時の泉庭園

小説は、基本、ハッピーエンド。
話は、最後まで出来上がってからUPなので、全部完結済み。

(^◇^)・・・みん兎

空に物思いするかな 18

2009-03-04 13:18:22 | 空に物思うかな
「取り立てて、何も。花見をしていたので、どこそこの花が綺麗だとか。そんなことぐらいかしら。どこの誰なのか知りたかっただけだから、それがわかれば、その場はそれでよかったのだもの。・・・そういえば、五節の舞姫の話はしていたの。好きな和歌の話をしていて。だから、あの歌なのかしら。」
 あまつかぜ雲のかよいぢ吹きとぢよ乙女の姿しばしとどめむ 良岑宗貞
 その時の歌を口ずさむ。この乙女とは、五節の舞姫。美しく舞う姿を愛しんだものだ。
「五節の舞姫のことだな。あの文の歌も、舞姫に歌いかけた歌だ。」
「ええ。悲しそうに、五節の舞姫とだけ呟いて、少し俯かれてしまって、慌てて話題を変えたの。他には、思う方には、別に誰か、いるみたいだというふうに受け取れることを言っていた。だから、人に言えぬ悩みなのかしら。ねえ。あの後、彼女と話をした私を害そうとした、あの賊が犯人?いいえ。確か、行平さまは、あの人の恋人の宮さまを調べていたのよね?」
「常盤どのを害したのは、私が射たあの賊だったらしい。それは、寺への出入りを調べて、すぐ足がついたと聞いた。千沙が、たまたま言葉を交わしているのを知っていた賊が、用心のため、害そうとしたのか。それとも、つながりのある宮の指示かは、わからない。けれど、千沙という女は、あの後、急な病で亡くなったということになっている。姫のことを知っているものは、少ない。だから、安心しろ。」
「安心しろですって。違うわ、私が言いたいのは・・・。」
 ばさっと、御簾を跳ね除けて、周子(あまねこ)が姿を見せる。怒っている。
「常盤さまは、あんなに宮のことを思ってらしたのに、それを簡単に害するなんて。あんまりだわ。」
「害したのは、賊の勝手な判断かもしれない。奴らは、非常に臆病な一面ももってるからな。」
「ひどいわっ。」
「お、落ち着け姫。」
 わっと、泣き出しそうだ。行平は、彼女の体を引き寄せて、腕に抱き、よしよしと背を撫でる。
「姫の気持ちもわかる。けれど、そのまま、捨て置くわけじゃない。いずれ、真相もわかる。それまでは、その気持ちにも、蓋をしておいてくれないか。私だけじゃない、皆が、姫を心配しているのだから。」
「私も、お手伝いさせて下さい。」
「危険なことはしたくないと、始め言っていたではないか。」
「・・・・亡くなられた方と話をしなければ、そう思えたかもしれない。お願いします。邪魔にはならないから。」
「だが、姫は顔を見られているかもしれない。近付けば、危ない。」
「・・・・でも、でも・・・・。」
「姫だけじゃない。この屋敷の人間も、この一件に係わっている者たちの命にも係わるかもしれない。わかるか?」
 こくんと、周子(あまねこ)が首を縦に振る。
「そのかわり、捕まったら、いの一番に知らせてやるから。それで、勘弁な。」
 彼がすまなそうにしているからだろうか。
「行平さまが、悪いわけではないです。」
 くすっと、周子(あまねこ)が笑う。笑った。行平が、その頬に手を延ばしかけた時。ごほんと、咳払いがした。ちっ。まるで、見計らったかのようではないか。行平は、すぐ近くに、何食わぬ顔で、座っている知則を見た。
「申し訳ありません。私は、関守を申し付かっておりますゆえ、ただ、一度であっさり、お通しするわけにも行きません。姉上も、分ってないみたいだし。」
「きゃあ。」
 周子(あまねこ)が、叫び声をあげて、慌てて御簾のうちに入る。さすがに、隅に固まって、小動物のように身構えはしなかったが、いたたまれないといった感じで、座ってる。
