藁の王

2019年04月30日 17時24分31秒 | 社会・文化・政治・経済
 

小説家としてデビューしたが著書は一冊だけ、しかも絶版。
そんな私が巨大私立大学で創作を教えることになった。
だが自身の執筆は行き詰まり、教え子たちも苦悩し隘路へとはまり込んでいく。
なぜ私たちは小説を志すのか――自身の経験を元に、文学の迷宮、小説の樹海を彷徨う人々を描いた表題作を初めとした渾身の作品集。

「人はなぜ書くのか。書くことと教えるこは、どういうことなのか。それは可能なのか」。
主題が痛々しいほど胸に迫る。
著者は近畿大学で准教授を務めている。
その経験に裏打ちされた表現の数々にリアリティーがあふれている。
「私も実際に講師をすることで、閉じていた作家としての世界に変化がありました」と話す。
体当たりで学生たちと意見を交わす日々が続くなか「自分の小説に他者性を生んだのかもしれない」という。
「私小説ではないが、現実と共通する部分がある」というだけに、手触りがとても生々しい。
「一見閉じた大学や文学の世界を扱いながらも、どこか社会に開かれた作品になったかもしれないと思います」

作家デビューは2007年。
以来、翻訳業の傍ら小説の執筆に取り組んできた。
幻想的な前作「鏡のなかのアジア」で芸術選奨新人賞を受賞したことで、これまでの作品にも改めて注目が集まっている。

 
 

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