新装版 星々の悲しみ

2020年04月27日 15時04分29秒 | 社会・文化・政治・経済
 
 
「受験勉強など、もうどうでもよくなってしまったのだ」
「きょう一日だけ、好きな本を読も」
なじみの図書館で小説を読みふける浪人生も「ぼく」。
そこで知り合った仲間との交流を通し、何物にも代え難い友情を結んでいく。
 
喫茶店に掛けてあった絵を盗み出す予備校生たち、アルバイトで西瓜を売る高校生、蝶の標本をコレクションする散髪屋―。若さ故の熱気と闇に突き動かされながら、生きることの理由を求め続ける青年たち。永遠に変らぬ青春の美しさ、悲しさ、残酷さを、みごとな物語と透徹したまなざしで描く傑作短篇集。
目次 星々の悲しみ 西瓜(すいか)トラック 北病棟 火 小旗 蝶 不良馬場 解説・田中和生
「成熟へのこだわりこそが宮本輝の独創であり、
(中略)いつも成熟へと向かう言葉に耳を閉ざしたがる若い世代がもっとも切実に必要としているのは、やはりその成熟へ向かう言葉なのである」(解説より)
 
 
高校時代、現代国語の教科書の中で出逢った「星々の悲しみ」。
わたしの若いこころは瞬く間に悲運の(登場人物)有吉に奪われてしまい、
初夏の大樹のそばで眠る彼を何度も思い浮かべた。

その後、文庫本を手に入れ、暗記するほど読んだのでボロボロになった。

大人になって、懐かしくって、アマゾンでまた新しく買った。
ページをめくるときのペリリ…という音。インクの匂い。
有吉の美しさとわたしの青春が、優しい風が吹きよせるようにして戻ってくる。
読み進めると、あのころと同じように、胸の奥が甘く痛む。
やはり宮本輝の青春小説は、時を超えて素晴らしいと思った。
 
 

「星々の悲しみ」って、なんて素敵なタイトルなのだろう。この言葉に惚れ込んで愛読しています。大好きな本です。年をとると一年って早く感じるものですが、18才の時には茫洋とした長い期間に感じられるものです。それまで規律正しく高校生活を送っていた者が一年後の目標に向かって自分自身でその時間管理をしなければならない期間であり、結果として一部の受験生には隙間の時間がうまれてしまいますが、そんな少しばかりの自由な期間に起こった若者達の素晴らしい経験を物語にしたものです。
ぼく、こと志水は予備校を図書館でサボっている時、牛乳瓶に小石を投げ込んで競っている有吉と草間と知り合い意気投合する。喫茶店じゃこう、には10号の星々の悲しみと言うタイトルの絵画が掛かっており、三人はここで珍事を起こしてしまう。その絵画のタイトルの由来を話し合ったり、その珍事は記さないけど、とてもユニークで宮本氏ならでは思いもつかない展開になり、何度もワクワクしながら読み返してしまう。
有吉が腰が痛いと言うあたりかたは、宮本氏の先の意図が想像することが出来るが、この後どう言う展開をするのだろうか?と言う興味に変わるから、まるでマジックの様でした。
志水の妹は、無垢で純粋な美しさを引き立たせ有吉、草間の注視の的になる。兄、志水はやきもきするわけだが、顔立ちも良く勉学にも優れた有吉のやるせない様な意外な気持ちをラストで描いていて秀逸な作品でした。本当に良い作だと思います。
「西瓜トラック」
高校を卒業して市役所に勤めるボクが以前に西瓜売りのトラックでアルバイトをしていた時、西瓜売りの男から男の情欲の話を聞かされ精気が抜けてしまった事を大人になった今、それを懐かしむと言う話で、若い頃には些細な事で性に関心を持ってしまう姿が描かれています。
「北病棟」
今では結核と言う病気は完全に治る病で今では患者数こそ少ない。この作より古い話では結核=死病であったが、ちょうど結核と言う病が死から生へと医学の進歩のなかで中間の位置にある時の話で、人により病弱の大小があり、その病棟に住まう人の悲喜こもごもの様子を描いた悲しい話でした。
「火」
新しく入った古屋と言う社員は、啓一から見たらいつも洟を啜って愛想のない人物だった。が、夜中にマッチを擦り炎を見て快感に浸る奇癖があった。啓一から見た大人の男の異常さを表し、その癖によって再会を確信する事になる。
「小旗」
家族を放り出し他の女と暮らしていた父が精神病院で死んだ。病院に向かう途中道路にバス会社の制服を着た男が交通整理の為に赤い小旗を振っていた。父の生前病院には父の女も見舞いに来ていたが、父は三角や~三角や~と喚いた。これは女が他の患者と出来た事を感づいたからだった。この小旗振りの男はバスを上手に捌き三角関係を順調に切り替えている様に思えました。
「蝶」
国電のガード下にパピオンと言う理髪店があり店内は蝶の標本で一杯だった。暫く休むと張り紙をした店主は、何時までたっても戻らなかった。不安になって大家と共に店内を覗くと、電車の振動で蝶が一斉に羽ばたいている様に見えると言う神秘的な話で「蛍川」のラストを思い起こされ感動しました。
「不良馬場」
肺病の寺井を見舞った河野は決して寺井には話せない秘密が有った。寺井は久し振りだからと言って競馬に行こうと誘う。馬場の状態は悪く不良だったがレースは始まり先頭を走っていた一頭が落馬してしまい大穴の配当しなってしまう。脚を折った馬の姿が痛々しく書かれ「優駿」を連想させる名作でした。

