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ユーさんのつぶやき

徒然なるままに日暮らしパソコンに向かひて心にうつりゆくよしなしごとをそこはかとなく書き綴るブログ

瀕死の蒸気機関車の夢(1996年ごろ)

1996-03-27 | 真夜中の夢
 何者かに追いかけられて逃げまくっている。後ろから何発ものピストルの発射音が追って来る。耳元を銃弾がかすめる。走って逃げているのだが歩きにくい。前に進まない。弾に当たらないのが不思議だ。そこは雨でぬかるんだ泥道であった。汚い黒い板塀が道の両側に続いている。塀に隠れてじっとしておれば見つからないかもしれないが、それでは座して死を待つだけだ。ともかく逃げよう。泥に足を取られ、手も取られ、全身泥まみれになって逃げているのは他ならぬ自分である。
 右へ曲がり、左へ曲がってもぬかるみは続く。「何処まで続くぬかるみぞ」、何処かで聞いたセリフを心の中でしゃべっている。丁度、車一台がやっと通りぬける程度の細い道だ。小雨ではあるが休むことなく降り続く雨。視野をさえぎる板塀がどこまでも続く。
 万事が休したと思った。その時、その道の向こう側の真正面から道幅一杯に何か黒い物体がよたよたと走ってくるのに気が付いた。何事かと思ってみていると、上部からもくもくと黒い煙を吐いている。蒸気機関車であった。昔懐かしい蒸気機関車の先頭の機関車だけが1台よたよたと疲れきったようにこちらに向かって走っている。
 「えらいこっちゃ、轢かれるぞ」と、思ったその瞬間、目の前の蒸気機関車は大きく最後の息をするがごとく、しゅうっと白い煙を吐き出すや目の前で、どたっと横倒しになって息も絶え絶えにもがいている。機関車の横腹やシリンダーや至るところの隙間からしゅうしゅうと白い湯気を出して、もう断末魔のうめき声であった。
   「この蒸気機関車、滅茶苦茶、疲れとるぞ」
   「ひょっとしたら、この蒸気機関車、死によるんとちゃうか?」
 何時の間にか現れた黒山のような人だかりが、口々に感想を述べながら、臨終に立ち会うような目つきで、横倒しになった蒸気機関車の死を見取っていたのであった。
 自分は、本心から「可愛そうに、この機関車もゴツゥ疲れとるんやなあ」と思った。銃弾に追われて逃げていたはずの自分が、意識の上ではいつの間にか蒸気機関車に変身していた。蒸気機関車は鋼鉄製だ。生身の自分よりはるかに頑丈で強いはずだ。確かに見た目には、厚い黒い鋼鈑に蔽われているが、あちこちから洩れてくる白い蒸気の湯気で、まるで脱皮した後のカニの甲羅のように、ふにゃふにゃになっているのであった。この蒸気機関車はひょっとして自分自身の生身の姿ではないだろうかと不思議な思いがあった。


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