自分は集団の中で行動していた。知らない人に混じってセミナーに参加しているようであった。着替えや履物などの身の周りのもの一式を部屋に持ち込んで、板の間のフロアーに寝そべったり、壁にもたれた格好で講師の話を聞いていた。極めてルーズで気楽な雰囲気の講習会であった。
昼の休み時間になって、外へ食事に出かけることになった。自分は靴下を履かなければ靴が履けないと思った。カバンを開けて靴下を探すと、何処にも靴下がなかった。カバンの中のものを全部放り出して調べたが、やはり出てこなかった。たまたま居た隣の人に「靴下が無いんだ。キミのヤツを一つ貸してくれんか?」と頼んだ。
その人は怪訝そうな顔をして言った。「アンタはもう靴下を履いてますよ」と。よく見ると、自分は靴下を履いていた。靴下には泥が一杯付いていたが、既に身に着けていることを他人から指摘されて恥ずかしく思った。
昼休みの時間は1時間。外へ出て、食堂を探して、それから食事するには時間があまりないと思った。早く靴を履いて外へ出なければと教室の出口へ来た。沢山の靴が脱ぎ捨ててあり、自分はどのような靴を履いてきたのか覚えがなかった。「はてな、自分はどんな靴を履いてきたのかな?」と幾ら考えても思い出せなかった。当てずっぽうで、自分なら履くであろうと思われる格好の靴を選んで履いてみた。一つ目は小さすぎて足が入らなかった。二つ目は大きすぎて、ぶかぶかであった。あれこれいくつもテストしてみた。最後にぴったりの靴があったので、自信を持って、それを履いて外へ出た。
外へ出ると、そこは見も知らぬ町であった。自分は当てもなくあちらこちらをうろつきまわった。一体、何をしているのか?と我ながら不審に思った。最後に、小さなラーメン屋を見つけた。好物のラーメンが食えるぞとほっとした。中へ入ると満員で空席が無かった。注文だけして、席が空くのを待った。時計を見ると、昼休みの時間がとうに過ぎていた。
自分は注文をそのままにして、何も言わずに外へ出た。どの道をどのように帰ったのか、上の空であった。もと居た教室はすっかり内装が変っており、小物雑貨の売り場になっていた。自分は迷子になったのか?元の場所に帰ってくることが出来なかったのか?と冷や汗がどっと出たような気がした。やむなく、店員に尋ねた。「すみません、1時間ほど前まで、ここでセミナーを受講していたのですが…」。店員は黙って、部屋の角を指差した。
そこは隣の部屋への入口になっていた。中では講習会のようなものが行われている気配があった。自分はその部屋へ入った。部屋は暗く、大きなスクリーンにスライドが映されていた。よく見ると、それは自分のこの1時間の行動を辿った実録であった。最後にタイトルが出た。タイトルには「ある老人のボケの実録」とあった。知らぬ間に自分はボケ老人の主役となり、教材にされていた。
部屋を出ると、外は大きな運動場であった。三々五々に人の塊が出来ていた。それぞれグループディスカッションをしていた。「ああ、キミ。キミ。キミはさっきのスライドの主人公じゃありませんか?皆に、ボケの体験談を話してくれませんか?」と頼まれた。
いつの間にか、自分は衆目の的になっていた。咄嗟にマイクを突きつけられた。マイクを見ると、それはただのソフトドリンクのアルミ缶であった。「バカな、こんなもので聞こえるか!」と思ったが、内部に半分ほど水が入っているらしく、その水が缶の中で音を増幅させるのか、結構大きな音として聞こえた。「ままよ」と話す内容が何もないのに、滔々と長時間しゃべった。支離滅裂の内容であったが、自分は得意であった。「年は食っても、人の前ではまだまだ、こんなに長時間しゃべれる。自分も捨てたものではない」と嬉しく感じた。聴衆は「さすが、本物のボケにはかないませんな」としきりに感心していた。その声がはっきり聞こえた。
目が覚めた。自分の行動を完全に意識し、コントロールしているつもりでありながら、しかし常識外れで、他人から見れば意味の無いことを懸命にやっている姿。本当にボケが来て、脳ミソの機能が弱くなると、自分も本当にこのような姿になるかもしれない。ひょっとすると、これは既に現実の自分の姿ではないか。寝床の中で戦慄を覚える自分であった。


