年に数回訪れる東京ですが
久方ぶりに浜松町に投宿しました
いつものように朝の町を歩きました
冷たく気持ちの良い秋の朝でした
ホテルを出て高層ビルの下を歩いていても
口を出る歌は昔の歌ばかりでした
笠置シズ子の東京ブギウギ
宮城まり子の東京シューシャインボーイ
歌手は記憶にありませんが東京のバスガール
東京の屋根の下に住む 若い僕らは幸せ者 なんて
次から次へと 昔の名前が出てきます
遥か60年前の歌ばかりですが
すっきりせず 寝ぼけ頭で歩いていると
JR浜松町駅に差し掛かりました
早出のサラリーマンの行軍に驚きました
はっと目が覚めました
ダークスーツに白いシャツ
きちんとネクタイを締めた中年男性達の行軍です
みんな同じ方向に同じ速さでこちらに向かって歩いて来ます
みんな同じ格好をしています
黙々とすごいスピードで歩いています
反対方向に歩く自分は押し戻されそうになります
すごい迫力です
東京ガスのビルへ 東芝のビルへと吸い込まれていきます
まるで重戦車です
だが よく見るとみんな違います
白髪の人 禿げた人 若い人
恐い顔 ひょうきんな顔 若い女の笑い顔
みんな 家に帰れば お父さん、お兄さん、お姉さんたちです
みんな 人生を持ち 家族を持ち 悩みを持った人たちです
お金持ちもいれば 病気もちもいます
だが みんな無表情です
こうして肩を触れそうになっても
みんな知らん顔して通り過ぎていきます
まあ いいでしょう
こうやって顔を合わせるのも何かの縁
皆さんの毎日が幸せであるよう
どなた様も 今日も一日 元気で頑張ってくださいと祈ります
この辺りを海岸通りと呼ぶことは知っていましたが
海岸がこんなに近くとは知りませんでした
高速道路をくぐればそこはもう竹芝桟橋でした
見晴台に立ち見渡せばそこには東京の海がありました
あいにくの曇り空でしたが秋の朝は清々しい
銀白色のブリッジ 遠くにかすむコンテナークレーン
冷凍倉庫 高層ビル 伊豆大島へ渡る船
見渡す限り
人工の構造物しか見えません
ここは浜辺と言うより運河です
どんよりした灰色をしています
寄せる波はありません
磯の香りはありません
潮騒は聞こえません
殺風景と言えばその通りですが
構築物を美しいと見る人には美しい空間です
都会の秋 都会の朝 都会の海
一日の始まる希望の朝に変りはありません
ホテルに帰ってTVをつけると
みのもんた氏の朝ズバが放映中でした
建築家73歳の黒川紀章氏の葬儀のニュースが流れていました
昨日まで都知事選や参院選で世間を騒がせていた人でした
亡くなる二日前に奥さんの若尾文子さんとの会話に泣かされました
「私は好い奥さんではなかったわね」
「そんなこと、そんなこと、そんなこと、僕はキミが好きだったよ」と
これが最後の会話だったそうです
いい夫婦だったんだね ああ!うらやましい と
あらためて見直しました
人は何時死ぬか?それが分かれば苦労はありません
年収200億でも死ぬ時は死ぬ すべてそのまま置いて一人死ぬ
世界中に作品を残して 建築家として名前を残して
美人の奥さんには悲しまれて死ぬ
本人には申し訳ないが これって男子の本懐ではないか?
人は何時死ぬか分かりません
油断をしていてはなりませぬ
財産も作品も名も何も無くても何時お迎えが来るか分かりません
だが 後悔だけはしたくない
することはして それからゆっくりと死なせて欲しい
もう一寸だけ待って欲しい
だが 待ってもらって何が出来るか?実はそれが一番の問題だがね!と
我が人生のこと
一寸考えて始った東京の朝でした