本書は昭和54年11月から昭和56年1月に各種雑誌に掲載された7編の短編集です。表題作「星々の悲しみ」を始め内容の濃い宮本文学を象徴する様な一冊です。

 

病は思い描いた将来を突然奪っていく。
なってしまったものは仕方ない、とは思えないのは、人間が複雑な心と思考を持つからなのかな。
このやるせない気持ちは、考えることを得たのと引き換えに持ち続けなければならない悲しみ。

 

宮本輝 短編集の傑作。何度も何度も読み返しました。
少年の心の描写をうまく描いた青春モノ。懐かしい風景のようにやさしい余韻がいつまでも残る作品である。
喫茶店から「星々の悲しみ」という1枚の絵を盗み出し、薄命の画家に想いをはせる若者を描いた表題作と、「西瓜トラック」が中でも非常に印象に残っている。
表紙の佐藤忠良氏のスケッチもよく合っている。

 

『星々の悲しみ』は氏の少年時代から青年期の自叙伝とも言える短編の数々を集めたものです。現実感に溢れていて関西弁のセリフも非常にリアルでウイットに満ちています。短編冒頭の「星々の悲しみ」は誰もが味わう思春期の甘酸っぱくほろ苦い想いを登場人物たちの絡みで自然に醸し出しています。この短編集の白眉ともいえる作品だと思います。「小旗」は氏の父親に対する思いが伝わる秀作で思わず目が潤みました。宮本輝ワールドの魅力を味わえる、これぞ短編小説の醍醐味という宝石を集めたような一冊です。

 

星々の悲しみ
予備校時代の密やかな話。そして、友人の死。
こころが不安定な時期に 沈殿する青春の苦さ。
死んだように本を読んでいる青年の絵が こころを揺さぶる。
それを 3人で盗もうとする。
それがきっかけで 妹に焦がれる友人。
頭も良くて 美青年に 何となくいらだつ。

西瓜トラック
スイカ売りのアルバイトをしたが。
そのオトコの奇妙な振る舞いが 印象的。

北病棟
死を予感する人の せつない想い。
雨の中で、影絵をじっと見る 夫が、沁みていく。
 

蓄膿症と マッチの火をつけるオトコ。

小旗
父親が精神病院で死んだ。
流転の海の 熊吾が モデル。


蝶々好きな理髪師が 行方不明になった。
標本の蝶が怪しく羽ばたく。

不良馬場
肺病棟。死に選ばれる人と復活する人。
競馬場に気晴らしに行くが。

『死』を じっと見据えて 静かに描いていく。

 
 

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