ショートショート『自己説明型Tシャツ』

2012年06月27日 | ショートショート



お気に入りのバンドのライブに行った。
グッズ売り場も大賑わい。熱気と大歓声の中、メンバーがステージに登場した。
メンバー全員、Tシャツ姿。
胸にはデカデカとバンドのロゴ。
ゼットンが「ゼット~ン」と言ったり、ダダが「ダッダ~」と言ったりしてるみたいな。
自己説明型Tシャツ。



「なんだかわかる気がするわ、自己説明型Tシャツ」と、彼女。
「だってTシャツの色柄、デザインや着こなしで、どんな人かおおよそわかるもの」
「まさかぁ!じゃ、ボクは?」
「う~ん、ゴメン。なんだか人でも殺してそうな・・・」
(どうしてそれを?この女、生かしておけない・・・)



試写の途中、映画会社重役が渋い顔でフィルムを止めた。
「監督、この映画は本格推理ものだよな?」
「ええ。全員に自己説明型Tシャツを着せて撮影しました。『容疑者』『刑事』『探偵』、みんな胸に書いてあるのでたくさんの登場人物も一目瞭然!」
「なるほど。で、『実は真犯人』もいるわけね」



『会社愛』『一心不乱』『チームワーク』『忍耐』
今日も一日、いろんなTシャツを着て仕事に精を出した。
夜遅く電車に揺られ、『父親』に着替えてマイホームへ。
ぐっすり眠っている愛娘の頬にキス。
「わたしたちもおやすみしましょ」
ふりかえると、妻が『貞淑』を脱ぎ捨てるところだった。



オヤ?どうやらボク、地獄に堕ちたみたいです。
ここも自己説明型Tシャツ?
鬼たちみんな『鬼』なんてロゴのTシャツ着ていて失笑です。
奴ら、舌を抜く準備始めています。
「嘘なんかついてませんって。勘弁してくださいよ!」
『閻魔大王』が黙ってボクの胸を指さします。
エー!ボクって『二枚舌』!


 
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