ショートショート『ケーブルテレビ』

2012年06月05日 | ショートショート



「殿様ぁ、行くぞ、熱血~!」
懐かしのTVチャンネルで『ダンディ2華麗な冒険』を楽しんでいたら電話が鳴った。
ボリュームをミュートにして、電話に出る。
「こちらケーブルTV局です。御利用ありがとうございます」
「こないだ地上波がデジタル化したじゃん?十分な画質で見ることができるようになって、ケーブルTVのメリット感じなくなったんだよな。解約手続き、教えてよ」
「お客様ぁ、アンテナ受信だと、画像にブロックノイズが入ったり、画面真っ暗になって『受信信号が低下しています』なんて表示が出たりして大変ですよ。ケーブルだとそんなトラブルはなしです」
「でもアンテナだと近隣他県の放送局も見れちゃったりするんだよなぁ」
「そのかわりケーブルだと、衛星放送とか、懐かしのTVチャンネルとか、オプションで思いのままに増やせますよ~」
「そこだよ。アンテナだと最初に屋根に立てる初期投資でメンテナンスはほぼ不要じゃん。でもケーブルって月々の基本料金がかかるし、さらにオプションを付けたら加算されていくじゃない?結局、高い金使っちまうんだよ」
「いえいえ、ネットや電話もケーブルサービスで統一していただくと、割安になるんですよ~」
『ダンディ2』が終わった。これでシリーズ全作終了。もうこれでケーブルTVに未練はない。
「さらに、うちは地域密着型のチャンネルも充実しておりまして・・・」
「決めました。やめます。ケーブルTV」
「え?基本放送も全部?」
「ケーブルからの受信、一切やめます。ハイ、これ決定!」
「・・・わかりました。御利用ありがとうございました」
次の瞬間、目の前が真っ暗に。
え?どゆこと?
目を開くと、見馴れたアパートの一室は姿を消していた。
ボクの周囲には、六角形に仕切られた部屋が並んでいる。果てしなく、果てしなく。ハチの巣そっくりだ。
隣もまたその隣も、各部屋にブヨブヨした白い人間が入っている。手足が退化してハチの子そっくりだ。
そして、ボクもそのひとりに過ぎない。
慌てて、ライフライン回線を通じて、ケーブルTV会社に再契約を申し込んだ。
「御利用ありがとうございます。ああ、さきほどの。それで、つなぎます?もっとはずします?」
・・・もっとはずせる?
・・・もっとはずしたら、いったいナニ?


 
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映画『フェアウェル~さらば哀しみのスパイ』

2012年06月05日 | 映画の感想



監督 クリスチャン・カリオン
エミール・クストリッツァ (Sergei Gregoriev)
ギヨーム・カネ (Pierre Froment)
アレクサンドラ・マリア・ララ (Jessica Froment)
インゲボルガ・ダプコウナイテ (Natasha)
アレクセイ・ゴルブノフ (Choukhov)
ディナ・コルズン (Alina)
フィリップ・マニャン (Francois Mitterrand)
ニエル・アレストラップ (Vallier)
フレッド・ウォード (Ronald Reagan)
デイヴィッド・ソウル (Hutton)
ウィレム・デフォー (Feeney)
エフゲニー・カルラノフ (Igor)
ヴァレンチン・ヴァレツキー (Anatoly)
1981年のモスクワ。KGBの幹部グリゴリエフ大佐は、フランスの国家保安局を経由して接触した家電メーカーの技師ピエールに奇妙な親近感を覚え、ある重要な情報を渡す。それは、スペースシャトルの設計図やフランスの原子力潜水艦の航路図など、ソ連が調べ上げた機密情報だった。世界の国家勢力を一変させる力を秘めたその情報の壮大さに、一介の技術者に過ぎないピエールは目を見張り興奮する。

★★★★★
『ザ・スパイ~裏切りのミッション』を観てガッカリした翌日に性懲りもなくスパイ映画に挑戦。しかも、主演の役者も同じギヨーム・カネのフランスもの。なんでこんなの借りたかなぁ。って観はじめると、これがすこぶるいい!出だしの銃殺を示唆する場面から引きつけて、モスクワと家族で駐在中の家電メーカー技師に過ぎない男ピエール・フロマン=ギヨーム・カネの日常へ。なぜか彼にKGBの男が接触して情報を提供しはじめる。なぜスパイでもなんでもない彼なのか?KGBの男、セルゲイ・グリゴリエフ大佐= エミール・クストリッツァの日常もまた並行して描かれていき、彼の家族への思いや祖国への思い、そして祖国を裏切る理由もリアルに伝わってくる。このあたりの日常的な描き方ってのがホームドラマかと見紛うほどでもう心憎いばかり。しかし、一方では合衆国中枢にまで食い込んだKGBの情報網が明らかになって、ミッテラン大統領が、レーガン大統領が驚愕する様が痛快。まさにミクロとマクロ。個人と国家。このへんのダイナミズムがこの映画の面白さ。ハデハデのアクションシーンも不要、ギリギリのサスペンスシーンも不要。さりげなく迫る危険にハラハラドキドキしてしまう。ピエールとセルゲイ、それぞれの国を思う気持ちや正義、そして家族を守りたいという切実な思いなどがひしひしと伝わってくる。そしてラストのなんとも冷徹で皮肉などんでん返し。ああ、そのためにいたのか!CIA長官フィーニー役のウィレム・デフォー!この映画、なんといってもセルゲイ・グリゴリエフ大佐役のエミール・クストリッツァの強面が強烈なインパクトだ。強烈にして繊細、そして情熱的。スゴイ役者だなぁと思ったら、なんとご本人も監督さん。しかも、あの世界大戦後も地下でコミュニティーを作って生活するユーゴスラヴィアの人々を描いた名作『アンダーグラウンド』の監督なんだそうだ。さすがだなぁ。ついでにこの映画、フランス政府が初めてエリゼ宮殿で撮影許可した映画なんだとか。実はレーガンとミッテランが協力してソ連崩壊の引き金を引いたこと、冷戦終結にフランスが多大な貢献をしたことを描いたこの映画に協力するあたり、フランス政府の意図がうかがえる。それにしても、この映画のタイトル、なんとかならないか。安っぽい三流スパイ映画じゃないんだから、「さらば哀しみのスパイ」はないんじゃないの。ここは、思い切って『フェアウェル事件』というタイトルどかん!で、よかったと思うのだが。


