映画『ザ・スパイ 裏切りのミッション』

2012年06月03日 | 映画の感想



監督: ニコラ・サーダ
ギョーム・カネ
ジェラルディン・ペラス
スティーヴン・レイ
イポリット・ジラルド
アーチー・パンジャビ
ヴィンセント・リーガン
アレクサンダー・シディグ
ジェイミー・ハーディング
ヒアム・アッバス
ブリュノ・ブレーレ
パリの空港で荷物検査員として働くヴァンサンは、同僚のジェラールとともに、密かに旅客の荷物を開けて窃盗を繰り返していた。ある日、ジェラールが盗み出した荷物が爆発、炎に包まれた彼は息絶えてしまう。実はこの荷物はシリアの外交官名義で預けられており、持ち主はニトロメタンという危険な薬物の密輸を狙う犯人だったのだ。そして、窃盗が明るみになり、職場を追われたヴァンサンのもとに、フランス保安局の諜報員を名乗る男が近づいた。男は爆発事件の背後に巨大な陰謀が隠されていることを告げると、ヴァンサンに、彼が犯した罪を免除するための、ある条件を突きつける。その条件とは、爆発した荷物の持ち主とその目的を突き止めるため英国に渡り、スパイとして生まれ変わることだった…。
『ボーン・アイデンティティー』や『ミッション・インポッシブル』など多くの名作を手掛けたスタッフが贈る、究極のスパイ・アクションが誕生。フランスとイギリス、2つの国にまたがった壮大な物語を、そのスケールにふさわしいスタイリッシュな映像美と練りこまれた脚本、そして実力派の豪華俳優陣による圧倒的な演技力で描くエンターテイメント作だ。突然スパイとしてのミッションを与えられ、巨大な事件に巻き込まれていく主人公を演じるのは『ザ・ビーチ』のギョーム・カネ。本国では劇場スマッシュヒットを遂げ、セザール賞にもノミネートされるなど大きな話題を読んでいる。
★☆☆☆☆
『ボーン・アイデンティティー』や『ミッション・インポッシブル』など多くの名作を手掛けたスタッフが贈る、究極のスパイ・アクションが誕生・・・などと大げさなことが書いてあるけれど、全然そんなことない。娯楽スパイアクション映画など期待していたわけではない。それなりのシリアススパイものと思って観はじめたわけであるけれども、こりゃ安っぽい。職を転々として不正にも手を出してきた、パリ空港職員ヴァンサンが抜き差しならないなりゆきでスパイへ。英国諜報部のパルマーに協力して、中東組織のテロに密かに加担している医薬業家ピーター・バートンと彼の妻を追う。まあここまではシリアスなスパイものだけど、その妻と関係をもったあたりからシリアス路線でもなく、不倫恋愛ドラマでもなく、緊迫感があるでもなく・・・。基本、スパイもののメロドラマって感じで、日本人好みの映画っちゃあ映画なんだけど・・・。いやとにかく究極のスパイ・アクションではないのだけは確かだ。まあB級C級映画にはありがちなんだけど、DVDジャケットみたいな消音銃を使うシーンなんてまったくないし、必要とする場面もない映画なので注意。一週間もすれば見たことを忘れそうな映画なのでその点も注意。

