ここの施設は、六階建の鉄筋コンクリ―ト建てである。オソマツ君の部屋は5階だが、3階に北面がガラス張りで素敵な展望を誇る場所がある。オソマツ君は此の展望場所から、眼下に広がる広大な田圃を呆然と見ていることが好きである。
今日も夕方からここにきてぼんやり田圃を診ていてハッと気づいたが、風には通り道があって、気の毒に広い田んぼの中に風が通った跡がありそこの稲が倒れていたのだ。穂が出た直ぐの稲が倒れてしまってはもうお米の収穫は望めない。これまで育てるのにお百姓さんがどれほど手を掛けられたことか。3月の籾蒔きから始まって、草取り、害虫の消毒と施肥いずれも炎天下の作業である。そして順調に育てて出穂直前になって台風によって倒されては泣くに泣けない。
窓から見るとその憎き風には通り道があるようで、丁度大蛇が這ったように大きく曲がりながら稲が倒されている。オソマツ君は3階の窓からこれを見ながら、駆けつけて行って、お百姓さんの肩を抱き寄せ共に風の無常を嘆いてあげたい衝動に駆られた。
あれほどいたシラサギもどこへ消えたか一羽もいない。白鷺たちはどこで、風雨を避けたことやら皆自然の恵みを受けながら、懸命に自然と戦っている。頭が下がる思いだ。それに引き替えわが身を思うとあまりにもオソマツで、情けない。(T)
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