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映画『ランゴ』

2012年06月05日 | 映画の感想



監督 ゴア・ヴァービンスキー
ジョニー・デップ (Rango / Lars)
アイラ・フィッシャー (Beans)
アビゲイル・ブレスリン (Priscilla)
ビル・ナイ (Rattlesnake Jake)
アルフレッド・モリーナ (Roadkill)
ハリー・ディーン・スタントン (Balthazar)
レイ・ウィンストン (Bad Bill)
砂漠のハイウェイを移動中の車から振り落とされてしまったペットのカメレオン。たどり着いた町の酒場で、自分を「ランゴ」と名乗り、TVで見たヒーローを真似して悪党を倒した武勇伝を語る。ウソと偶然から、町の住人たちにヒーローに祭り上げられ、保安官に任命されてしまったランゴ。そして任命早々、町の水が盗まれる事件が発生。ランゴは自警団と共に水を探す任務に出かける事に。しかし、その裏には大きな陰謀が隠されていた。

★★★★★
このアニメ映画は好きだ!これまでに作られたCGアニメの中で出色の出来だ。これまでに作られた外国アニメの中で、『アイアン・ジャイアント』と『モンスターVSエイリアン』が傑作だと思っているボクが言うんだから、絶対にあてにならないけど(笑)。まず何より登場する動物たちが不気味で最高!アニメの動物ってみんなかわいいお人形という常識をまったく否定している。スターウォーズの酒場で集うエイリアンや、ヒエロニムス・ボッシュの地獄絵図に出てきそうな、キモいクリーチャーたち、素敵!ジョニー・デップが声をあてた主人公は、爬虫類のカメレオン!カメレオンという設定が深い!ジョニー・デップが映画によって七変化するカメレオン俳優だからっていうのもあるだろう。でも実際に動き、喋るカメレオンを見ていると、どんどんジョニー・デップその人が演技しているように見えてくる。それだけでなく、この映画はランゴがどんどん変化していくのを楽しむ映画なのだ。カメレオンはアメリカに棲んでいない爬虫類だ。ペットとしてケースに入れられて飼育され、グラマー人形と魚のオモチャだけが話し相手のオタッキーな彼が、砂漠に落とされてから口八丁で保安官に任命され、一大事に巻き込まれ、友だちができ、トカゲ女と出会い・・・そんなふうにして色や役割や自分を変えていくお話なのだ。お話自体は往年の『チャイナタウン』を想起するような巨大陰謀が描かれたりするんだけど、本場アメリカの西部劇やマカロニウェスタンの引用、パロディ満載で飽きさせない。マリアッチふくろうが狂言回し役なんだけど、いかにもランゴの身に何かありそうな語りっぷりからの展開がまた面白かった。猛禽のアカオノスリから襲われて逃げるシーンって、ボクの大好きな映画のひとつ、『赤ちゃん泥棒』を意識した音楽と絵づくり(クライマックスで野獣男から逃げまどうニコラス・ケージのシーン)だよな。黒ずくめの殺し屋ガンマン、ガラガラヘビのジェイクがリー・ヴァン・クリーフっぽかったり、西部の精霊役がクリント・イーストウッドっぽかったり。駅馬車風のチェイスでは追手がコウモリに乗ってて『ワルキューレの騎行』がバンジョー演奏で流れたり。とにかくサービス満点で楽しい。この映画のセンスはツボだ。特記したいのは、ハンス・ジマーの音楽!60年代の映画音楽全盛時代を彩るマカロニ・ウェスタンを彷彿とするアクの強いメロで、熱い!久しぶりにサントラ盤を聴いてみたい映画だ。

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映画『タンタンの冒険』

2012年06月05日 | 映画の感想



監督 スティーヴン・スピルバーグ
ジェイミー・ベル (Tintin)
アンディ・サーキス (Captain Haddock)
ダニエル・クレイグ (Ivanovich Sakharine)
サイモン・ペッグ (Inspector Thompson)
ニック・フロスト (Thomson)
トニー・カラン (Lt. Delcourt)
トビー・ジョーンズ (Silk)
スティーヴン・スピルバーグが3年ぶりに監督を務め、初のフルデジタル3Dに挑んだ本作は、世界中で愛されている漫画「タンタンの冒険」を映像化したもの。17世紀に姿を消した帆船ユニコーン号の模型を手にした少年タンタンが、愛犬スノーウィと船長ハドックとともに財宝の行方を追う、スピーディーでスリル満点の冒険活劇だ。原作コミックのテイストを守り、タンタンの旺盛な好奇心と想像力、ちょっとした勇気と閃きで真実を探す姿を活写している。『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのピーター・ジャクソンが製作に参加し、世界最高水準のVFXで描かれる世界観に加え、実写では不可能なダイナミックなカメラの動きも見どころだ。
タンタンは、世界中を飛び回り、スリルに満ちた冒険を記事にしている少年レポーター。ある日、彼はガラスケースに陳列されていた帆船の模型に魅了され購入する。ところがその直後から、彼は見知らぬ男たちに追いかけ回されることに。何とその船は17世紀に海上で消息を絶った伝説の「ユニコーン号」だった。模型を調べていたタンタンは、マストから暗号が記された羊皮紙の巻物を発見する。その暗号は、ユニコーン号の財宝のありかを示していた。