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映画『ハード キャンディ』

2012年06月03日 | 映画の感想



監督 デイヴィッド・スレイド
パトリック・ウィルソン (Jeff Kohlver)
エレン・ペイジ (Hayley Stark)
サンドラ・オー
ジェニファー・ホームズ
ギルバート・ジョン
出会い系サイトで知り合ったヘイリーとジェフ。ヘイリーは、好奇心旺盛な14才の女の子、ジェフは、32才の売れっ子カメラマンだった。3週間の間、二人はお互いのことを話し、ついに実際に会う約束をする。待ち合わせのカフェで初めて会う二人。14才にしては、大人びて見えるヘイリーに、ジェフは一目で惹かれる。父親が医学博士で、自分も大学院の授業を受けているというのも、魅力的だった。彼は、郊外にあるスタジオ付きの自宅へと少女を招き入れる。しかし、それは彼を陥れるために仕組まれた巧妙な罠だった。
ミュージック・クリップで活躍してきたデイヴィッド・スレイドの長編デビュー作。日本の女子高生が起こした「オヤジ狩り」をヒントにしたサイコ・サスペンスである。出会い系サイトを軸にしたサスペンスは多いが、その中でも異彩を放つ秀作だ。女性をくどくために買ったようなジェフのデザイナーズ・ハウスで、一体何が起こったのか。詳しく述べるのは敢えて控えておくが、全ての男性にとって、身の毛がよだつこと間違いなし。主演は、『オペラ座の怪人』のパトリック・ウィルソンと、これがハリウッド・デビュー作となるエレン・ペイジ。ほとんどが、二人の会話のみで構成されており、危険な役に体当たりで挑んだ19才のエレン・ペイジは見事。
★★☆☆☆
14歳の少女が出会い系で知り合った中年男と会って、男の屋敷までついて行って・・・という出だしで一体どういう展開になるのかドキドキされられた。この男、ロリコン野郎なのか?それともプラス猟奇男なのか?このあたりが剥き出しになるまでってのがサスペンスフルだった。ところがどっこい、仕掛けたのは少女の方。中年男を椅子に縛りつけて、男の部屋を探り裸の少女の写真を見つけ、ついには男に去勢手術を施し・・・このあたり、現実味はゼロだけど描写がかなりジワジワ精神的にいたぶってくるので、観ていてこっちのタマキンが縮みあがった。しかも抜いたタマをシンクのディスポーザーで砕くなよなぁ・・・痛~っ。そしてラストの屋根の上のくだりで中年男の事情なりがわかっちゃうんだが、これはもう中年男と少女が会った店の貼り紙や、男が隠し持っていた写真からフラグ立ってて容易に推察できるところだった。逆に少女ヘイリーの素性がさっぱりわからないのはコワイといえばコワイけど、リアリティがないともいえる。ラストへの持っていき方の残酷さなんてモンスターだし。映画で描かれていない、中年男を縛りつけたり抱えあげたりなんてのが華奢な少女ひとりじゃ無理っぽいし。赤頭巾が冷酷に狼に復讐する密室劇というコンセプトは面白いので、作り方によってはちょっとしたカルト名作になったかも。でもこれじゃB級ホラーの棚が相応しいなぁ。

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映画『サラリーマンNEO 劇場版(笑)』

2012年06月03日 | 映画の感想



監督 吉田照幸
小池徹平(新城誠)、生瀬勝久(中西一郎)、田口浩正(斉藤豪太)、中越典子(大橋希美)、入江雅人(皆川康弘)、堀内敬子(桜木雅子)、マギー(鏑木作一郎)、山西惇(白石和弘)、田中要次(いーちゃん部長)、八十田勇一(鞍馬琢磨)、池田鉄洋(小西健太)、中山祐一朗(岡崎大機)、中村靖日(早井俊介)、野間口徹(東雲寺才五郎)、深水元基(転職バー店長)、原史奈(田波直子)、奥田恵梨華(布袋の秘書・麗子)、金子さやか(遠山幹子)、中田有紀(中山ネオミ)、瀬戸カトリーヌ(キャディー)、冨士眞奈美(フェミニスト団体代表)、伊東四朗(根尾幸三)、大杉漣(布袋社長)、篠田麻里子(マオ)、郷ひろみ(郷ひろみ)、麻生祐未(白石時子)、宮崎美子(鞍馬さゆり)、平泉成(早川辰夫)、沢村一樹(川上健)、コンドルズ(ハロルド金山&ダンサー)

新城(小池徹平)は、第一志望ではない業界5位のNEOビールに入社する。かつて“冷麦”という大ヒット商品を飛ばしたが、今は阪神タイガースの応援だけに執心する課長・中西(生瀬勝久)を筆頭に、何かと不条理な目に遭う川上(沢村一樹)など、一筋縄にはいかないメンバーが揃う営業一課に配属された新城は、量販店まわりや接待など、絵に描いたようなサラリーマン生活を送り出す。しかし1カ月経っても営業契約件数0で、社内のOLたちからは総スカン、合コンでも女の子の鈍い反応に、新庄は早くも転職を考え始める。そんな折、全国酒類協会ゴルフコンペで、業界1位の大黒ビールの布袋社長(大杉漣)とラウンドをして惨敗したNEOビールの根尾社長(伊東四朗)が、大黒ビールを抜いてシェア1位を目指すと宣言、新商品のアイデアを出すよう全社員に厳命する。さっそく営業一課でも企画会議が開かれ、無重力ビールや枝豆ビールなど斬新かつ珍妙なアイデアが次々飛び出すが、中西はピンとこない。ところが新城がその場しのぎで口にしたある企画にGOサインが出てしまい、事態は思わぬ方向に転がり出す。
2004年に単発番組としてスタートし、2006年にレギュラー化されたコント番組「サラリーマンNEO」の劇場版。オムニバス的にコントが続くのかと思いきや、なんときっちりとした長編ストーリー。小池徹平演じる新入社員の新城が、会社に入社して体験する“サラリーマンあるある”をユーモアたっぷりに描きながら、彼の成長物語にもなっているのだ。小池徹平とW主演となるのは、番組の顔でもある生瀬勝久。新城を育てる阪神タイガースファンの中西課長を演じている。もちろん「サラリーマンNEO」に欠かせないあの名物キャラたちも続々登場。監督は「サラリーマンNEO」の生みの親であり、全シリーズの演出を担当している吉田照幸。

