窓のない薄暗い部屋で会議が行われていた。会議室には数名の男が居た。同年代、同じ服を着て、同じメガネをかけていた。自分は議長をしている。顔がよく見えないので、一番端に座っている男に発言を促した。「すみません、初対面かもしれませんので、自己紹介してください」。男は答えた。「はい、ユーさんです」。自分はぎょっとした。自分と同名であった。順に名前を聞くと、全員が「ユーさんです」と答えた。「ばかな!」と思ったが、ありえないことでもないと思い、議事を進行させた。 「本日の議題は自分とは何か?です。皆さんの意見を言ってください」。 最初に発言した男は、「私の考えでは、自分なんてこの世には存在しませんよ。そこには宇宙があるだけだ。自分は宇宙の一部なんだ」と言った。初っぱなから、非常に哲学的な話であった。この発言があまりにも世離れしているので気楽になったのか、出席者は思い思いに発言を始めた。 「自分は周りの期待を想像して、その通り振舞っているだけです。まあ、言ってみれば役者ですよね」。「私も他人に良い格好をするため頑張っているだけだ。そこには本当の自分は何もないね」。「考えて見れば、私も普段から上司や家族の言うとおり動いているだけで、自分の考えたとおりにやったことなんて何もないなあ」。「本当の自分はもっと別のところに居るような気がして仕方ないんだ」「自分は自分だとは思うが、どうも最近の自分は本当の自分ではないみたいだ」「他人と違うことをするのが恐くてね」「一番分らんのは自分のことなんだ」などと、自己の存在や個性を実感できない発言ばかり、ポンポンと飛び出してきた。 「こいつら、本当の自分とは何か、何も分っとらんね」と、議長はがっかりした。しかし、果たして、誰が「理想の自分」と「目標の自分」と「現実の自分」との区別がつけられるのか? そう言う議長ですら、「本当の自分」とは、「理想の自分」のことか「現実の自分」のことか、その区別を意識して考えたこともない。議長は、一寸、赤面気味に、「ハイ、次ぎ?」と辺りを見回すと、一同は忽然と姿を消していた。 夢であった。目が覚めて暫く考えた。会議室には初めから自分しか居なかったのかもしれない。発言は全部、自問自答であったかもしれない。本当の自分とは何か? このツカミ所のない命題と、自分のことについて本当に何も分っていない自分の現実とに、暫し、憮然とした思いが残った。












