ショートショート『ファミ婚』

2012年06月22日 | ショートショート



アキラ君ちに遊びに行って、借りていたファミコンのカセットを返した。
「あれ?ロックマンは?」
しまった。ロックマン、差しっぱなしにしてた。
「いいよ今度で。そのかわり、桃鉄貸しといて」
アキラ君はやさしい。アキラ君は五つ年上で中学生で、その頃のボクにはオトナっぽく見えたしオトナだと思ってた。
アキラ君の本棚には女の子がちょっとエッチなコミックがあって、アキラ君がいない時に盗み見したっけ。
あの時の心臓のバクバク!息がつまってしまいそうな興奮!
桜が満開の頃だった。母さんに連れられて初めてアキラ君ちに来たのは。
人見知りで目を伏せたままのボクに、アキラ君は黙ってコントローラーを渡した。
そうしてボクたちは一言も話さないまま友だちになった。
以来、毎週末のようにアキラ君ちに遊びに来てゲームしたり漫画読んだり。
アキラ君の部屋に寝そべってジャンプを読ませてもらっていると、隣でマガジンを読んでたアキラ君がボソッと言った。
「父さんとヒロ君の母さん、結婚するのかなぁ」
ボクはジャンプを投げ出して身体を起こした。結婚?母さんとアキラ君のお父さんが?
ボクのあまりの驚きようにアキラ君が慌てた。
「イヤごめん。なんとなくそう思っただけだから」
結婚・・・そうなんだ。そういうことだったんだ。
ボクの父さんはボクが小さい頃に病気で死んでしまったし、アキラ君の母さんはずいぶん昔に出てってしまったとか。
母さんとアキラ君の父さんならお似合いだし、そういえば母さん、悲しい顔でいることが少なくなったし、キレイになった。
そうか。そういうことだったんだ。でもそれならそうと、ちゃんと相談してくれたらいいのに。
「ヒロ君、ホントごめん。忘れて」
アキラ君が気まずそうにボクの顔色をうかがった。
その様子があまりにもオトナが困ってるときみたいで、むしょうに可笑しくなってボクは笑った。
アキラ君のお父さんがお父さんで、アキラ君がお兄さん?いきなり家族?そんなのぜんぜん実感がわかない。
アキラ君の持っているファミコン全部、いつでもできるようになる・・・
エッチなコミックをいつでもこっそり見ることができる・・・
そう思うとなんだかワクワクした。
そのとき以来、ボクの中で心の準備はできていた。


   
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