★★★☆☆
録画して必ず観ている、あの『サラリーマンNEO』が映画になるっていうんで観たかったけれど、近くの映画館に来なくてなかなか観られなかった。このたび、レンタルでやっと観ることができた。ただ、小池徹平が主演しているみたいなので新入社員奮戦記になるんだろうな・・・あんまりクサイ芝居の映画じゃないといいんだが・・・と思っていたけれど、見終わってみると、逆にもうちょっとドラマに力を入れてもよかったんじゃないかと思った。それくらい、小池徹平とヒロイン役の篠田麻里子の影が薄い映画だった。ストーリーの中にサラリーマンNEOのさまざまなネタやキャラクターを詰め込んだお得感はあったけれど。あの番組のファンが次々出てくるキャラにワクワクする作りにはきっちりなっているが、初見の人はかなりシュールに脱線しているように見えるにちがいない。ファンとしては十分楽しめた。楽しめたけれど、テレビと一緒で1回観れば十分な感じの映画だ。今回の映画でいちばん面白かったのは、生瀬勝久のオトボケ課長っぷりだったかなぁ。居酒屋店内に貼ってある言葉を適当に並べて教訓を垂れるとこなんてブフフフと笑っちゃった。沢村一樹を主役に据えて二枚目から三枚目から、「がんばれ川上くん」やら「セクスィー部長」やら、いろんなキャラを詰め込んでそこにその他出演陣のキャラを置いて、映画を作ってほしかった!なんて思うのはボクだけだろうか。

