バイオベンチャーのスパイバー(山形県鶴岡市)は自社開発の新素材「クモ糸繊維」の量産化に向け、トヨタ自動車系部品製造の小島プレス工業(愛知県豊田市)と共同で工場を鶴岡市に建設する。5月に着工し、10月に完成させる予定。新素材はタンパク質由来で、石油から作る化学繊維より環境負荷が少なく、十分な強度を備える。繊維事業での実用化を手始めに、車体など自動車の樹脂製品への応用も目指す。
新工場は鶴岡市のインキュベーション(ふ化)施設「鶴岡メタボロームキャンパス」の敷地内に建てる。床面積約1400平方メートルの平屋で、建設費7億5000万円の一部は、国の補助金なども活用する。
両社の研究開発スタッフ計10人でスタートし、1カ月に100キロ生産できるプラントを使った試作と評価を行う。2015年度には設備を増強して月産1万トンまで引き上げ、利用を見込めるメーカーへのサンプル出荷を始める。量産は18年ごろを目標とする。
衣料、タイヤ、人工毛髪などでの実用化を第1段階と位置付け、極めて細い手術用の糸や人工血管などの医療分野、自動車の樹脂製品へと展開していく計画だ。
スパイバーは07年、慶応大大学院生だった関山和秀さんが同大先端生命科学研究所(鶴岡市)内に設立した。開発した人工合成のクモ糸繊維は伸縮性や耐熱性にも優れ、「夢の素材」とも言われる。
「量産体制をどう築いていけるか。最大の課題克服に向け力を合わせたい」と小島プレス工業。スパイバーは「石油が中心だった工業材料に新たな分野を生みだし、鶴岡市を含む庄内地域を一大研究開発拠点にしたい」としている。
[クモ糸繊維] クモの糸の主成分「フィブロイン」と呼ばれるタンパク質と、培養したバクテリアを合成させて作る糸を基にした繊維。石油由来ではないため生産時の二酸化炭素排出は極めて少なく、微生物で分解され廃棄も容易。人工的な生成を目指す研究者の間では「夢の素材」と言われてきた。