岩切天平の甍

親愛なる友へ

アップル・パイ

2007年11月23日 | Weblog

カミさんがアップル・パイを作ってくれたので、ホワイト・ハウス前で二十六年間平和活動生活を続けるピシオットさんに差し入れるべくワシントンDCへ。

朝七時、チャイナタウンから出ている格安バス(往復$35)に乗って四時間ほどでDCのチャイナタウンに到着。ワンタン麺を食べて道を教えて貰い、十分ほど歩くとホワイト・ハウスに着いた。

いつもの場所にコンチータの姿が見えない。代わりに古くからの活動仲間のトーマスじいさんが犬と一緒に留守番していた。

「彼女はちょっと出かけてるよ。すぐに帰るさ。」
「あのー、何か彼女をサポートする組織って無いんでしょうか?」
「ん?そしき?」
「いや、その、もし何か彼女をヘルプしているグループみたいなものがあれば寄付したいんですけど・・・。」
と口ごもると、トーマスじいさんはそっぽを向いて
「何もかもとてもうまく行っているさ。」
と、突き放すようにつぶやいた・・・。

しばらく座っていると、コンチータが自転車で颯爽と帰って来た。
「やあ、コニー、寒くなって来たね。ワイフがアップル・パイを作ったから持って来たよ。オーガニックの材料で作ったから安心して食べられるよ。」
「まあ、ありがとう!あとでいただくわ。」
と立て看板の後ろにしまって、振り向くやいなや観光客に呼びかけ始めた。
「見て、これが政府のやっていることよ!」

真面目そうな青年が論争をふっかける。
「あなたの言っている事は一方的じゃありませんか?アメリカにも言い分はあります。片手落ちですよ。」
コニーは耳を貸さず、まさしく一方的に言いたい事をわめいて対話にならない。肩をすくめて行ってしまった青年を見送って僕にウィンクしてみせる。
おそらく彼の言ったことは正しいのだろう。だけど片手落ちと言えば、世界はあまりにも片手落ちだ。
それよりも、彼女がここで人生を捨ててしまったことにインパクトがある。

僕はただ横に座って、歯の抜けた暗い口から絞り出される声を聞いている。
もうすぐ雪も降るだろう、あまり長生きは望めないのかもしれない。
真っすぐに睨みつけて休むこと無く働き続けている姿を見ていると「コニー、もういいじゃないか。もう十分だよ・・・。」と言ったところで聞く筈も無いだろうなぁ、などと思いながら、自分のどこかで、彼女の存在が消えて、この心にのしかかった重さも消えることを無意識のうちに探しているんじゃないかと自問しては身震いする。
その重みは世界にかかっている。知った以上は消える筈がないじゃないか。

通りかかる近所の人達が声をかけて行く。
「コニー、寒くなって来たね。大丈夫かい?」
「コニー、ありがとうね、あなたが私達のためにやってくれていること。」

「誰も話を聞いてくれないのよ。」
「もちろん聞いてるさ!大丈夫だよ。」
と、顔なじみらしい観光ガイドは一ドル札を渡す。

にやにやと冷やかし半分の大人に手を引かれて、子供達は打たれた様に反応する。立ちすくみ、目を見張って話に耳を傾ける。「お父さん、お父さん、ちょっと来て!」父親は困ったような顔で「その人の所へ行ってはいけない。」と言う。子供は「どうして?」と父親の言葉に驚く。
やはり世界はこの子たちの手の中にある。大人に何を言ってもほとんど手遅れだろう。ああ、いかに教育の大きいことか。





最新の画像もっと見る

コメントを投稿