つぶつぶタンタン 臼村さおりの物語

身体の健康と無意識のパワーへ 癒しの旅~Have a Beautiful Day.~

荒木スミシ「グッバイ・チョコレート・ヘヴン」、21世紀初頭の哲学的な小説

2019-10-25 09:31:37 | 本の感想/読書日記

雨が降り出した。雨が降るとどことなく緊張する。

本の感想日記。荒木スミシさんの小説「グッバイ・チョコレート・ヘヴン」(幻冬舎文庫)を読んだ。

グッバイ・チョコレート・ヘヴン (幻冬舎文庫)
荒木 スミシ
幻冬舎

青春トリコロールシリーズと題して書かれた小説の1冊。トリコロールといえば赤・青・白。この小説は赤になるんだろうね。

青も読んだよ。
荒木スミシ「チョコレート・ヘヴン・ミント」、青春小説。。昔すぎて思い出せない

白は見つけられなかった。「グッバイ・チョコレート・ヘヴン」の文庫版初版が平成13年(2001年)だからなんらかの理由で出版されないままになったのかも。

主人公は高校生で、国民的アイドルの妹。姉は芸能事務所の人たちと一緒におり、両親も妹自身も、もう長い間姉に会っていない。姉の写真はメディアや広告を飾るが、姉そのものは世間の前に長い間姿を現してない。体調を崩しており、合成写真が公開され続けているようだ。そんななか、姉の狂信的なファンが、主人公を誘拐。主人公は誘拐犯とともに逃亡生活を続ける。

というストーリー。


今読むと、有名人が誰にも暴露されずに隠遁生活を送り続けるのは難しいというのが一番の感想。きっとSNSで密告?する人もいるだろうし、合成写真の検証を始める人も出てきそう。

写真の合成技術が可能になり、けれどもまだSNSはないという当時の時代だからこその小説だったんだろうな。ネットそのものはあるから、小説のなかにもファンサイトにある掲示板のやりとりやチャットのシーンは出てくる。

「今の生き方っていいの?」ということを問いかける哲学的な小説。であり、若者独特の悩み。人生を模索している。あたしも出版された当時に読む機会があれば、深く胸を打たれたのかもしれない。

今の時代よりも、まだ日本が少しだけ裕福だった、格差が少しだけ小さかった時代の小説な気がした。

個人的には自身の若かりし頃を思い出して、積み残した気持ちを整理させてもらったというか、どこかしら何かが浄化された気がする。

そんな小説だった。

ただ小説の中に「停止ボタン」「リピート」「再生」と音楽の区切れになぞらえた記述があって、そこだけはもはやもう共感できなかった。

「グッバイ・チョコレート・ヘヴン」かもう1冊か忘れてしまったのだけど、MDプレーヤーが登場したから、MD時代の価値観なんだととおもう。

コピー可能な媒体を再生したり、繰り返したり、停止したりできることが人生を象徴していたんだろうね。今のネット社会だとそういう考え方しない。
あたし自身はMDプレーヤーを知っているけど、当時どういう考え方をしていたのか思い出せない。

乾くるみさんの小説「イニシエーション・ラブ」(2004年)はSide-A/Side-BとカセットテープのA面・B面を思わせる構成になっていた。けれどもカセットテープがわかる世代は限られている。

あたしたちの思考はテクノロジーという枠組みの影響を大きく受けている。自身のなかの情報をアップデイトしていくのはもちろんのこと、今の枠組みに固執せず未来を創造していきたいなとおもったのだった。意識していく―

ではまた


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