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映画『戦場のピアニスト』

2012年06月03日 | 映画の感想



監督: ロマン・ポランスキー
原作: ウワディスワフ・シュピルマン
エイドリアン・ブロディ ウワディスワフ・シュピルマン
トーマス・クレッチマン ヴィルム・ホーゼンフェルト大尉
エミリア・フォックス ドロタ
ミハウ・ジェブロフスキー ユーレク
エド・ストッパード ヘンリク
モーリン・リップマン 母
フランク・フィンレイ 父
ジェシカ・ケイト・マイヤー ハリーナ
ジュリア・レイナー レギーナ
ワーニャ・ミュエス ナチス親衛隊将校
トーマス・ラヴィンスキー 保安警察
ヨアヒム・パウル・アスベック 保安警察
ポペック ルービンシュタイン
ルース・プラット ヤニナ
ロナン・ヴィバート ヤニナの夫
ヴァレンタイン・ペルカ ドロタの夫
第55回カンヌ国際映画祭パルムドール受賞の感動ドラマ。実在のピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマンの実体験を綴った回想録を基に、戦火を奇跡的に生き延びたピアニストとその生還に関わった人々の姿を、過剰な演出を抑え事実に基づき静かに力強く描く。自身もゲットーで過ごした過酷な体験を持つロマン・ポランスキー監督渾身の一作。
 1939年9月、ポーランド。ナチス・ドイツが侵攻したこの日、ウワディクことウワディスワフ・シュピルマンはワルシャワのラジオ局でショパンを演奏していた。街はドイツ軍に占拠され、ユダヤ人をゲットー(ユダヤ人居住区)へ強制移住させるなどの迫害が始まる。シュピルマン家も住み慣れた家を追われる。ゲットー内のカフェでピアノ弾きの職を得た彼は、様々な迫害に遭いながらも静かに時をやり過ごす。しかし、やがて一家を含む大量のユダヤ人が収容所へと向かう列車に乗せられる。その時、一人の男が列車に乗り込もうとしていたウワディクを引き留めた。
★★★★★
ボクは好きだなぁ、この映画。劇中、主人公が感情を吐露して観客が泣いちまうようなタイミングで、主人公はピアノを奏でて美しい旋律を届けてくれるところがいい。言葉にすれば個人的なことになってしまう、こうやって生きて今ピアノを弾いている喜びも悲しみも全部ひっくるめて感じてくれ、だってピアニストなんだもの・・・この映画の姿勢が好きだなぁ。この映画の大半部分がウワディク・シュピルマン自身の目で見て肌で感じたことしか描かれていない。ゲットーでの虐殺シーン、ワルシャワのプロテスタント殲滅、抵抗勢力によるワルシャワ蜂起・・・これらのシーンが全部部屋の窓から見下ろしたアングルだけで語られる徹底ぶり。家畜用列車で家族とともに虐殺収容所に送られる場面、その後の家族について描かれることはないし、かつて惹かれ合っていたヤニナは夫ともに反ナチス地下活動組織に加わってワルシャワ蜂起で命を落としているはずだが直接描かれることはない。憶測を排除した徹底した自分が見た真実だけを描く姿勢がこの映画の凄味だと思う。ゲットーで質問をした瞬間に拳銃で撃ち殺される女。労働の後で地に伏せたまま銃殺されていく労働者たち、弾が切れて銃倉を替える間の伏せた男の表情。ゲットーの壁に挟まったまま死ぬ少年。躊躇なくジープに轢かれて頭を砕かれる場面。あまりにも日常の中で平然とおこなわれる殺戮だからこそ、心底震えがくる。やはりこの映画で、忘れてはならないシーンは、ドイツ軍将校ヴィルム・ホーゼンフェルトと出会うシーンだろう。ホーゼンフェルトの弾く、ドイツの音楽家ベートーベンの『月光』に誘われて出会い、シュピルマンがポーランドの音楽家ショパンの夜想曲で応えるという、『ビルマの竪琴』にも通底した個と個の芸術への思いが通じ合うシーンにこの映画のテーマが込められている。そして、この映画に出てくる人間たち、ドイツ人だろうとポーランド人だろうとユダヤ人だろうと、善人もいれば悪人もいる、優しい心もあれば冷酷な心もあるという、あたりまえだけど忘れてはいけないことを語っている。志の高い、すばらしい映画だと思う。



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映画『第十七捕虜収容所』

2012年06月03日 | 映画の感想



監督: ビリー・ワイルダー
ウィリアム・ホールデン セフトン
ドン・テイラー ダンバー
オットー・プレミンジャー シェルバッハ
ロバート・ストラウス アニマル
ハーヴェイ・レンベック
ネヴィル・ブランド
ピーター・グレイヴス プライス
シグ・ルーマン
リチャード・アードマン
第2次大戦末期。スイスとの国境に近いドイツの第17捕虜収容所。ここの第4キャンプには、アメリカ空軍の兵士ばかりが収容されていた。しかもすべて軍曹ばかりで、いろいろの悶着がよく起こるのだった。クリスマスに近いある夜、2人の捕虜がみんなの協力で、脱走することになった。2人が出かけたあと、無事に脱出できるかどうかの賭けが始まった。悲観説をとなえたのはセフトン(ウィリアム・ホールデン)軍曹。まもなく銃声が聞こえ、2人は射殺されたことがわかった。この計画が発覚したのは捕虜のなかにスパイがいるからにちがいないと、皆の間で問題になる。お人好しのストッシュ(ロバート・ストラウス)、その親方のハリー(ハーヴェイ・レムベック)、いつもオカリナを吹いているジョーイ、自警委員のプライス、一本気のハーフィ、それにセフトンとセフトンの子分のクキーなどのうち、最も疑われたのはセフトンだった。実際セフトンは抜け目ない男で、衛兵を買収してひそかに外出したりするので、疑われる理由は充分だった。だが、一同はセフトンの恩恵もこうむっていた。セフトンの経営する“事業"には、『デパート』『競馬』『酒場』『のぞき』などがあった。『デパート』はセフトンがベッドの下に隠しているトランクで、その中にタバコ、酒から女の靴下まであった。『競馬』はハツカ鼠を走らせてタバコを賭ける遊び。『酒場』はイモからアルコールを蒸溜し、タバコ2本で1杯飲ませていた。『のぞき』は手製の望遠鏡でソヴェトの女囚が入浴場で順番を待っている様をのぞくことだ。脱走者が射殺された数日後、ダンバー(ドン・テイラー)という中尉と、バグラディアン軍曹が収容された。ダンバー中尉は、ドイツ軍の軍用列車を爆破したことがあり、それを耳にした所長(オットー・プレミンジャー)の厳しい訊問を受けた。こんなことからセフトンへの疑惑は更に深まり、一同は彼を袋叩きにする。セフトンはなんとか疑惑を晴らそうと、スパイの正体をつきとめる機会を待った。

