「夜とともに西へ」の著者 ベリル・マーカム(1902~1986)は、1936年イギリスからアメリカ(正確にはカナダ)へ、つまり大西洋を(東から西へ)単独で無着陸横断飛行を成し遂げた。 アメリカの飛行家チャールズ・リンドバーグがニューヨークからパリへ(西から東へ)大西洋横断飛行に成功したのは1927年、それをきっかけとして飛行記録に挑戦する飛行家が次々と現れたが、女性による逆コースの大西洋横断飛行は、それまで達成されることはなかった。 なぜなら地球の自転方向に逆らって飛ぶ東から西へのコースは、飛行中ずっと夜を追いかけるフライトになり、しかも強い逆風に向かって飛び続ける困難が伴ったから。
9月4日の朝、まだベッドの中にいるベリルに航空省の男から電話が入る。 「イギリス西部とアイリッシュ海は雨模様で、向かい風が強く、大西洋の上空では風向きが不安定ですが快晴、ニューファンドランド沖は霧が発生しています。 この時期に大西洋を飛行する決心に変わりがないようでしたら、航空省の予報に関する限り、今夜と明朝の天気は、考えうる最高の条件だとお伝えしておきます」 その声は裁判所の事務官のように冷静だ。 彼女はベッドから出てバスを使い飛行服に着替えると、紙箱に入ったコールドチキンを食べ、通勤用に使っている飛行機で出発地のアビンドン空港へ向う。
ベリル自身は記録飛行にたいして関心は薄かった。 しかしロンドンで招かれたあるディナーに同席してた男が、農園を経営し、自らも自家用機と整備された専用の滑走路を所有し、専属パイロットとメカニックを抱える富豪に向かって、「J・C、ベリルの記録旅行のパトロンになってやれよ」と言った。 彼はドライに答える 「北大西洋を西から東へ横断したパイロットは大勢いる。 だが逆方向の横断に成功したのはジム・モリソン一人だけ、それもアイルランドからだ。 イギリスからの単独飛行に成功した者は、男女を問わずまだ一人もいない。 私が興味を持っているのはこのコースだけだ」
「ベリル、もし君にその気があれば援助するよ。 エドガー・パーシバルならそれにふさわしい飛行機が作れるだろう。 それに乗って挑戦すればいい。 どうだ?」 「いいわよ」 ベリルは答える。 「取引成立だ、私が飛行機を用意し、君が大西洋を横断する。・・・だが私なら百万ポンド積まれてもお断りだな。 あの真っ黒な海のことを考えてみろよ、どんなに冷たいか!」。 ベリルはパーシル航空機製作所から三十分のところにある町に移り、三カ月間毎日のように飛行機で工場に通いつめ、愛機ベガ・ガルの翼が形をなし、骨組みが木や布に覆われて長い流線型の胴体になり、エンジンが固定されるのを見守った。
機体そのものは航続距離が僅か千キロの典型的なスポーツモデルだが、エドガー・パーシバルは設計士としての高い技術、経験を積んだ飛行家の慎重さ、パイロットにたいする心配りとでカスタマイズの作業を進めた。 燃料タンクは翼の内側と胴体の他、操縦席の周りを壁のように取り囲んでタンクがセットされ、それぞれに大事なコックが付いていた。 バーシバルは説明する、コックを締めないで別のコックを開けるとエアロックを起こす。 操縦席のタンクには燃料計が付いてないから、必ず一つのタンクが完全に空になったのを確認して次のタンクを開くこと。 その間エンジンが止まるかもしれないがまた動き出す。 こいつはデハビランド・ジプシー(デ・ハビランドエンジン社で開発された英国の航空機用エンジン)だからな。 ジプシーは決して停らない!」
9月4日の朝、まだベッドの中にいるベリルに航空省の男から電話が入る。 「イギリス西部とアイリッシュ海は雨模様で、向かい風が強く、大西洋の上空では風向きが不安定ですが快晴、ニューファンドランド沖は霧が発生しています。 この時期に大西洋を飛行する決心に変わりがないようでしたら、航空省の予報に関する限り、今夜と明朝の天気は、考えうる最高の条件だとお伝えしておきます」 その声は裁判所の事務官のように冷静だ。 彼女はベッドから出てバスを使い飛行服に着替えると、紙箱に入ったコールドチキンを食べ、通勤用に使っている飛行機で出発地のアビンドン空港へ向う。
ベリル自身は記録飛行にたいして関心は薄かった。 しかしロンドンで招かれたあるディナーに同席してた男が、農園を経営し、自らも自家用機と整備された専用の滑走路を所有し、専属パイロットとメカニックを抱える富豪に向かって、「J・C、ベリルの記録旅行のパトロンになってやれよ」と言った。 彼はドライに答える 「北大西洋を西から東へ横断したパイロットは大勢いる。 だが逆方向の横断に成功したのはジム・モリソン一人だけ、それもアイルランドからだ。 イギリスからの単独飛行に成功した者は、男女を問わずまだ一人もいない。 私が興味を持っているのはこのコースだけだ」
「ベリル、もし君にその気があれば援助するよ。 エドガー・パーシバルならそれにふさわしい飛行機が作れるだろう。 それに乗って挑戦すればいい。 どうだ?」 「いいわよ」 ベリルは答える。 「取引成立だ、私が飛行機を用意し、君が大西洋を横断する。・・・だが私なら百万ポンド積まれてもお断りだな。 あの真っ黒な海のことを考えてみろよ、どんなに冷たいか!」。 ベリルはパーシル航空機製作所から三十分のところにある町に移り、三カ月間毎日のように飛行機で工場に通いつめ、愛機ベガ・ガルの翼が形をなし、骨組みが木や布に覆われて長い流線型の胴体になり、エンジンが固定されるのを見守った。
機体そのものは航続距離が僅か千キロの典型的なスポーツモデルだが、エドガー・パーシバルは設計士としての高い技術、経験を積んだ飛行家の慎重さ、パイロットにたいする心配りとでカスタマイズの作業を進めた。 燃料タンクは翼の内側と胴体の他、操縦席の周りを壁のように取り囲んでタンクがセットされ、それぞれに大事なコックが付いていた。 バーシバルは説明する、コックを締めないで別のコックを開けるとエアロックを起こす。 操縦席のタンクには燃料計が付いてないから、必ず一つのタンクが完全に空になったのを確認して次のタンクを開くこと。 その間エンジンが止まるかもしれないがまた動き出す。 こいつはデハビランド・ジプシー(デ・ハビランドエンジン社で開発された英国の航空機用エンジン)だからな。 ジプシーは決して停らない!」
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