つぶつぶタンタン 臼村さおりの物語

身体の健康と無意識のパワーへ 癒しの旅~Have a Beautiful Day.~

【読書】森見登美彦「熱帯」、文学的な記憶に揺さぶりをかける小説

2020-08-11 23:14:14 | 本の感想/読書日記

ここ数日の天候にピッタリなタイトルの小説、森見登美彦さんの小説「熱帯」を読んだ。

もっとも読んでから1か月くらい経っています。ある程度文章にまとめてあったのですが、いっぱい投稿をさせていただいた日に書いていたこともあり、なんとなく投稿を見送っていた。

うん、ピッタリの天気になったなあ。

単行本にして523ページの長編。本が重いという勢い。でも電子書籍じゃなくて紙の本で読みたい。

森見登美彦さんの小説は数冊読んでいる。
「夜は短し歩けよ乙女」「四畳半神話大系」「ペンギン・ハイウェイ」「夜行」。どれも不思議な世界を描いていて、全般的な傾向として京都の街並みがよく出てくる。

森見登美彦さんの小説は、「ペンギン・ハイウェイ」はそうでもなく楽しく読めたけれど、難しくて途中で眠くなってしまうことが多いのも特徴です。たぶん何度も繰り返して読む、味わい深い文学のような作品なのだ。

「夜行」を読んだのはそんなに前ではないのだけれど、このつぶつぶタンタンに感想が残っていないということは、よほど迷子になってしまったんだろうなあ。


「熱帯」とは、物語に登場する「熱帯」という小説をテーマにした小説。劇中劇ならぬ、小説のなかに小説がある感じ。

小説「熱帯」のなかに登場する「熱帯」は途中まで読んだというはっきりとした記憶がある方が複数いるにもかかわらず、誰も最後まで読んだ人がいないという不思議な小説。そして編集者などその道のプロが捜索しても、「熱帯」という小説が出版された形跡が発見されない。

主人公は「熱帯」をさがしまわるうちに、どうやら「熱帯」の世界のなかに落ち込んでしまう。そして記憶がなくなり、自分が誰なのかもわからなくなる。そこで不思議な人物に出会うかが、それすらひょっとしたらもうひとりの自分なのかもしれない。

この世界をつくっているのは誰なのか? 幻なのか? と謎は深まり、あたしたちはもやーっとした森見ワールドにとりこまれる。

そこは物語、まさに創造の世界。記憶を亡くした青年(通称ネモ)は世界を創れることに気が付く。あたしが特に印象の残っているのは

僕はあの哀れな老人のことを考えていた。どうして彼は<創造の魔術>を使えるようになったのか。彼が僕を「恩人」と読んだ理由はただひとつだ。僕が語って聞かせた思い出が、彼が忘れ去っていた思い出を呼びさましたことである。
創ろうとするからいけないのだと僕は思った。
自分はただ忘れているだけであって、創られるべきものはすでにそこにある。
(森見登美彦「熱帯」文藝春秋)


なんとなくこの感覚わかる気がします。表現活動(絵を描く)をしているときはこの意味で世界を創造するという感覚はないのだけど、エネルギー調整をしているときはこの感覚にとても近い。なんというかその人物のなかの創造する力に働きかけている感覚がある。その方を刺激している、「こちらはどうでしょう?」と物語を話してみている、そんな感じです。

話を小説に戻します。


最後は現実世界に戻ってくるのだけれど、そのときには、最初の頃の記憶が抜けている読者A(あたし)。そして小説が終わる。

という感じでした。

「熱帯」は先日久しぶりにお会いする形で開催した読書交換会に持参し、他の方の手に渡っていきました。
東京読書交換会、久しぶりに皆様にお会いして開催しました

読書交換会で「熱帯」をお持ち帰りされた方と話す機会があったので、「熱帯」について訊いてみたところ、主人公のネモはモリミさんというお名前で、つまりは小説家本人が登場する小説とのことでした。


なんだろうね。不思議なもので、このように迷子になりまくった状態だけど、すばらしい小説なんだろうなという感覚はある。駄作と名作の違いってなんなのだろうね。きっと名作なんだとおもう。

またいつか「熱帯」を読みたいなとおもいつつ、しばらくは読まないだろうなとおもって、ひとまず本を手放そうと、読書交換会に持って行ったのだった。そして読んでもらえてよかったなあ。

「熱帯」にはたびたび「千夜一夜物語」の話が出てきた。「千夜一夜物語」も読んでみたいなあ。そういえばずっとずっと昔、学生の頃、あるいは卒業したての頃、読みたいとおもったことがある。紀伊国屋書店の新宿南口サザン店のちくま文庫コーナーにずらっと並んでいたのを見たことを思い出した。

今、同じく読書交換会で譲っていただいたドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」(岩波文庫、全4巻)を読んでいて面白いとおもっているから、今なら読めるかもしれない。
ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟」、あらゆる小説の濃縮原液かとおもった

読書交換会のおかげでだいぶ本を読む力がついてきた気がしています。とてもうれしい。予想もしていなかった。ありがたいなあ。

東京読書交換会は、池袋で本を持ち寄ってお互いの本を交換したり、オンラインで読書経験を交換したりする会です。
東京読書交換会ウェブサイト
※今後の予定は2020年8月22日(土)夜・池袋、9月4日(金)夜・オンラインです。

臼村さおり twitter @saori_u
思考していることを投稿しています。


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