★☆☆☆☆
これはあれだな。劇画タッチのサザエさんとか、スピードスケート選手みたいなドラえもんとか、ああいうリアルを笑っちゃうセンスの人が見たらギャグとしか思えない映画。映画冒頭、主人公のタンタンが似顔絵を描いてもらうと原作のタンタンの顔っていうシーンがある。つまり、原作のタンタンは映画を漫画チックにしたものってわけか。なぜスピルバーグはこんな映画を作ろうと思ったんだろう・・・。ターミネーターやジェームズ・ボンドみたいな、漫画チックなシリーキャラクターを見るとき、主演する俳優が老けていくのがなんとも辛い。映画の作り手ならみんな感じるんじゃないかな。いつか年をとらない永遠に活躍するキャラクターを映画でものにしたい、と。スピルバーグが敢えて実写でやればすみそうな映画をCGにこだわったのはここじゃないかと思う。将来、コンピューターの中でリアルに再現された、シュワルツネッガーやショーン・コネリーやブルース・リーなんてのが登場して活躍することになるかもしれない・・・そんな新時代を繙く嚆矢とならん!との意気込みなのかも。だがCGで創られたリアル人間のヒーローが不気味さを完全に克服して広く親しまれるには、今少し時間がかかりそうなこともまた、この映画は感じさせてくれる。この映画をどうやって撮ったかはよく知らないけれど、映画を観ている間中、映像に驚嘆すると同時に、いっそ実写で撮れよとツッコミを入れ続けてしまった。カメラの手ブレっぽい動きまで再現するこだわりっぷりなんて尋常じゃない!さてさて、この映画のお話のほうはどうかというと、映像の情報の多さに疲れてしまってどうでもよくなりそうなんだけど、単純明快、きわめてオーソドックスな冒険活劇になっている。でも、ボクは今回のスピルバーグの演出には失望してしまった。小物の悪人を撃退するシーンで、その悪人が運良く助かるシーンをたびたび入れてくる。スピルバーグの温かい人間愛?これってイソップやグリムの、ヒューマニズムの名のもとに改悪するセンスに近いんじゃないか?最もガッカリしたのは、飛行機が墜落して気絶したタンタンの頭がずれて回転するプロペラに近づいていくシーン。そう、失われた聖櫃のシーンみたいな。間一髪、ハドック船長によって救出されるんだけど、今度は船長の背負ったパラシュートがプロペラに絡んで・・・船長はグルグル回転して砂漠に放り出されちゃうっていう漫画で終わる。リアルな危機と相容れない漫画シーンでの終わり方に失笑、というか多少なりともハラハラした自分に腹が立ってしまうような演出にガッカリした。多くの監督たちは、かつてスピルバーグが最高の形で『ジョーズ』でやった、次の瞬間に何が起きるかわからない映画の高揚感を模倣してきた。だが本家にはもう昔の過激さを期待しちゃいけないんだろうなぁ。ボクはこんな辛口なことしか書けないから、もうCGアニメなんて見るのをやめよう、そう真剣に思った。翌日、『ランゴ』を見るまでの数時間だけ。

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映画『リアル・スティール』

2012年06月05日 | 映画の感想



監督 ショーン・レヴィ
ヒュー・ジャックマン (Charlie Kenton)
エヴァンジェリン・リリー (Bailey Tallet)
ダコタ・ゴヨ (Max Kenton)
アンソニー・マッキー (Finn)
ケヴィン・デュランド (Ricky)
ホープ・デイヴィス (Aunt Debra)
カール・ユーン (Tak Mashido)
ジェームズ・レブホーン (Marvin)
リマ・ファキ (Rima Fakih)
2020年、ボクシングは、生身の人間ではなく高性能のロボットたちが闘う競技になっていた。元ボクサーのチャーリーは、ロボットの賭け試合などで生計を立てていた。ある日、かつての恋人が亡くなり、その息子・マックスがチャーリーの元にやって来る。部品を盗むために忍び込んだゴミ捨て場で、マックスはATOMという旧型ロボットを見つけ、家に持ち帰ってきた。マックスはATOMをチューンナップし、試合に出場する事を決意する。
★★☆☆☆
予告編で少年がポンコツロボットを見つけるところから連戦連勝するところから手短に紹介してあるから、だいたいこんなストーリーだろうなぁと予測したとおり、寸分違わぬ出来の映画だった。ストーリーは、スタローンのロッキーそのまんま。そして手塚治虫のアトムの『地上最大のロボット』に似たロボット対戦を加味すると出来ちゃった映画という感じだった。きっちりドラマが描いてあるから安心して楽しめる映画だが、新鮮味に乏しい。こういう映画にもきっちり一応の感激してしまう自分だが、やっぱりありきたりなんだよなぁ。劇場で観た予告のほうがうまく編集してあってよかったかも・・・。この映画を観ていて、ボクがいちばん感じたのは、ロボットだと残酷な描写がOKなこと。そりゃお子さまアニメでも特撮ヒーローでもちぎれたり爆発したりしても平気なんだけど、より実写に近いCGで、腕や首がもぎとられたり鮮血がマットを染めていくようにオイルが流れ出したりするシーンを観て、こいつを人間で描いたらスプラッタバイオレンス映画でお子さまは映画館に入れないぞなんて思った。。相手の人間性さえ否定すれば、どんな残虐行為でもできちゃう、みたいな薄気味悪さをひたひたと感じた。この感性を、過激に悪趣味に映像化してロボット同士の残酷大戦映画ものってできそうだなぁ。もちろん、監督はポール・バーホーベン、かな?

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映画『乙女の祈り』

2012年06月05日 | 映画の感想



監督 ピーター・ジャクソン
メラニー・リンスキー (Pauline Ivonne Parker)
ケイト・ウィンスレット (Juliet Hulme)
サラ・パース (Honora Parker)
ダイアナ・ケント (Hilda Hulme)
クライヴ・メリソン (Henry Hulme)
あらすじとかは省略。

★★★★★
なんの予備知識もなく観て大正解だった映画。こういう映画です、と予備知識を入れて観ると、結末だけ今か今かと期待してしまい、面白さ半減だと思う。だからもし、ここまで読んで観てみよう、なんて思った人は、これから先は読まないで、映画をどうぞ!
・・・
と、いうわけでネタバレありの感想を安心して書こう。青春の頃って妄想の世界に心を遊ばせてしまうことが多かったと思う。ボクなんか、ロードショーなどの映画月刊誌やスパイ小説を隅から隅まで読んでのめりこみ、空想の世界に逃避して毎日を送っていた気がする。時々どっちが現実かわからなくなって、頭がおかしくなった気さえした。あの時、もし、その世界を共有できる友人がいて、一緒にその世界をさらに拡大していたら・・・。まさに、この『乙女の祈り』で描かれているような事態に転落して行っても不思議はなかっただろう。この映画がユニークなのは、実際の事件を起こした二人の少女が書き残した言葉を元に、その空想世界『ボロウィニア王国』までもCGで再現してしまっているところだ。現実の中に王国が現れ、境目がなくなっていき、王国こそが世界となっていく。そして王国を守るために、ついに母親を。監督は、あの『指輪物語』や『キングコング』のピーター・ジャクソン監督。そう、つまりあっちの世界の住人なのだ。だからこそ、彼女たちの精神世界がこんなに共感をもってリアルに描けたんだと思う。彼同様、ボクも今でもあっちの人間なんだけども。主演の二人、メラニー・リンスキーとケイト・ウィンスレットが初々しくて生々しくていい。傑作だ。
・・・ちなみに、この映画は実話で、この映画をきっかけに、「実は私がその一人でした」とカミングアウトした女流推理小説家がいるんだとか。映画もスゲーが、現実もスゲー!

