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日本にただいま潜伏中…国営放送CCTVの元編集委員「中国の池上彰」がぶちまける中国メディアの内情

2022-09-12 18:37:17 | 中国
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日本にただいま潜伏中…国営放送CCTVの元編集委員「中国の池上彰」がぶちまける中国メディアの内情

近年、コロナ禍のなかで中国のジャーナリズム界の大物が日本に移り住んだ。その名は王志安。かつてCCTV(中国中央電視台)で人気報道ドキュメンタリー番組の調査記者および解説員を務めていた、中国では顔と名前が広く知られている人物だ。彼は学生時代に天安門事件のデモに参加した経歴を持ち、CCTVでも体制との距離感を保って、中国社会の闇をえぐるドキュメンタリー報道を手掛けてきた。 

 国営放送の編集委員だった点では、日本で例えるならば池上彰クラスの知名度と影響力があった人物だ(仕事の方向性はちょっと違うが)。当然、池上彰が自民党や公明党やNHKの事情を知るのと同じく、王志安も中国の権力やプロパガンダメディアの表と裏を非常によく知っている。そういう人物が、いまや中国を見限って海外に脱出する時代なのである。 

 彼は天安門事件から30年が経った2019年6月4日、673万もフォロワーがいた「微博」(中国のSNS)のアカウントを当局から突然閉鎖された。その後は日本に拠点を移し、2022年5月からYouTubeで中国語の時事解説動画の配信を開始。短期間のうちにチャンネル登録者が34.1万人(2022年9月10日現在)に達し、東京で数奇な第二の人生を歩んでいる。 

 私は今年8月上旬、『文藝春秋』10月号(9月9日発売)向けに彼にインタビューしている。だが、実はそれより2ヶ月前、別途に話を聞いていた。今回、『文春オンライン』上では、本誌とは別のインタビューについて掲載しておきたい

日本は逃亡先として選ばれやすい


──まずは日本で暮らすことになった経緯からお願いします。 王:以前、外務省系の国際交流団体の招聘で来日して地方選挙を視察したことがあり、そのときの印象がよかった。なので、コロナ前はもともとよく日本に来ていたんです。自分の微博が閉鎖された(2019年6月4日)後、日本で会社を作ったりしながら日中間を往来していたらパンデミックが起こり、そのまま日本に住むことになりました。

 ──近年、体制に違和感を覚えた中国人が国外に脱出するプチブームが起きています。日本は中国との地理的・文化的な近さもあって、有力な脱出先らしいですが。 王:他の先進国と比べてハードルが低いんです。現在、中国人(の中上流層)が海外に脱出する場合のいちばん簡単でメジャーな方法は投資移民になること。ただ、以前は100万ドルの投資でアメリカの投資移民ビザを得られたのですが、いまや各国で簡単ではありません。

 いっぽう日本の場合、会社を作ってまともに経営していれば大丈夫です(注.在留資格「経営管理」取得には資本金500万円以上の企業経営が条件のひとつ)。また、経営者であれば原則的には家族を呼び寄せることもできます。私自身については、将来的に華人社会の規模が大きいアメリカなどに移る可能性もありますが、まずは日本にいる形です。

日本から中国国内向けの配信で登録者は数十万人

──王さんのYouTubeチャンネルは中国語で、日本語の字幕がないものもあります。数十万人のチャンネル登録者の大部分は、おそらく中国人でしょう。

 王:ええ。私自身、本当は中国国内で取材活動を継続して、14億人に向けて情報を届けたいのです。海外にいたのでは中国社会の改善のために携わることができませんから。しかし、前回の帰国時(注.2021年5月末に母親が逝去して一時帰国)、もはや現在の情勢では中国国内で活動できる可能性はないと悟りました。ならば海外に拠点を置くしかありません。