「函(かん)谷関(こくかん)は、知恵を働かせないと通れないのかな。しかし、やっかいな関守をどうやって、誤魔化そうか。」
 おどけて言った行平。
 函谷関・・・は、何のことかというと。中国の故事で、敵に追われた孟嘗君(もうしょうくん)が、函谷関と呼ばれる城門を抜けるさいに、一番鳥が鳴かないと開かないという門を、配下の鳥の鳴き声のうまい奴に助けられ、門衛が勘違いして開けてしまった門を、無事通り抜けることができたという話だ。
 夜をこめて 鳥のそら音ははかるとも 世に逢坂の関は許さじ 清少納言
 夜中に、ニセの鶏でだまそうとしたって、駄目よ。私の心の扉は開かないのよ?関守はとっても、守りが堅いの。なんて、意味の歌を、詠んだ女房もいる。
君の心の関(扉)を開けてよと言ってきた人に、関と関をかけて、男女の(逢う・・・は、男女の関係になることを暗示)間の心のずれを関と表現し、それとなかなか開かない函谷関をかけたのだ。こんなふうに、気の利いた答えを返したり、会話の中に取り入れたりするのが、おしゃれな流行のやり方だ。
漢籍は、男の必須教養科目だけど、女性は学ばないものなので、行平は、傍らの知則に言ったつもりだった。
「あら。行平さまが、鶏のまねをなさるの?」
 と、周子(あまねこ)。目を見張る行平。知則は、へえといった顔で見てる。漢籍をかじってるなんて、ほんとじゃじゃ馬だなとのつぶやきとは、反対に、にやりと笑い。行平は。
「また、来る。姫は、面白いな。」
 次の約束を残して、周子(あまねこ)のもとを去って行った。




空に物思いするかな 17

2009-03-04 13:14:48 | 空に物思うかな
宵闇の中。案内を乞うて、庭を歩いて、目指す対の屋へ回っていく。
庭先には、ひとつ篝火が焚かれ、ほんのりと闇を照らしている。
対の屋は、さすがに、外縁と中を隔てる御簾は、どこもきっちりと下ろされて、中の灯火も控え気味に灯されて、薄暗い。
やっぱり、姿を見ることは叶わないか。
半ばは、わかっていたことで、行平はそれでも、残念な気持ちを抱く。
中から、楽しそうに笑う声がしている。?若い男の声・・・。
階の近くに来ると、御簾から、知則が外縁に出てきた。
暗くて顔が確認できない。
誰だと、行平の目つきが一瞬、きつくなったのを、彼は、しばらく、じっと見ていたが、やがて、にっと、笑う。丸顔で、笑うと、とても人懐っこい感じだ。あっ、知則の少将か。部下ではないが、同じ武官なので、顔ぐらいは知っている。
行平は、彼が、この家の養子であったことを思い出した。ついでに、父親が、周子(あまねこ)と同じあの参議だということも・・・・。大丈夫なのか。近くに、置いても・・・。行平は、知則の生母が誰だかまでは、知らないので、心の中で、案じた。
「私は、あのおっかない北の方の子ではありませんよ。」
 心を読んだかのように、知則が答える。周子(あまねこ)とは、幼い頃は、行き来はあったけれど、母親が再婚して、そちらで育ったので、最近まで音信が途絶えていたと、説明する。
「男だし、父方に引き取られるのが普通だけれど、あの猛妻だしな。お陰で、姉上のような苦労をすることはなかった。」
 からからと、笑って答える。
「なるほど。これは、いらぬ気をまわしたようだ。」
「うん。始めに、なかなかいい顔してましたよ。合格点あげましょう。実は、伯父から、うかつに男を近づけないようにと言われてましてね。でも、あの表情に免じて、お話をなさるくらいなら、許してもいいかな。」
 どうぞと、階を示す。階の上の段に腰掛けて落ち着く。何で、こんなに緊張してるんだ。いつもとは、勝手が違う何かをみつけ、行平は、少し居心地の悪さを感じていた。
 さらさらと、衣擦れの音が伝わり。ふわりと、香の良い香りが近付いてくる。