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映画『ウェルカム・ドールハウス』

2012年06月05日 | 映画の感想



監督 トッド・ソロンズ
ヘザー・マタラッツォ (DawnWiener)
ブレンダン・セクストン・ジュニア (Brandon McCarthy)
エリック・メビウス (Stephen)
ヴィクトリア・デイヴィス (Lolita)
グリスティーナ・ブルカト (Cookie)
クリスティーナ・ヴィダル (Cynthia)
シリ・ハワード (Chrissy)
テリー・ポンティディス (Jed)
ハービー・デュワート (Lance)
スコット・クーガン (Troyn)
ダリア・カリニナ (Missy Wiener)
マシュー・フェイバー (Mark Wiene)
ジョシア・トレイガー (Kenny)
ケン・ラング (Barry)
ディミトリ・イエルボリーノ (Ralphy)
毎日を悪戦苦闘して生きる、ちょっと変わった中学生の女の子の日常を描いた一編。監督・製作・脚本は本作がサンダンス映画祭審査員大賞(グランプリ)を受賞したトッド・ソロンズ。出演は新人のヘザー・マタラーゾ、「エンパイア レコード」のブレンダン・セクストン・ジュニアほか。

★★★★☆
キラキラの青春映画なんて、今さら気恥ずかしくて観ちゃいられない。んなわけでこの映画。ん~なんてスンゴイ青春映画なんだろう。これだよ、これ。これがホントの青春だよ。所詮、フツーの青春映画って美化されたキレイゴトなのだ。そんな輝かしい青春を過ごせる幸せ者なんてホントはひと握りなんじゃないか?嫌いな教科があったり苦手な先生や生徒がいたりして、明日までに学校が焼けちゃえとか地球がなくなっちゃえなんて願うのが、リアルな青春じゃないだろうか。容姿も頭もよくなくて、ダサくて頑なで、学校でも家でも疎んじられている少女ドーンが主人公。ランチタイム、トレイを抱えたままウロウロするばかり、受け入れられる場所がない様子で学校でドーンが受け入れられる場所などないことが語られる。家では要領のよい妹ミシィとまったく逆のドーンを描くことで両親の愛情さえ享受できない境遇が語られる。ドーンは現在7年生・・・これって日本では13歳、中学1年生にあたるらしい。ドーンには高校生の兄がいるがコイツもダサい。ダサいが、それを受け入れて大学進学で周囲を見返すことを第一義に、何をするのもすべて内申書で有利になることしかやらない。ま、ある意味信念をもった兄貴だ。そんな彼女の居場所は庭の片隅に作った小屋。その秘密基地メンバーは『特別人間クラブ』会員なわけだが、会員はドーンと近所の年下の男の子だけ。ドーンはこの子がいじめられたら庇ったりするんだけど、自分が周囲からされていると同じように見下して遠ざけたりもする。クラスの悪タレ男子ブレンダンにレイプするぞなんて脅されつつも、急接近。でも、ドーンは勝手に好き好き光線出しまくりだけどもまったく相手にされていない、兄のバンド仲間のステファンなんて中身からっぽのイケメンがいたり。もうとにかくこの映画、光が見えたと思ったら消え、見えたと思ったら消え、これでもかと突き落とされるドーンが描かれる。ミシィ誘拐事件の結末のシニカルなことといったら。最後の最後まで救いなんかあるはずもなく、安易なハッピーエンドなんかないのだ。そんなのが最後にあったらウソ臭くてつまんないじゃないか。これぞ最高の青春どん底コメディ!この映画を撮ったトッド・ソロンズ監督の映画ってあんまりレンタルDVDになってないんだよなぁ、残念。評判のいい『ハピネス』、ぜひ観てみたい!

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映画『その男、凶暴につき』

2012年06月05日 | 映画の感想



監督 北野武
北野武 (我妻諒介)
白竜 (清弘)
川上麻衣子 (灯)
佐野史郎 (吉成新署長)
芦川誠 (菊地刑事)
平泉成 (岩城刑事)
音無美紀子 (岩城の妻)
岸部一徳 (仁藤)
吉澤健 (新開)
小沢一義 (植田・清弘の手下)
寺島進 (織田・清弘の手下)
佐久間哲 (片平・清弘の手下)
一匹狼の刑事・我妻諒介は凶暴なるがゆえに署内から異端視されていた。暴力には暴力で対抗するのが彼のやり方だった。麻薬売人の柄本が惨殺された事件を追ううち、青年実業家・仁藤と殺し屋・清弘の存在にたどり着いたが、麻薬を横流ししていたのは、諒介の親友で防犯課係長の岩城だった。やがて岩城も口封じのため、自殺に見せかけて殺されてしまう。一方、清弘の仲間たちは知恵遅れの少女を諒介の妹と知らずシャブ漬けにして輪姦する。諒介は刑事を辞めて、岩城の復讐のために仁藤を撃ち殺した。さらに清弘もアジトで射殺するが、その死体にすがるのは変わり果てた妹・灯の姿だった・・・。

