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判断基準:「責任ある意思決定」が出来る前提条件は?

2006-02-21 | マネジメント
ライブドア事件では「疑惑のメール問題」に報道が集まってしまっていますが、そんな中、本筋の話題についても動きが見られます。昨日から今日にかけて、東証の社長が「ライブドアの上場廃止の可能性」について発言を行っているとの報道がありました。

ライブドア、堀江被告再逮捕で上場廃止も=東証社長(ロイター)
起訴前の上場廃止決定も ライブドア株の扱い
(共同通信)



今回の上場廃止については、「粉飾決算容疑の起訴で上場廃止」と言う一方で「一概に言えない」との発言があったりするなど、東証としての一貫した意見が見られないことは残念です。しかしそれ以上に危惧されるのが「起訴・検察発表で上場廃止の結論を行っていいのか?」という点です。当該企業はもちろんのこと、その株主にも多大なる影響を与える重大な意思決定を他者の調査・発表に基づいて行うということが「責任ある意思決定」であると言えるかと言えば、正直疑問を感じざるを得ません。

この点については、47th氏が自身のブログの中で疑問点を提示しています。その中で最も重要な論点となる部分について、47th氏の発言を一部を引用させていただきます。

ライブドアの件について、最終的にどういう判断を行うかはともかく、東証に求められるのは、過去の事実と現在の状況に対する証拠(資料)による認定と、それを踏まえた上での将来のあるべきバランスを考慮した対処であるべきではないでしょうか。


47th氏が指摘している通り、東証が上場廃止という意思決定を行うことは、当該企業の株主にとっては取引機会を失わせるという重大な影響を与えます。それでも上場廃止の意思決定を行うためには「対象企業を市場から退出させなければ、将来にわたって投資家の誤判断(≒市場のロス)を拡大することになる」ことを自ら明らかにする責任(accountability)が求められます。

このとき、意思決定の論拠を「○○が発表したから/判断したから」というところに求めてしまうと、東証自身の主体的な判断が失われるばかりでなく、「自ら理由を明らかにする」ということが大変困難なこととなります。

東証が「責任のある意思決定」を行うためには「意思決定の理由を適切に主張できるだけの材料を自ら調査して手に入れる」ことが必要となるのではないかと私は感じます。(とはいえ、現在の捜査状況をみると、東証はおろか、ライブドア自身が十分な内部調査ができない状態のようですので、現実的には東証自身による調査というのは大変困難なのでしょうが・・・・)

このような「責任ある意思決定」は、何も東証に限ったことではなく、一般の企業でも様々な場面で直面いたします。特に社労士の領域である労務管理で言えば、「解雇」という企業にとっては避けては通れない課題を考える必要があります。

「従業員の解雇」とは、企業側からの一方的な労働契約の終了であり、解雇理由によって普通解雇、整理解雇、懲戒解雇に大別されます。しかし、どのような解雇であっても従業員がその地位を失うことには変わりはなく、企業にとっては「最も重い意思決定の一つ」ということができます。

上場廃止とは異なり、従業員の解雇は「対象従業員(+その家族)」が直接の不利益を被ることになります。しかし、対象従業員にとっては「生活の基盤を失う」という大変大きな影響を受けることになります。さらに、間接的には他の従業員のモチベーション低下や場合によっては離反などの影響を及ぼすことも考慮しなければなりません。(なお、厚生労働省のまとめでは、各労働局に寄せられる労働相談の中で最も多いトラブルが「解雇」とのことです。)

しかし、企業(経営者)の一義的な役割は「委任者である株主のために利益を最大化する」ことです。このため、もし従業員の雇用維持を行うことで会社の利益を相当程度損なうような場合には、利益確保のために解雇に踏み切ることが求められる場合もあります。(一定の条件の中で整理解雇が認められるのは、この理由によるものです。)

したがって、従業員の解雇という重要な意思決定を行うには「当該従業員の雇用を解消しなければ、人件費コスト負担/ブランド価値の毀損/業務効率の低下等が発生することが想定され、将来にわたって会社の損失を拡大する結果を招く」という理由を明らかにする必要があります。そして、これらの理由については企業側としてきちんと主張に足るだけの材料を適切に収集することが求められます。

もちろん企業活動の中では、解雇以外にも様々な場面で重要な意思決定を求められます。このとき「自ら責任を取れる意思決定」を行うためには、

(1)可能な限り自ら調査した結果(≒一次情報)に基づいて判断すること
(2)「その意思決定が持つ本質的な効果」に沿った基準で判断を行うこと

の2つが前提条件となると思います。

そして、この2つを意識して行うことによって、たとえ良い結果とならなくても後悔することがない意思決定が行えるのではないかと、私は考えます。


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