御簾のすぐそばまで、周子(あまねこ)がやって来たのがわかる。
いくら薄暗い灯火でも、闇の濃い庭先よりも、室内のほうが明るいからだ。
黄色に赤い縁取りがしてあるように見える、裏山吹という名の重ねの、小袿姿が、御簾を透かして見える。さすがに、檜扇をちゃんと翳しているので、顔は見えない。
それでも、ほっと心が軽くなったような灯りが灯ったような気持ちになり、見つめてしまう。こうなると、さすがに自分の心の変化を感じないわけにはいかない。
経緯(いきさつ)から、ただ、ちょっと興味を引くぐらいの存在であったはずなのに・・・。
「元気そうだで、よかった・・・。」
 ぽつりと出てきた言葉。気の利いた会話は出来そうにもない。行平は、そんな自分に苦笑する。
「ずいぶんと、気にかけていただいたようですね。あの時は、却って、ご迷惑をかけてしまったのに。あの後、伯父から、小言を言われたのでは?」
「いや。それは、知らなかったこととはいえ、姫君を連れ出したかたちになってしまったのですから、心配になるのはあたりまえ。」
 強い口調ではなかったが、二人の関係を聞かれた。
寺では、宿坊にこもる周子(あまねこ)のそばに、ずっといたわけではなく、顔を合わせても、最後のあの日以外、あまり会話らしい会話もしていない。けれど、同じ部屋で、時を過ごしたのだから、むしろ、何かあったと考えるほうが当然だろう。それでも、行平は、一応正直に、弁明はした。「まあ。そうだと思っていたが。」中納言の返事は、意外にも彼の弁明に納得していた。あまりにも、素直に信じてもらえたので、行平のほうが首を捻った。「誰にも頼らず、自活していこうなどと、姫としては常識はずれのことを考えて行動に出る娘だ。意に沿わぬ男のいうなりになどならぬと思うからな。」笑って、その後、付け加えた。「千沙という娘は、消えた。でなければ、あの子の安全が保てぬ。だが、我が家に加わった姫に、求婚する男が現れる分には問題なかろう。」そうでなければ、もう係わってくれるなという意味だ。もっともなことと、行平も、頷いた。とはいえ、ここへ来るまでは、それほど、確かな気持ちがあったわけではないが・・・・。
 これは、腹を据えて、ちゃんと手順を踏むかな・・・。
会話がすすむうち、行平は心の中で、思っていた。
ああ、それから、ここへ来た目的も果たさなければ。
けれど、思い出させても、大丈夫だろうか・・・・。
行平は、躊躇しながらも、それを口にした。側の知則の存在も気になり、ちらりと様子を伺うが、どうやら、中納言から聞いているのだろう。驚いたふうもなく、座っている。
 亡くなった彼女とは、どんな会話をしていたのか。
 訊かれた周子は、もちろん、ずっと気にかかっていたことなので、やっとその話題になって、少し、膝を進めて答える。あのあと、どうなったのかは、聞いていない。いつもは、周子がいろんなことに興味を示すのにも、あまい伯父だが、さすがに事件に係わることは禁じられている。体の調子を崩していた時は、ともかく、毎日、平穏に過ごしていても、心の底から晴れない気持ちがあるのを感じていた。

空に物思いするかな 16

2009-03-04 13:05:14 | 空に物思うかな
ざりざりと白砂の上を、歩く音がしている。
緌(おいかけ)のついた冠の後ろを巻いた巻纓(まきえい)の冠。欠腋の袍(けってきのほう)の下襲(したがさね)を帯に挟み込んだ姿。
緌とは、冠の左右についている扇状の飾りのこと。武官である為、袍も文官のそれとは違い腋が開いて、裾も前と後ろを縫い合わせず、動きやすい使用になっている。
行平が歩いている。勤務中なので、もちろんいつもの立烏帽子に直衣などという砕けた格好ではなく、武官の装いに身を固めていた。