昼の休み時間になって、外へ食事に出かけることになった。自分は靴下を履かなければ靴が履けないと思った。カバンを開けて靴下を探すと、何処にも靴下がなかった。カバンの中のものを全部放り出して調べたが、やはり出てこなかった。たまたま居た隣の人に「靴下が無いんだ。キミのヤツを一つ貸してくれんか?」と頼んだ。
その人は怪訝そうな顔をして言った。「アンタはもう靴下を履いてますよ」と。よく見ると、自分は靴下を履いていた。靴下には泥が一杯付いていたが、既に身に着けていることを他人から指摘されて恥ずかしく思った。
昼休みの時間は1時間。外へ出て、食堂を探して、それから食事するには時間があまりないと思った。早く靴を履いて外へ出なければと教室の出口へ来た。沢山の靴が脱ぎ捨ててあり、自分はどのような靴を履いてきたのか覚えがなかった。「はてな、自分はどんな靴を履いてきたのかな?」と幾ら考えても思い出せなかった。当てずっぽうで、自分なら履くであろうと思われる格好の靴を選んで履いてみた。一つ目は小さすぎて足が入らなかった。二つ目は大きすぎて、ぶかぶかであった。あれこれいくつもテストしてみた。最後にぴったりの靴があったので、自信を持って、それを履いて外へ出た。
外へ出ると、そこは見も知らぬ町であった。自分は当てもなくあちらこちらをうろつきまわった。一体、何をしているのか?と我ながら不審に思った。最後に、小さなラーメン屋を見つけた。好物のラーメンが食えるぞとほっとした。中へ入ると満員で空席が無かった。注文だけして、席が空くのを待った。時計を見ると、昼休みの時間がとうに過ぎていた。
自分は注文をそのままにして、何も言わずに外へ出た。どの道をどのように帰ったのか、上の空であった。もと居た教室はすっかり内装が変っており、小物雑貨の売り場になっていた。自分は迷子になったのか?元の場所に帰ってくることが出来なかったのか?と冷や汗がどっと出たような気がした。やむなく、店員に尋ねた。「すみません、1時間ほど前まで、ここでセミナーを受講していたのですが…」。店員は黙って、部屋の角を指差した。
そこは隣の部屋への入口になっていた。中では講習会のようなものが行われている気配があった。自分はその部屋へ入った。部屋は暗く、大きなスクリーンにスライドが映されていた。よく見ると、それは自分のこの1時間の行動を辿った実録であった。最後にタイトルが出た。タイトルには「ある老人のボケの実録」とあった。知らぬ間に自分はボケ老人の主役となり、教材にされていた。
部屋を出ると、外は大きな運動場であった。三々五々に人の塊が出来ていた。それぞれグループディスカッションをしていた。「ああ、キミ。キミ。キミはさっきのスライドの主人公じゃありませんか?皆に、ボケの体験談を話してくれませんか?」と頼まれた。
いつの間にか、自分は衆目の的になっていた。咄嗟にマイクを突きつけられた。マイクを見ると、それはただのソフトドリンクのアルミ缶であった。「バカな、こんなもので聞こえるか!」と思ったが、内部に半分ほど水が入っているらしく、その水が缶の中で音を増幅させるのか、結構大きな音として聞こえた。「ままよ」と話す内容が何もないのに、滔々と長時間しゃべった。支離滅裂の内容であったが、自分は得意であった。「年は食っても、人の前ではまだまだ、こんなに長時間しゃべれる。自分も捨てたものではない」と嬉しく感じた。聴衆は「さすが、本物のボケにはかないませんな」としきりに感心していた。その声がはっきり聞こえた。
目が覚めた。自分の行動を完全に意識し、コントロールしているつもりでありながら、しかし常識外れで、他人から見れば意味の無いことを懸命にやっている姿。本当にボケが来て、脳ミソの機能が弱くなると、自分も本当にこのような姿になるかもしれない。ひょっとすると、これは既に現実の自分の姿ではないか。寝床の中で戦慄を覚える自分であった。


