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天皇と戸籍 ─「日本」を映す鏡

2020年02月24日 01時16分54秒 | 事件・事故

「日本人」であることを証明するのが戸籍とされる。だが天皇家の人々は戸籍をもたない。その根底には何があるのか。現代日本をも貫く家の原理を浮き彫りにする。

天皇と戸籍 ─「日本」を映す鏡

遠藤/正敬
1972年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了。博士(政治学)。専門は政治学、日本政治史。現在、早稲田大学台湾研究所非常勤次席研究員。宇都宮大学、埼玉県立大学、東邦大学等で非常勤講師。著書に、第三九回サントリー学芸賞を受賞した『戸籍と無戸籍―「日本人」の輪郭』(人文書院、2017年)などがある(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

 
本書が導きだすのは、われわれの日常生活において、ほとんど意識することのない戸籍という制度が、ルイ・アルチュセールのいう「国家のイデオロギー装置」として機能してきたこと、そしてそれは天皇制イデオロギーと不即不離の関係にあったということ、であろう。
ここには奇妙なパラドックスがある。すなわち、戸籍制度の埒外におかれている天皇と皇族という存在が、戸籍制度に絡め取られた国民の範型となっているというパラドックスである。それはいかにして創り上げられたのか。著者は、皇室関連法と戸籍法との成立過程を詳細に分析しながら論証している。
明治初期の憲法体制創設時における議論の過程を本書で見ると、そこに法制官僚としての井上毅の存在の大きさが見えてくる。井上こそが明治の天皇制国家のイデオロギーを体現していたのであろう。
ただ、イデオロギーとは所詮観念的な産物に過ぎない。本書の巻末の以下の一文が、その本質を剔抉している。

『「皇統」なるものは、それがまぎれもない「純血」なものであるという擬制の合意による産物である』

まことに勇気ある指摘であると思う。学者とは、かくあらねばならない。
 
 
選挙権もない。
結婚は当事者で決められない。
「他家に嫁いだ」女性は、離婚しても、「実家の籍」には戻れない。
つまり「日本国民」の権利を多分に制限された「日本国民」が、皇族である。
なぜ、こんなにも特殊な「日本国民」が存在するのか。
戸籍制度とセットで理解して、初めて明確に分かる。
戸籍は、事実上、日本だけにしかない国民登録システムだ。
背景には、古代・中世の歴史から近代日本が作り上げた国家神話がある。
戸籍は天皇が民草に与えるもの。
家単で「先祖代々」の土地に登録された人間の上に、天皇は超然としている。
「日本人」という擬制は、「血」と「家」でできている。
この擬制は、天皇と戸籍のセットであって、初めて機能してきたとさえ言える。
 

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