行平は、呼ばれて庭を移動していく途中で足をとめる。卯の花の白い小さな花が咲いている。小さな白い花が、向うから、こっちへこぼれるように咲いていて。ふと、たった一度だけ笑顔を見せてくれた人を思いだす。千沙、いや、周子姫(あまねこひめ)か・・・。実の父の宰相(参議)どのがそう呼んでいた。彼女がもとの身分の姫に戻り、伯父の中納言の娘となった今、その姿は御簾を隔てた向う・・・どころか、気軽に尋ねてもいけない関係になってしまったのだ。方法がないわけではないが・・・。
思いついて、紙を取り出し、さらさらと書き付ける。ぽきりと、目立たぬところを一枝折り取り、その辺を探し、文使いの童を呼んで、文を託す。それを、見送って、戻ろうときびすを返す。行き先に、人がいる。
こちらを、生暖かい目でみている人へ。
「中務(なかつかさ)の宮さま。ご用と、伺いましたが。」
 そ知らぬ顔で、行平は、声をかける。中務の宮は、年の頃は行平より、一つ二つ上ぐらいに見えた。少し、間延びしたような表情にはみえるが、まあまあ平均的な顔立ち。
「ふふ。君が、職務途中で、付け文なんて、珍しいね。最近は、付き合い悪くなったって、悪友たちが言っていたよ。どこの、誰にご執心なんだろうねえ。」
「宮さま。からかわないで下さい。ただ、この間からの事の顛末を気にしているから、当たり障りない部分だけは、話してもいいかなと、今日あたり、訪ねていこうかと、書き送っただけですよ。」
 くだけた口調になっているのは、普段から親しい仲だから。身分の上下に煩い世界ではあるが、今、まわりに人はいない。
この人に、下手に隠すと、却っていじられる。
だから、正直に話してはみたが、あえて、誰にとは言わなかった。
「あの例の姫君?ふうん。もう、てっきり通っているのではないかと、思っていたが。」
「いや。そういう相手じゃないですよ。あの一件のあと、具合を悪くしたとかで、私の方も、どうしているかは気にはなっていたのですが、忙しくて今まで、放っておいたくらいですから。」
 別の意味で、へたに興味をもたれたら困る。とりたてて普通の女であるというふうに、宮の興をそそらない為に、さらっと流してしまおう。
宮に目をつけられたら、姫には面倒なことになるかもしれない。
宮さまは、良いところもおありなんだが・・・。
あちこちで、浮名をながして恋の噂の多い宮は、あの男前の左小弁といい勝負の数を競っている。それでも、対面をともなう家の姫などは上手に避けている左小弁などとは違い、宮は皇子であるだけに怖いもの知らずだ。ちょっと通ってすぐに、忘れ去ることも平気でしかねない・・・。相手の姫の対面にも、傷がつく。
いや、この際、自分が興味を持ってもらっては困るのだ。それが、本音か・・・。行平は、平静を取り繕いながら、心の中で自分に苦笑する。
めずらしく自分自身の去就に迷ってもいる。
「おやおや。らしくないねえ。それだけ、まじめに考えているってことかな?ねえ、兄上。」
 相変わらず、のんびりとした顔で、ふいに後ろを振り向いて話をふる。あまりに、普通な調子で、建物の影から、人が出てくると、さすがに行平も驚いた。
「東宮さま。」
 慌てて、膝をつこうとして止められた。
「かまわぬ。今、散策の途中だ。警護ということで、さりげなく後ろからついてくるように。」
 大きな読経の声が、こちらへ流れてくる。それが、耳に届いて。「勘弁してほしいな。」と、溜息まじりにつぶやき、歩き始める。行平が、一瞬、返答にこまって、それでも、聞こえないふりを装ったのへ、「困ったものだな。おかげで、兄上がしっかりしなくちゃならない。」中務の宮が、隣りへやって来て囁く。「今は、経だからいいようなものの。神秘主義何とかならないものか。おかしなものを側に置くようなことがなければいいが。」帝のことを言っている。ぼやいたその言葉は、弟の宮が話しているけれど、真情は、兄の東宮も同じだ。是とも、否とも言わなかったが、批判と採られかねない言葉を、窘めることもしない。人がいないので、殊更、止めはしない。ちらりと視線を向けたので、聞こえていることは確かだと、後ろを歩いている行平にもわかる。