★★★★★
職人ビリー・ワイルダー監督の傑作の一本!ここ最近、ビリー・ワイルダーを見ているけれど職人に徹した作風が実に爽やかだ。一作、一作、これまでにない映画を作ろうという気概に溢れているのがいい。これもまた、かつて捕虜として収容された兵士たちをヒロイックに描いた映画があってもいいじゃないかと練られた企画。『大脱走』や『ショーシャンクの空に』などの原点と言ってもいいような、精神的に逞しくて飄々とした主人公が魅力的な映画だ。主人公のみならず、収容所内の囚人連中が手製の酒場で飲んだり、踊ったり、ネズミで競馬を楽しんだりと実に逞しく人間味たっぷりに描かれている。中でもアニマルとハリーの凸凹コンビがロシア女に接近する場面なんて完全にドリフや55号的お笑いコントで単純に笑える。心を病んだ兵士を皆が庇うところもいいし、囚人たちの悲喜交交がしっかりと描かれているのがいい。映画は、囚人連中の秘密が次々と漏れていく事態に、誰かスパイがいるのでは?というスパイ探しの話になってコント色が薄まってサスペンス色を増していく。このへんの舵取りも見事。護送されそうになった中尉を隠すのだが、その隠し場所を観客に明かす見せ方が粋だ。犯人に仕立てられて失墜した主人公の一匹狼野郎フランツ(ウィリアム・ホールデン)がスパイを暴き出す智略も小気味いい。ちなみに、真犯人のプライス・・・若き日のピーター・グレイブスじゃないか。あんた、昔ドイツのスパイ大作戦やってたのか!さすがに今の感覚からしていただけないのは肝心のトリック。暇な時間の多い囚人たちのこと、あんなに衆人環視のランプの紐やチェスの駒に細工をしていたら遅かれ早かれバレちゃっていただろう。映画の絵としてはわかりやすくていいんだけど。それと、ナチスの看守たちがあまりにもコミカルでおマヌケで、熊倉一雄さんが吹き替えしたらいい感じの連中ばかり(担当のシュルツ軍曹はもちろん、収容所長までも。しかもこの人、監督のオットー・プレミンジャーだ)なのも緊張感が今ひとつだった。そういうところを差し引いても、これはやはり映画史に残る戦争映画の傑作だ。映画で繰り返し流れる『ジョニーが凱旋するとき』のメロディが頭にこびりつく。


