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「現代女性論」

2017年12月16日 11時21分07秒 | 創作欄
徹の卒論は「女性論」であった。
明治文学女性論は、友人が京王線の車内に置き忘れて幻となる。
400詰原稿用紙で870枚。
その原稿の分厚さにまず、現代文学研究会の後輩の香取信介が驚嘆。
「すごい、この原稿量だと原紙に書き写せるだろうか」と言うと、「僕がやろう」と重倉達弘が応じた。
だが、その前に原稿は紛失してしまった。
徹は、「夏目漱石の文学女性論」280枚を書いており、それほど落胆しなかった。
彼自身、「駄作」とも思っていたのだ。
徹と淑子が出会ったのは、赤坂であった。
声をかけたのは淑子の方であった。
「どこかで、会ってません?」と相手が足をとめて微笑む。
女性に縁がなかった徹が戸惑いながら、「どこにも居るような男ですからね」と身が引けた。
「お茶飲む時間ありますか?」
「ええ、たいした用事もないし・・・」
「これは奇跡か、こんな美人に声をかけられるとは」徹の胸は高鳴った。
女性が案内したのが東急ホテル前の喫茶店アマンドであった。
その店を知っていたが入ったのは初めてであった。
当時、徹は音楽療法をテーマに仕事をいており、TBSミュージックの帰りであった。
「何でも、話してみて」コーヒーを一口飲むと徹を見つめる。
「初対面ですが」と言おうとしたが、言葉を飲み込む。
徹はコーヒーを一口、二口飲みながら「この人は、どんな人なのか」と思った。
「あなたは、大人しいのね」相手は微笑みながら「わたしは、ヨッタン」と言う。
「ヨッタン?」
「そう、子どものころからヨッタンと呼ばれていたの。あなたは?」
「トオル」
「そうなの、トオルさんなのね」
徹はこの人と親しくなることを予感した。
同時に「現代女性論」の題材になるかも、と想ってみた。

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