行平には、返答しかねることなので、宮の言葉は聞き流す。ただ、その反応も、わかっていることなので、宮も、独り言のように言っただけで、そのまま、後は、黙って、兄の後について行く。
 ゆっくりと、歩きながら、人のいないところに来ると一言二言、話を進めていく。
「結局、盗賊の集めた財宝はどこへ隠したのか、分らずじまいだったな。中納言が、あの寺で、かの人物に接触した者らに渡ったのではないかと言っていたが。左小弁が、被害総額を見積もってくれたが、額が合わぬ気がする。彼らは、少しばかり、もてなしを受けただけのようであるし・・・・。」
 この一件が、ただの盗賊捕縛ではない様相を呈してきた時、話を中納言のところへ持っていく前に、行平は、一度、東宮の弟宮、中務卿の耳に入れることにした。東宮と弟宮は、仲の良い兄弟であったし、当然、東宮の耳にはいることを期待していた。行平は、中務卿とも親しかったので、相談しやすい相手でもあったからだ。これも友人の左小弁は、帝の側近である蔵人の一人だったから、当然、帝もご存知なんだろうけれど、なぜか、指揮は東宮が執っている。そんなつながりがあって、この一件から、手を引くことが出来なくなったのだ。
「そうですね。かの宮にしても、それまで廃れていた方にしては、羽振りがいいといったくらいにしか、見受けられません。体裁を整えるためにくらいにしか、使っていないようですし、派手な宴席を設けたりなどはなさらないようです。もっとも、蔵の中まで覗いてみたわけじゃ、ないですが。」
 調べたかぎりでは、普通の貴族の暮らしよりも、地味だった。しかし、賊の一人が、屋敷に雇われていたことは、事実だ。
「持っていたとして、その金の使い道は?と、これが、行平の疑問だったな。」
「はい。人脈作りは、確かにさしあったて必要だったとは、思いますが、それならば、一席設けるなり、出かけていくなりして、きっかけを得ればいいのではないかと思います。わざわざ、寺で示し合わす必要はないのです。かなり、行動は怪しい。」
 東宮が、頤を軽く引く。
「兵部卿か・・・。実権はないとはいえ、一応、兵に係わる職権も持っているものな。まさか、それだけで、謀反に直結するとは言いがたいが。用心に越したことはないな。」
「はい・・・。」
 寺で、親密にしていた者たちは、藤氏や源氏を名乗っていても、あまり高い位の者はいなかった。彼らの名だけでは、兵は動かないだろう。
「引き続き調べてはみるが、それは他の者にやらせるとして、あの文の意味がな。寺で亡くなった女の文は、何か知っていて悩みがあるととれるような内容にもとれるが。他に気になることを言っていなかったか、詳しく問いただしてみてくれないか。そうしたら、今夜の宿直をさぼって、行平が意中の姫君のところへ、行っても大目にみてあげよう。勝手に、内裏の庭の花を折り取ったのもね。ついでに、恋もがんばれよ。」
「東宮さままで、おからかいにならないください。」
「はは・・。それでいじれるほど、かわいくもないだろう、君は。ま、冗談はよしとして、連絡は、緊急時以外は、中務を通すように。」
 人が来たので、「もう、警護はいいから。」と、去って行く。中務の宮が、ちらりと、こちらへ向けた顔が楽しいおもちゃを見つけたようで・・・。行平は、東宮の後ろへついていくその姿を見送りながら、こりゃ、あとでいじられるの覚悟だなと、どっと疲れを感じていた。