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映画『愛のメモリー』

2012年06月03日 | 映画の感想



監督: ブライアン・デ・パルマ
脚本: ポール・シュレイダー
音楽: バーナード・ハーマン
クリフ・ロバートソン マイケル
ジュヌヴィエーヴ・ビジョルド エリザベス/サンドラ
ジョン・リスゴー ロバート
ワンダ・ブラックマン
1959年、緑濃いニューオリンズの夜。マイケル(C・ロバートソン)家では、結婚10周年記念パーティが行なわれていた。彼の親友達は、彼を、妻エリザベス(G・ビュジョルド)を、そして娘エミー(W・ブラックマン)を祝福する。やがてパーティも終わり、夫婦水いらずの夜をすごそうとした矢先、2階よりエミーの呼ぶ声が……。エリザベスは娘を寝かせに上がって行くが、一向に戻って来ない。2人が居ない!マイケルが2階に上がっていくと、娘のベッドの柱に脅迫文が貼られてあった。「現金50万ドルと引きかえに妻娘を返す」と……。マイケルは、親友でもあり自分の経営する会社の共同経営者でもあるロバート(C・リスゴウ)を呼び相談する。そして翌朝、警察も呼び、ブリー警部(S・J・レイス)の言う通り、白紙の見送金を犯人側に渡した。やがて警察は犯人の車の後を追う。だが車は大型タンクローリーと激突、川中に……。その後の捜査にもかかわらず、妻と娘の姿は発見出来なかった。悲しみにくれるマイケル--。やがて、16年が経った。マイケルはロバートと共にフローレンスに出張する。ここ、フローレンスは、マイケルがエリザベスと知り合った土地でもあったのだ。その夜のうちに仕事を済ませ、翌日、マイケルはエリザベスと出逢った思い出の教会に行く。そしてそこで彼の見たものは……。まさか!マイケルは我が眼をうたがった。エリザベスとうり二つの娘がいるではないか。以来マイケルは、ロバートを先にアメリカに帰し、その娘サンドラ(G・ビュジョルド)に夢中になる。2人の仲は急速に発展していった。
★★★★★
『悪魔のシスター』に続いて、1976年『愛のメモリー』を鑑賞。う~む、こりゃあ面白い。臆面もなくブライアン・デ・パルマだぁ。ヒッチコック監督の正統な後継者として唸らせるだけの魅力が詰まった映画だ。妻子を誘拐されて身代金を渡し犯人のアジトを急襲し結局妻子の命が奪われてしまうまでの話の展開が速い速い。ぼやぼやしてたら置いて行かれる~という感じでグイグイ映画に引き込まれてしまう。ああ、今回のこの感想は特にネタバレなんで、未見でこれから楽しもうという人はこれから先は読まないように。まあ真犯人は、それとおぼしきキャラが他に出てこないのでわかりやすいし、このあとも個性的な悪役をたくさんやっている強面なので見え見えなんだけど。しかも、いくらなんでも本当の父親よりも叔父さんを信用してしまうかなぁ?という疑問もあるんだけど。とにかく謎解きが面白い映画だ。いやぁそれにしても結婚しようと考えて異性と意識した相手が自分の娘だったという父子相姦一歩手前の展開もちょっと危ないけれど。謎解きが始まる前までは、どっちかというと昼ドラでも見ているような生ぬるい恋愛空気だったので残念映画かなと思い始めていただけにラストの展開がグッときた。ラストの拳銃片手に空港ロビーを走る場面、撃つのか?抱き締めるのか?観客をドキドキの絶頂にしてくれる。しかもそのあとのグルグル回しのカメラアングルと音楽で盛り上げちゃうあたり、もう恥ずかしいったらありゃしない!でもこれは拾い物だった。今まで見ないで損した!て言うか、こういう映画を掘り起こしてレンタルで鑑賞できるって嬉しいことだなぁ。