★★★★☆
キタノ映画をなんとなくろくに観ていなかったけれど、『ソナチネ』が気に入ったので少しずつ観ていこうと思う。そんなわけで初監督作品の『その男凶暴につき』。もし北野武がこの一本で映画を撮ることをやめたとしても、内田裕也の『コミック雑誌なんかいらない』みたいなカルトな人気を保ち続ける作品になっていただろう。その後の映画のバイオレンスへと派生する魅力や、映画構成がすべて詰め込まれた原石みたいな映画だ。なんといってもこの映画での武の暴力的で無軌道な存在感がすごい。それを際立たせるのは、敵対する白竜の薄気味悪いくらいの極悪ぶりだ。この二人が組織という存在を超えて個人対個人レベルで火花を散らす凄味ってのは息が詰まるくらいだ。神経を逆なでする過剰な暴力描写は今でこそ認知されているが、当時は衝撃的だっただろうなぁ。ヤクの売人が屋上に追い詰められてしがみついている手の指を切るシーンとか、ナイフを素手で握りしめるシーンとか。『アウトレイジ』にもカッターで指をつめる痛いシーンがあったが、こういう映画を観て痛さが伝わってくるような表現って、正直辛い。辛いだけにビクビクしながら怖いもの見たさでついつい映画に集中してしまう。こういう感覚ってコーエン監督の映画やリュック・ベンソン監督の映画を観ている感覚に近い。ボクがなにげに気に入ったシーンは、もうひとりの売人を白竜が始末する描写。売人のアパートに武が訪れて話したあと夜道を歩いて帰っていると、陸橋でなにげに白竜とすれ違う。そのあとも不自然なくらい延々と武の歩く姿が映され続けて、線路沿いを歩いていた武が突然気がついて駆け戻るっていう描写。いやぁ長い長い。だがその歩いている時間に白竜によって殺人がおこなわれたことを示唆している。最初の売人の殺され方とまったく違う描き方。静と動、緩急のみごとな演出っぷりは、もうここで開花している。『ソナチネ』でボンネットに映る光で銃撃を現したみたいな。う~む、やはりタダモノではない!

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映画『フェイク・クライム』

2012年06月05日 | 映画の感想


監督 マルコム・ベンビル
キアヌ・リーヴス (Henry Torne)
ジェームズ・カーン (Max Saltzman)
ヴェラ・ファーミガ (Julie Ivanova)
ジュディー・グリア (Debbie Torne)
ピーター・ストーメア (Darek Millodragovic)
ビル・デューク (Frank)
フィッシャー・スティーヴンス (Eddie Vibes)
ダニー・ホック (Joe)
ニューヨーク州バッファローのハイウエイ料金所で深夜働くヘンリー・トーン(キアヌ・リーヴス)は、看護師の妻と共に目的もなく漫然と日々を過ごしていた。ある日、高校時代の悪友たちから野球の試合に誘われ、車を銀行の前に停めて待っていたところ、突然ベルが鳴る。知らないうちに彼は強盗の運転手にさせられていたのだ。逮捕されたヘンリーは仲間の事を一言も喋らず、懲役3年の刑に服する。刑務所で同房になったのは詐欺犯のマックス(ジェームズ・カーン)。彼は、ヘンリーに意義ある人生を送るようアドバイスする。そして1年後。仮釈放されたものの、妻が他人の子を身籠っていることを知って家を去るヘンリー。雪が降る中、強盗のあった銀行の前にぼんやり立っていた彼は、突然クルマにはねられる。あわててクルマから飛び出してきたのは、舞台女優のジュリー・イワノワ(ヴェラ・ファーミガ)。彼女は隣の劇場でチェーホフの『桜の園』の主人公ラネーフスカヤを演じることになっていた。大した傷もなく、これをきっかけにジュリーと知り合ったヘンリーは、劇場と銀行の間に古いトンネルが存在したことを知り、あることを思いつく。やってもいない銀行強盗で刑務所に入ったのだから、銀行から金を頂いてもいいだろう……。やがて刑務所から出所したマックスを巻き込み、劇場から銀行までトンネルを掘る計画を立てる。それはまず、マックスを劇場のボランティア・マネージャーに仕立て上げ、続いてヘンリーが劇団員に応募するというものだった。計画は順調に進み、トンネル掘りが開始。だがやがて、ヘンリーは自分に舞台俳優の才能があることに気付くとともに、ジュリーに対する恋心を自覚してゆく。ある夜ついに、ジュリーに身に覚えのない犯罪で刑務所に入っていたことと、これからの計画を打ち明けるが……。

★★★★☆
この映画を配給した会社の、この映画の扱い方が疑問だ。キアヌ・リーブスがプロデュース&主演が売りの、どんでん返し系サスペンス映画として宣伝している。映画チラシの『信じたら、だまされる。罠だらけのクライム・サスペンス』なんて宣伝文句、大嘘だ。マジで信じたら、だまされるっつーんだよ!まあ、小粒の映画をなんとか日本で公開して少しでも客を寄せたいという熱意として好意的に受けとめたいところだけど、こんな宣伝文句に映画を見た人は内容との違いに腹を立てちゃうよ。JAROってなんJAROに訴えてやる~!というわけで、今回はアメリカのポスターも紹介。

本家だと、ちゃんとコメディだってわかるでしょ?で、やっと中身についてなんだけど、『スピード』とか『マトリックス』のテンポの速い、かっこいい映画を期待すると、真反対なんでガッカリしちゃうだろう。でも、この映画、一言でいうと、チャーミングな映画だ。優柔不断のカタマリみたいなショボい男の役をキアヌ・リーブスが嬉々として演じているし、独特のなかよし空気が伝わってくる映画なのだ。料金所で働く、生きているか死んでいるかわかんないような男が、高校時代の同級生が急に現れてあれよあれよという間に刑務所に行くハメになってしまう。そこで会ったのが詐欺師の老人。なんか見た顔だなと思ったら、ジェームズ・カーンじゃないか。ローラーボールとか遠すぎた橋の頃の不良っぽいモシャモシャ頭の風貌とえらい変わったなぁ。でもなかなか魅力的な老人を演じている。ヴェラ・ミーガ扮する女優も、コソ泥野郎たちもみんな、変化を求め夢を追いかけようとして挫折をしている奴らばかり。その代表格のキアヌ扮するヘンリーが銀行強盗を企んでみんなに化学作用が起き始めるのが楽しい。クライム・サスペンス映画として見たら、ツッコミどころ満載だ。古新聞が貼ってあるのから強盗思いつくなんて、そんなとこに貼ってあったら誰でも思いつくよ、とか。銀行と劇場のあまりにも出来すぎた位置関係とか。強盗することを誰彼話すんじゃない、とか。警備員まで仲間にしたら、もう何でもアリみたいなもんじゃない、とか。ついでにラストの『桜の園』に乱入してのシーンもデキスギというか。いくらリアルな演技を求める監督だからってストーリー変えられたら怒るんじゃない?おまけに音楽!70年代ソウル風のボーカル曲が随所にかかるんだけど説明しすぎでベタで恥ずかしくなってきちゃうぞ・・・と、ツッコミ入れてきたけど、憎めない映画なんだな、コレ。小粒だしオフビートだけど、チャーミングなコメディ映画として見たらなかなかのものじゃない?せめてこの映画の本質を理解して配給してほしかったなぁ。

