岳、遠く穂高連峰が見えている。見上げる天狗山の前山は花崗岩の岩を配置して聳え立っていた。この辺りがこのルートで一番危険な所だった。岩場を通過し、一旦コメツガやダケカンバが混交する森を抜けると、天狗山本体の登りになる。荻原沢側のガレも食い込んで、登りが始まる所から覗き込むとV字谷が下まで急激に落ち込んでいる。この登りはきつかった。

 ようやく厳しい登りも終わり、振り返ると木曽谷と木曽の延々と広がる山々(奥三界岳など岐阜との県境を作る高い山並みの手前に広大な山域が広がっていた)が背後に大パノラマだった。枯死した木々が白骨の様に立ち並ぶところを登りきると、コメツガが鬱蒼と茂る薄暗い平坦地になる、そこが天狗山の山頂だった。天狗山に10時9分着。コメツガの木に色あせた赤テープが巻かれ、『テング山』と書かれていた。山頂を示すようなモノは他に何も無い。登り始めてから一度も休んでいなかったのでここで10分程休憩した。

 倒木に腰掛け、佐久のスーパーで買った手作りパンを食べた(あんこの代わりにマンゴーのフィリングが入っている不思議な味のパンでした)。この森の中はどこまでも静穏で、ヒトケの無い最高の居場所(と、ぼくは独りそんなトコにいる自分に満足しているのでした。つくづく、山登りに来ているのか、隠れ家を探しているのか、ヒトケの無い所が好きな変な自分。こういうときは、ピークハンティングなんかが本当の目的じゃ無いんだなという、ぼくが山に登る深層心理を感じてしまうのだ)。

 天狗山を過ぎると、今度は独標蕎麦粒岳の前山が立ちはだかる。この尾根はこうして次から次から幾つもの山を越えて行くので、思ったよりずっときつい山だ。ルート自体は、準登山道と言っても良いくらいルートファインディングも余り必要なく、赤テープも頻繁で迷う要素は少ないのだが…。この分では真の蕎麦粒岳までは無理だろうな、という気がしてくる。できれば、遠くから眺めたあの鋸歯の頂上に立ちたいが、独標まででも良いかなとも思い始める。再び黒木の中をあえぎながら登りつめ(今日はまた陽射しが暑く、暑さが戻ってきたようだ)、尾根沿いに枯死した木々が出てくると、11時5分に前山に登り着いた。目の前に現れた独標蕎麦粒岳の砲弾型ピークはこの先まだ一登りしなくてはならない。

 行く手の展望が開けてきて、三沢岳が大きく見えてきた。もう四周はパノラマが広がっていた。前山からは花崗岩の露出した尾根になり、ミヤマビャクシンやハイマツが覆う様になる。標高の割には高山的な景観なのは、それだけ気候が厳しい事を物語るのだろうか?そして、いよいよこれで最後と思った砲弾ピークを登りきると、ハイマツに覆われ、所々に花崗岩を配置した庭園のような平坦地に出て、まだその先に大きな花崗岩が無造作に積まれた様なピークが現れた。そのピークへは花崗岩の渡り廊下みたいなゴロ岩の稜線がある。ヤレヤレ。

 真の蕎麦粒岳が右手に手が届く近さで黒々と鋸歯を見せている。そこはびっしりとコメツガ等に覆われ、踏み跡さえ無いということなので、やはり今日はそこまでは時間的にも無理だと思った。独標の頂上に人影があるが、『展望』で先行した2人目の単独ハイカーさんだろう。花崗岩を右に左に飛びながら、あと少しで頂上というところで、そのハイカーさんが降りてきた。

 11時40分に独標蕎麦粒岳に登り着いた。周囲をハイマツに囲まれ、花崗岩の積み重なった小平地で、東の外れに三等三角点と小さな『2338蕎麦粒岳』の山名標識があった。ここは周囲から突き出した展望台の様な所で、360度の大パノラマだった。東には、麦草岳・木曽駒から目の前に三沢岳、檜尾岳・熊沢岳、やや遠く空木岳・南駒ケ岳から越百山まで中央アルプスの全山がずらりと横一列に並んでいる素晴らしい眺めだ。西側は、再三見えていた木曽側の展望が大きく開け、恵那山・南木曽岳から木曽谷が北上し、奥三界など岐阜との県境の山々が並ぶ北には御嶽山、更にその北に乗鞍岳と北アルプスの山々などが、快晴の空の下に広がっているのだった。南は蕎麦粒岳が、本当に直ぐそこなのになあ…。無理だな。

 誰もいない独標の上で眺めを楽しみ、おむすびを食べ、独り占めで12時30分までゆっくり過ごした。真の蕎麦粒岳までは届かなかったものの、大満足だった。

 下りも、天狗山を下りきるまで気が抜けない。1時45分に着いた天狗山頂で一休みした後は、1,880m峰に着くまで岩場・深い藪・ガレの通過に気を遣う。3時半に1,880m峰を通過し、新鮮な熊の糞にちょっとドキッとしたり、熊じゃなく目の前をあわてて通り過ぎていったカモシカを見送ったりしながら、時間も行きと同じくらいかかって4時に『展望』まで戻ってきた。すっかりガスが中腹まで隠してしまった三沢岳を見納め、4時8分に風越山頂を通過する。カヤトからは夕暮れの迫る木曽谷を見下ろし、遠ざかった蕎麦粒岳に最後の一瞥を送り、急で長い下りに少し閉口しかかる頃、4時58分に風越山登山口に降り立った。登りが5時間半、下りが4時間半というところだろうか。所要約11時間、かかった時間以上にきつく感じた山だった。

 帰りは3度目になる木曽駒天神温泉『青雲荘』の湯で、独り占めとはいかなかったが、汗を流し帰路に着く。しかし、3連休明けなので伊那から高速に乗ったのが却って間違いだったか、渋滞で5時間以上もかかってやっと11時半に家に着いたのだった。一般道で帰っても同じくらいだった様だ。

「追 記」
 ところで、この『独標』には荻原沢岳という、あまりパッとしない別名もあるようだ。荻原沢の源頭に当たるため、「荻原沢の頭」という程の意味なのだろう。どの程度認知された名称であるのかは分からない。今回はエアリアの標記を参考に『独標蕎麦粒岳』とした。いずれにしても、蕎麦粒岳は隣にある別の山です。いずれ機会があれば再度チャレンジしたいと思う。

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2 コメント

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この山域は全く初めて見ます (ノラ)
2010-10-15 21:04:20
あさぎまだらさん こんばんは。私は中央アルプスの地図を持っていないので,2万5千の地図を適当に開けてみました。全く初めて知る山で地形図には一切破線はありませんね。それにしても長時間山歩きです。頭がさがります。全く一人と言うわけでないところが不思議な感じです。
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知られざるルート (あさぎまだら)
2010-10-15 22:59:34
ノラさん今晩は。
蕎麦粒岳は遠くから見て、知った山です。
蕎麦粒というくらいなので、どこかからみた形が蕎麦の実
(三角の尖った形)に似ているのでしょうね。残念ながら、その実に似た本体には登れませんでした。
アルプス級の山になると、エアリアやガイドブックには載っていないルートが沢山あります。しらみつぶしに2000m級の山を登っている人は一杯いるようですから。
なので、知られざるルートは沢山あるようです。ここもその一つでしょう。
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