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映画『悪魔のシスター』

2012年06月03日 | 映画の感想



監督: ブライアン・デ・パルマ
音楽: バーナード・ハーマン
マーゴット・キダー
ジェニファー・ソルト
チャールズ・ダーニング
バーナード・ヒューズ
ウィリアム・フィンレイ
メアリー・ダヴェンポート
ドルフ・スウィート
事件の発端は、あるテレビの人気クイズ番組に出演したのがきっかけで、急速に激しい恋に落ちたフランス系カナダ人の美しいファションモデル、ダニエル・ブルトン(マーゴット・キダー)と、広告業の黒人青年フィリップ(ライスル・ウィルソン)との運命的な出会いだった。その夜、強く惹かれるものを感じた2人はクラブで酒を飲み、夜更けまで語り合っていたが、突然、見知らぬ中年の紳士が現われて、ダニエルに早く帰宅するよう忠告した。この男はダニエルの前夫エミール・ブルトン(ビル・フィンレー)で、離婚したのちもしつこく彼女につきまとっているらしい。エミールの影に脅えるダニエルを送って、ニューヨーク郊外スタテン島の彼女の豪華なマンションに来たフィリップは、彼女に誘われるまま、その夜を共にした。快楽に身をくねらす白い裸身…だがその右腰の部分に大きなキズ痕がどす黒く盛り上がっているのを、フィリップは気づかなかった。翌朝、奇妙な事件が起こり始めた。ひとり住まいの筈のダニエルが若い娘と口論するような声に眠りを破られた彼は、その内容から相手の娘が妹のドミニックであることを知った。なぜか異常に取乱したダニエルに頼まれるまま、フィリップは薬を買いに外出したが、その後ろ姿を1台のワゴンの中からエミールがじっとみつめていた。フィリップが部屋に戻った瞬間、いきなり鋭いナイフをかざして襲いかかる女の気狂いじみた形相。フィリップは血みどろになって窓ぎわに這いずり、息絶えた。この殺害現場をちょうど真向いのマンションから目撃していた新進気鋭の女流記者グレース・コリアー(ジェニファー・ソールト)は警察に通報、自らもダニエルのマンションに駆けつけたが、不思議なことに、惨劇の跡は何もなかった。ダニエルのマンションに駆けつけたエミールが発作で倒れていたダニエルを介抱し、さらにそこにあったフィリップの死体を処理し、いっさいの証拠を撲滅したからだ。当然、グレースの証言は日頃の警察弾劾の急進的な記事が災いしてか、白昼夢として処理されてしまった。
★★★☆☆
これは1973年のブライアン・デ・パルマ監督の映画。『殺しのドレス』や『ボディダブル』は見ていたが、この映画は初めて。ヒッチコックのホラー演出を踏襲している、デ・パルマ監督の原点とも言える映画のひとつだ。タイトルの胎児標本(?)の写真にバーナード・ハーマンの仰々しいホラー音楽からしてもう怖い。映画途中で差し挟まれるシャム双生児の写真など、なんかもう気分はすっかりクローネンバーグ監督映画だ。ジキルとハイドみたいな双生児姉妹の話なんだけど、そこはそれ、ヒッチコック映画のアレみたいなオチが途中で判明する作りになっている。なんといっても、殺人現場とそれを窓から目撃する女性との画面分割、死体を隠す犯人と犯人宅へ捜索に向かう刑事との画面分割が、今見ても斬新でハラハラさせられる。そして捕らえられた目撃女性が双生児女性と同化したかのような謎解き部分の展開に驚かされる。人格の同居を観客にまで追体験させてしまうかのような演出の妙技なんて初めて見た気がする。さすがはデ・パルマ監督、その後の活躍の片鱗を十二分に感じさせてくれる出来だ。それにしてもボクがこの映画の拾い物だったのは、探偵役でチャールズ・ダーニングが出てくること。好きなんだよなぁ、この俳優さん。70年代の映画に彼の姿を発見するとなんか無性に嬉しくなってしまう。


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ショートショート『ガウディ』

2012年06月03日 | ショートショート



その、宇宙を漂流していた物体をどう形容したらよいだろう?
トウモロコシの芯を格子網で作ったような形状・・・そうだ。サグラダ・ファミリアの尖塔と比喩すればわかりやすいだろう。
しかも本家さながら、いやそれを遥かに凌いでひたすらでかい。
暖色の光が内部から漏れ出している様は、石灯籠のようだ。
何者かが建造した物なのは間違いない。宇宙船?それとも宇宙ステーション?
ボクは、より鮮明かつ詳細な映像を撮ろうと探査艇を物体にさらに近づけた。
見れば見るほど異様だ。圧倒的な存在感というか。
格子を構成する緩やかな螺旋部も格子部も決して一様ではないが、それでいて自然界の植物や動物のような統一感がある。生物のもつ合理性を追求し体現した形なのだ。
そして、ボクは見つけた。
建造している生物を。
その巨大な構造物に対してあまりに小さい生物が構造物に群がって建設を続けている。まるで蟻塚のアリだ。ある者は資材を運び、ある者は建材で組み立てている。
この構造物は建設の真っ最中なのだ。
さらにトウモロコシの本数を増やす工事をしている。いったい何本作る気なんだ?
そればかりじゃない。あまりに巨大なので既に建設した部分が老朽化し修復工事さえしている。
いったい何の目的でこんなバカでかい物を?
建設しながら修復するこの建造物に完成という言葉は存在するのだろうか?
建設している当人たちの生き死にのサイクルを遥かに超えた建築にどんな意味が?
もしや本当に宇宙のサグラダ・ファミリアなのでは?
ということは宗教的なモニュメント?アート?まさか観光資源?
ボクには解答を見つけられないまま、記録した映像を地球に向けて送信する。
人間ならどう解釈するだろう?
探査艇と一体の自律思考型コンピュータであるボクではなく。
そんなボクにまた疑問が浮かんだ。
はたしてこの映像が届く450年後の未来に人類は存在しているのだろうか?
いや、今この瞬間、450光年彼方の地球に人類は存在しているのだろうか?
そのときボクは絶対的な存在を激しく憧憬した。


 
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