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映画『スマグラー おまえの未来を運べ』

2012年06月05日 | 映画の感想



監督 石井克人
妻夫木聡 (砧涼介)
永瀬正敏 (ジョー)
松雪泰子 (山岡有紀)
満島ひかり (田沼ちはる)
安藤政信 (背骨)
阿部力 (張福儀)
我修院達也 (ジジイ)
鄭龍進 (内蔵)
島田洋八 (田沼春治)
高嶋政宏 (河島精二)
小日向文世 (西尾健児)
清川均 (高橋義春)
松田翔太 (警官)
大杉漣 (警官)
津田寛治
寺島進
25歳のフリーター・砧は、パチスロの裏ロムという儲け話にのってしまい、300万円の借金を背負う。金を返すため、金融業者・山岡から紹介された日給5万円のアルバイトを始めるが、それは死体運びのスマグラーの仕事だった。山岡の指示で田沼組組長の死体を運んだスマグラーは、田沼組とチャイニーズ・マフィアの抗争に巻き込まれてしまった。田沼組から組長を殺した暗殺者、背骨と内蔵を探し出して連れて来いとの指令が下り…。

★★☆☆☆
石井克人監督の『鮫肌男と桃尻女』を以前観たことがある。二度も。面白かったけれど、二度目に観たのはどんな映画だったか忘れたからである。そして二度目に観ても面白かったが、今思い出そうとしてもまた忘れている。森の中を逃げまどって、ヘンテコな殺し屋がいっぱい出てきて・・・。う~ん、そんな感じ。『茶の味』だってそう。個性的なキャラがたくさん出てきて、ぬるぬると時間が過ぎていく感じ。全体的なストーリーの大きな流れを意識しにくいというか。で、この『スマグラー』も『鮫肌男と桃尻女』と似たような雰囲気だ。全体の狂言回し的役割は主人公である妻夫木聡(砧涼介)だが、映画前半は各章に分かれていて個性的な面々それぞれが語られていく・・・この前半部のバラバラピースが観ているときは結構面白かったりする。どんなそれぞれの個性がどんな絡み方をするか?という興味で見続けることができるからだ。ところが後半は思った以上に全員が絡み合う怒涛の展開ながらも、今ひとつ盛り上がらない。いちばんの原因は、やはり漫画過ぎなのだ。個性的なキャラのひとりひとりは面白いけれど、こんだけ揃うとただの漫画。『背骨』ひとりでも強烈なインパクトなんだけど、連行されている途中逃走するシーンの草原を走るCGやら銃弾を避けて部屋を飛び回るCGやら・・・そこまでモンスターだともう失笑ものだ。にしても、この映画で最も光っている役は安藤政信の『背骨』だが。砧を拷問する河島を演じる高嶋政宏の、高嶋兄弟どうしちゃったの?と呟いてしまう薄気味悪い珍演技もインパクトが大きいが、拷問そのものを薄味にしているような。しかしあの状況で砧が脱出できてしまうのはいくらなんでもやっぱり漫画だ。最近引っ張りダコの女優、満島ひかりも出ていて組長の妻でツッパりつつも内面は幼いっていう女を演じているけど、それだけの演技しか求められない役。「うまいじゃん」の一言は蛇足だった。我修院達也は石井映画の常連さんだが、どうもあざとすぎてボクはダメだなぁ。そんなわけで、この映画、『ガンツ』みたいな青年コミック雑誌の実写化映画の一本。コミックを読まないボクから見ても、ダイジェストを見ているような感じがある。最近、こういうの多いけれど、もともと画のあるものを実写化するってのは至難の技であり、結局画に引きずられてしまうという典型的な例かな。


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映画『第7鉱区』

2012年06月05日 | 映画の感想



監督 キム・ジフン
ハ・ジウォン (Cha Hae-jun)
アン・ソンギ (Jeong Man)
オ・ジホ (Kim Dong-soo)
イ・ハンウィ (Medic)
ソン・セビョク (Male crew 2)
チャ・イェリョン (Scientist Kim)
パク・チョルミン (Male crew 1)
パク・ジョンハク (Unit head)
パク・ヨンス
1970年代に日韓共同開発区域として石油資源の調査・開発を行うことが決定したにもかかわらず、計画が頓挫したままになっている第7鉱区を舞台とするモンスター・ムービー。「チェオクの剣」「ファン・ジニ」のハ・ジウォンが、大海原に浮かぶボーリング船の閉ざされた船内で、白いタンクトップ姿も凛々しく、未知の深海生物に立ち向かっていく姿を描く。リアルな質感のこの深海生物、可愛いクリオネのような幼生から、殺そうとしてもなかなか死なない、凶暴・凶悪な怪物に変化していく。この怪物は3年の歳月をかけて100%韓国のCG技術で作られたという。ベテラン俳優アン・ソンギ、オ・ジホらの演技にも注目だ。監督は『光州5・18』のキム・ジフン。

★☆☆☆☆
韓国のモンスター映画といえば『グエムル』。あの怪物が白昼、人をガンガン追っかけて走り回る姿はよかったなぁ。チラチラ徐々出しで盛り上げるつもりがしょぼくなるモンスター映画のオキマリを破壊しちゃうようなパワーがあった。で、そのモンスターを造形した連中が作った映画というんでチョイ期待して観た、この『第7鉱区』。タイトルはかっこいいけど、ちっとも面白くなかった。基本は『エイリアン』第1作と同じストーリーを、宇宙の貨物輸送船から石油プラントに変えただけの展開。モンスターの造形はグエムルから骨を抜いたような生物で、設定からしてクリオネのバケモンのはずだけど、足があって這い回るからオオサンショウウオっぽかった。こいつ1匹が次々と作業員たちを襲っていくんだけど、ハリウッド版ゴジラ並みに、お話の都合にあわせてチョイ役を殺すときには滅法強くなったり主演級を殺すときには手加減して弱くなったり、突然動きが速くなったりバイクに追いつけないくらい遅くなったりするんで、どんなにしつこくてどんなに強靱でも今ひとつ盛り上がらない。ヒロインの逞しい娘が見所なんだろうなぁ。確かに、松たか子っぽかったり、宇多田ヒカルっぽかったりして、ショートヘアにタンクトップでボーイッシュでカワイイぞ。でも、そのはねっかえり演技とかラストの超人的活躍とかデキスギで、なんだか安っぽいアイドルアクション映画って感じ。もうひとりのロングヘアの科学者の娘も美人だったんだけど、死ぬのが早すぎてガッカリだ。ここまでCGでモンスターを作り込んで、ひと昔前の『エイリアン』やら『リヴァイアサン』やらのほとんどリメイクみたいなB級ストーリー。クライマックスの死闘はやっつけたと思ってもまた襲ってきて、なんだかもうドリフのコント状態で、「いい加減にしなっさ~い」である。『グエムル』とはココロザシが違う、モンスターVSアイドルのB級映画だよなぁ。

