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ユーさんのつぶやき

徒然なるままに日暮らしパソコンに向かひて心にうつりゆくよしなしごとをそこはかとなく書き綴るブログ

しょぼくれて耳なし芳一を思った夢

2006-10-10 | 真夜中の夢
 大阪本町界隈の会社を訪問した。車を駐車させようと辺りを探したが、駐車場は満杯だった。どこかにスペースがないか探したところ、うまい具合に建物と建物の隙間に車一台分駐車できる空間を見つけた。ビルの谷間の古びた木造モルタル張りの商店の隣であった。
 訪問先では、不法駐車のことが気掛かりで気もそぞろであったが、一応、無難に仕事を終わらせた。帰り際に、夕方からの社員集会で少しお酒や料理も出るので、社員の激励のために寄って一言しゃべってほしいと頼まれた。まだ、時間も早かったので、出席の約束だけして、とりあえず会社を辞去した。
 会社を一歩出ると、車を何処へ駐車させたのかまったく記憶のないことに気が付いた。果たして、どの辺りに停めたんだっけ? 皆目、見当が付かなかった。まずは心斎橋寄りから始めて、堺筋、四ツ橋筋までの間を丹念に歩き回った。それらしい商店は見当たらなかった。続いて、淀屋橋までの間を同様に絨毯爆撃よろしく、細かい通りを一本ずつ確かめて歩いた。
 あった。白い愛車のクラウンがあった。驚いたことに、車は本町からはるか西の、なにわ筋を少し越えたところに置いてあった。確かに見覚えのある古びた商店の傍であった。こんな遠くに車を停めた覚えはなかった。自信があった自分の記憶力の喪失に愕然とする思いだった。
 自分は隣の商店を訪ねて、無断で駐車させたことを丁重に詫びた。商店主は気さくに、いいよ、いいよと笑って許してくれた。
 車に乗ろうとして車を見て再び驚いた。車には、あの琵琶法師「耳なし芳一」張りに車体全体に経文のような文字がびっしりと書かれているではないか。文字は車を駐車させたお咎めの文句であった。「あほ」「バカ」に始まり、「不法駐車お断り」だの、「駐車したものは地獄へ行け」だの、油性のマジックインクで隙間なく書かれている。きっとあの商店主が書いたに違いない。いいよ、いいよ、は当然ではないか。それだけの復讐は既に実行した後だった。車の塗装のやり直しに20万円以上はかかるに違いない。愕然とする思いだった。
 場面は変わって、自分は悄然とした思いでボロ自転車に乗っていた。会社で約束した社員集会に出るべきか迷っていた。もうすっかり暗くなって、遅刻であることには違いない。それにしても、あの車の落書きは不思議だった。一目見たときは、それが経文に見えた。即座に「耳なし芳一」を思い浮かべた。芳一なる盲目の琵琶法師が平家武者の人魂に囲まれて、卒塔婆の前でぼろんぼろんと琵琶を弾いている。これは一体何を意味しているのか? 俺はコンサル稼業をやっているが、所詮、「耳なし芳一」と同じ立場ではなかろうか? 時に経営者に説教を垂れたりしているが、何のお役に立っているというのか?
 ぼんやりと色々なことを考えながら自転車を漕いでいると、ポケットから大事なハンコの袋がはみ出て地面に落ちた。ハンコが散らばった。畜生!今日はロクでもない日だ。もう、社員集会へ行くのはやめた。何かしょぼくれた気分に圧倒されて、自転車は自然にスピードを上げて自宅の方に向かっていた。

※「耳なし芳一」とは、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の怪談に出てくるお話です。平家物語の琵琶の語り弾きを聞きたくて、亡霊となった平家の武者が盲目の芳一を墓場に招きます。それを知ったお寺の住職が、芳一の身体全体にお経を書いて芳一を守ります。お経を書いた身体の部分は、亡霊には見えなくなるからです。住職は芳一の耳だけ経文を書き忘れてしまいました。怒った亡霊は見えている芳一の耳を引き千切ってしまいます。


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