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映画『カル』

2012年06月05日 | 映画の感想



監督 チャン・ユニョン
ハン・ソッキュ
シム・ウナ
ヨム・ジョンア
チャン・ハンソン
ユ・ジュンサン
アン・ソクァン
猟奇殺人を題材にして韓国で大ヒットを記録したサスペンス・スリラー。事件の発端は3つのバラバラ殺人事件。手がかりとなるミステリアスな美女スヨンを追う刑事チョは、捜査を進めるうちに彼女の異様な過去にはまっていく……。被害者が加害者に、そして加害者が被害者へと姿を変える迷宮の中で、スヨンの記憶に踏み込んだ刑事は逃れられない悪夢の結末を迎えることになる……。主演は「シュリ」のハ・ソッキュ。

★★☆☆☆
う~ん、コレはボク的にはアウトだな。所謂猟奇連続殺人事件もの。開巻いきなりの解体シーン。次々と発見される黒ビニル袋詰めのバラバラ死体。しかも人体各部が別人のものになっている・・・『羊たちの沈黙』やら『セブン』やら猟奇殺人を売りモノにした猟奇ミステリー映画はここ最近多いわけだが、エレベーターの中で袋が裂けて中身が散乱したりと、描写がとにかく鮮烈、一連の韓国ホラーの中でもでもドギツサはかなりのもの。ただ、この映画、監督いわく、13もの謎が秘められているらしい。確かに、なぜこんな行動を?実際どうなったの?という謎がやたら多い映画になっている。そこがどうやらこの手のミステリーが好きな人にとってオイシイみたいだ。デヴィッド・リンチの映画を解読するみたいに。でも、ちょっと待った。この映画は、本来の伏線に対して回収すべき結末がちゃんとできていないだけのやりっぱなしなんじゃないか?大方のストーリーはそんな謎だらけなんてもんじゃないし。謎として提示すべきは、主犯の動機だけに絞ったほうがインパクトがあったんじゃないか?と、そんなふうに感じるのはボクだけだろうか。大体、犯罪に絡んでいる人間が複数の、この手の人体解体事件なんて、新興宗教絡みの事件でしか聞いたことがない。あくまで主犯者のトラウマ的問題であり、個人の内面世界で成立する異常犯罪。マインド・コントロールなしで、こんな異常犯罪に加担する複数の人物がいるってこと自体が不自然に思えるのは、ボクだけだろうか。複数でこんなエキセントリックな事件を起こしたら、すぐに綻んでしまうはずだ。確かに謎めいた映画だが、ボクには、編集の都合でうまく話を回収できなかったけどそれが謎めいて見えただけなんだけど、そこを売りにしちゃおう作戦のナンチャッテ映画に思えてならない。ただし、韓国映画の女性、綺麗だよなぁ。つい、日本の女優のあの人みたい、なんてふうに思って魅せられてしまう。う~ん、この女優さんは、和久井映見と檀れいを足したみたいな美人、他の役でも見てみたい感じだが、すでに女優はやめてるらしい。惜しい!

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映画『キル・ビル2』

2012年06月05日 | 映画の感想



監督 クェンティン・タランティーノ
ユマ・サーマン (The Bride)
デイヴィッド・キャラダイン (Bill)
マイケル・マドセン (Budd)
ダリル・ハンナ (Elle Driver)
リュー・チャーフィー (Pai Mei)
マイケル・パークス (Esteban)
サミュエル・L・ジャクソン (Rufus)
復讐に燃える女性殺し屋の旅を描いたドラマの第2部(完結編)。かつて闇のエージェント”毒ヘビ暗殺団“で最強と言われた殺し屋ザ・ブライド(ユマ・サーマン)は、結婚式の最中に、花嫁姿のまま瀕死の重傷を負わされ、身篭もっていた娘をも殺された。彼女は、自分を襲った組織のボスであるビル(デイヴィッド・キャラダイン)とその部下たちへの復讐の旅に出ていた。残る標的は3人。ビルの弟バド(マイケル・マドセン)はストリップ・クラブの用心棒をしながら、薄汚れたトレーラーで酒浸りの日々を送っている。片目にアイ・パッチをした女、エル・ドライバー(ダリル・ハンナ)は、ザ・ブライドの代わりにビルの愛人の座に納まっていた。ザ・ブライドはテキサスの荒野へと降り立ち、まずはバドを殺しにいく。だが逆に倒されてしまい、彼女は土の中に埋められる。
★★☆☆☆
『キル・ビル』&『キル・ビル2』は元々一本の映画として企画されて、途中から前編後編に分けられたとか。う~ん、やはりこれは一本にすべきだったのでは。『キル・ビル2』を単独の映画として観るのはちと辛い。だが、あの『キル・ビル』の後半部分として観ると、なかなかに味わい深い。一言でいえば、滅びの美学があるというか。逃げることを拒んで運命に向き合って死闘を繰り広げる殺し屋たちの内面が丁寧に描かれていきつつ、一人また一人と消えていく・・・そういう殺し屋映画の哀愁みたいなのが色濃く描かれているからだ。見ている分には感じないが、見終わった後で全体を振り返ると、大きな活字で水増しして前後二冊文庫本に分けられた冒険小説みたいな感じがした(ちなみにボクのかつて愛読したクライブ・カッスラーの海洋冒険小説は大体そんな感じ)。やはりユナ・サーマンとダリル・ハンナの、バドのキャンピング・トレーラー内での拳法を使った死闘場面がよくできている。金髪女性同士が拳法で闘うシーンをこんなにチャチっぽくなくエキサイティングに撮れるのはやはりタランティーノならではだろう。『キル・ビル』が修羅雪姫だったのに対して『キル・ビル2』は懐かしのテレビ番組『燃えよ!カンフー』だ。カンフーをマスターした主人公デヴィッド・キャラダインが西部をさすらうドラマ。カンフーアクションよりも東洋哲学みたいな話が多かったようなあのドラマ。挿入される師匠の教えを回想する場面なんて、パイ・メイのもとでの修行を思い出して棺桶を正拳で叩き割ってゾンビのように墓から這い出るシーンにまんま活かされている。『キル・ビル』&『キル・ビル2』・・・決して面白くないわけじゃない。でも、ボクが当初クェンティン・タランティーノに期待していたものとは全然違う。芸術映画とバイオレンス映画の境目を取っ払うようなエネルギーは、もうここにはない。なんといっても、こんなオマージュと母への思いを詰め込んだ趣味全開の自分映画を作って、しかもひとつのストーリー構成のB級アクション映画を二部構成で上映なんて、当時のタランティーノのバカ人気なくして認められる話じゃなかっただろうなぁ。


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映画『キル・ビル』

2012年06月05日 | 映画の感想



監督 クェンティン・タランティーノ
ユマ・サーマン (ザ・ブライド(ブラック・マンバ))
ルーシー・リュー (オーレン・イシイ(コットンマウス))
ヴィヴィカ・A・フォックス (ヴァニータ・グリーン(コッパーヘッド))
マイケル・マドセン (バド(サイドワインダー))
ダリル・ハンナ (エル・ドライバー(カリフォルニア・マウンテン・スネーク))
デイヴィッド・キャラダイン (ビル)
JJサニー千葉 (服部半蔵)
ジュリー・ドレフュス (ソフィ・ファタール)
栗山千明 (ゴーゴー夕張)
リュー・チャーフィー (ジョニー・モー)
マイケル・パークス (保安官)
國村隼 (田中組長)
菅田俊 (弁田組長)
麿赤兒 (小澤組長)
大門伍朗 (本多組長)
北村一輝 (小路組長)
風祭ゆき (青葉屋女将)
佐藤佐吉 (青葉屋支配人)
大葉健二 (寿司屋店員)
ひとりの女が長い眠りから目覚める。彼女の名は、ザ・ブライド(ユマ・サーマン)。自分の結婚式の最中に、かつて所属していた毒ヘビ暗殺団の襲撃を受け、夫やお腹の子を殺されたのだ。奇跡的に回復した彼女に残されたのは、暗殺団とそのボス―ビル(デヴィッド・キャラダイン)への復讐のニ文字だけだった。ザ・ブライドは伝説の刀鍛冶―服部半蔵(サニー千葉)を訪ね、名刀ハットリ・ハンゾウを譲り受ける。暗殺団のメンバーは5名。その名を記したリストを手に、女刺客の復讐の旅が始まった。キル・ビル…ビルを殺せ!
★★★☆☆
何を今さら、の『キル・ビル』である。昔々、『ビデオでーた』っていうビデオ中心の映画情報誌を隅々まで読んでいた頃、未公開映画『レザボア・ドッグス』の、銃口を至近距離で向け合った広告写真がやけに気になって、早速レンタルして観たときの衝撃は忘れられない。コイツはすげー拾いモノ!と、友だち連中に紹介しまくった。そしてそれから間もなくの『パルプ・フィクション』のカンヌ映画祭パルム・ドールである。いやぁ、ビックリした。もちろん劇場に足を運んだし、これまた面白かった。だが、それ以降ボクのタラ熱は急速に冷めて行った。次に観た『フォー・ルームス』などなど見るたびに失望、ブームとは裏腹に芸術とバイオレンスの絶妙な味などなくなっていくのを感じた。今や、描写が過剰なだけのオマージュ映画を作り続ける人になっちゃった気がする。そんなわけでタランティーノ監督映画は最近とんと観ていなかったのだが、近所のビデオ店で50円レンタルとかやっていて、つい・・・。で、ついに観てしまったこの『キル・ビル』。タランティーノ監督のB級C級アクション映画オタクぶり全開!お話自体、梶芽衣子の『修羅雪姫』を踏襲しているし。基本的に70年代ごろの赤味を帯びた粒子の粗いフィルムの、エログロOKの日本映画を再現したようなトンデモナイ映画に仕上がっている。冒頭アクション、ヴァニータ・グリーンとの格闘が凄くいい。ごく日常的な台所空間や居間で繰り広げられる死闘の生々しさといったらない。しかも愛娘ニッキーが帰宅して母親と女友だちを装って休戦する場面が素敵だ。そう、この場面にこの映画の主題がすでに盛り込まれている。冷徹な殺し屋同士が殺戮を繰り返す映画だが、重要なテーマは「母親」。殺し屋家業を抜け出そうとしたのも妊娠したからだし、お腹の赤ん坊を殺されたと信じたからこそ殺し屋集団に復讐を誓うし。ニッキーに「大人になってまだ許せなかったら待ってるから」なんて言うのもそう。その点では、キル・ビル&キル・ビル2はしっかりした主題をもったアクション映画ではあるのだが、なにせタランティーノの趣味全開ぶりが合うかどうかにかかってくる。現実に東京の料亭でこんな大量大殺戮なんて発生したら、数分で警察は駆けつけるし数時間後には世界中でトップニュースになるんじゃないかな。ヤクザが全員拳銃ひとつ隠し持ってなくてナイフやドスでもなくて、日本刀でチャンバラやっちゃうってのもスゲー話。日本刀携えて飛行機に乗っちゃう図もスゲー、日本刀背負ってバイク乗ってる図もスゲー。「ヤッチマイナー!」のルーシー・リュー姉さんも、鉄球ブンブン振り回す栗山千明も、インパクトありすぎ!ゴーゴー夕張なんつー名前に笑ってしまう。もうこのへんの対戦なんて、完全に格闘ゲームのノリである。大好きなアクション映画からバイオレンスなジャパニメーションから格闘ゲームからなんでも感でも詰め込んだ、オマージュで作った映画。・・・う~ん、好きじゃない。好きじゃないけど、インパクトが凄すぎる映画なのは確かだなぁ。


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