 ──誰に向けての情報発信を意識していますか? 王:あくまでも中国国内向けの情報発信を意識しています。さいわい、中国国内からも多くの人が翻牆(壁超え。技術的にネット閲覧規制を突破すること)で私のチャンネルを見ていてくれるみたいです。中国国内のネット空間にこっそりシェアしてくれる人もいますから、数十万人いるチャンネル登録者数以上の影響力はあるのでしょう。

  海外の(伝統的な反体制派の)華人向けの放送をやると、どうしてもセンセーショナルになります。やがてアクセス稼ぎのためにどんどん過激になって「習近平が脳動脈瘤で倒れる!」みたいなデマや陰謀論を連発するようになってしまいますから。私はそれとは目指すところが違います。

党がメディアを徹底的に管理する

スローガンがかつて以上に街にあふれるようになったのが習近平政権下の中国だ。写真はベトナム語が併記された「社会主義核心価値観」。中越国境の東興市で2019年6月26日に筆者撮影。

──習近平政権の成立以来、国内のニュースを肯定的にしか伝えない「正能量」(プラスエネルギー)の風潮が非常に強まりました。メディアの環境はどう変わりましたか?  王:最大の変化は、社会問題の「批評」が許されなくなったことです。

また、中国共産党が国内メディアの資本や人事・報道内容・報道の方向性などをすべて管理するように変わったことも非常に大きい。  アリババやテンセントなどの民間企業に対しては、メディア事業からの資本の引き上げを求めています。メディアに対する民間企業の影響力を排し、党のみのコントロール下に置くべきというわけですね。

もちろん、報道各社のあらゆる社内人事も党に左右されます。優秀な人材でも、党のチェックを経た人物でなければ編集長その他のポストには就けません。論調が「正能量」ばかりになったのも言うまでもないでしょう。

──管理の強化は、習近平氏本人の意向によるものだと思いますか? 王:そう思います。指導者としての彼は、メディアが第三の社会的なパワーになることを嫌っていて、党の絶対的な権威を確立したいと考えている。

メディアによる権力の監督は不要だ、自分で自分を監督すれば十分だと思っているのでしょう。政府や党内の問題についても、国家監察委員会と党中央規律検査委員会があれば足りる、自分たちの問題は自分たちで探す、外部から指摘してもらうには及ばないというわけです。

「習近平への不満が爆発寸前」はウソである

──そうした習近平の姿勢は、実は中国の社会ではかなり「評価」されています。この点は日本人が知らないところで「習近平への不満が爆発寸前」みたいな煽りが多いですが、実際は違う。 

王:習近平は王岐山と組んで党中央規律委員会を動かし、(汚職の摘発を理由に)高官でも平気で捕まえました。党幹部の大宴会や公私混同など、多くの人が問題を認識していても解決が不可能だと思っていた問題を、習近平は解決してしまった。 

 また、習近平時代になって行政サービスの水準がすごく上がったのも間違いありません。これは私の感覚でもそうで、窓口の対応が目に見えて良くなった。海外の人はまずわからない点ですが、中国国内の一般的な民衆の中国共産党政治に対する信頼度が非常に高くなった。

これは習近平体制のもとで進んだことです。 ──大多数の中国の庶民は、現在の習近平体制下で中国が「良くなった」と考えています。では、習体制になってから不満を強めたのはどんな人たちですか。

 王:汎エリート層、広い意味での知識人たちです。たとえば、まずは言論が封殺され批判ができなくなった言論人、次に報道が自由ではなくなったメディア人、3番目が弁護士でしょう。弁護士の感覚では、習近平体制のもとで中国の法の支配は後退しました。司法が独立せず党の意向に従属するなかでは、いかなる弁護をおこなっても判決になんら影響しません。

「人文系エリート」を叩いて庶民の人気を集める

──生きることはできても、仕事のやりがいがないのは困ります。 王:やはり悲惨なのはメディア人です。世論による監督も、正常な批判も禁じられている。もともとメディアはお金を稼ぎにくい業種なのに、仕事がつまらなくなっては、もうどうしようもありません。

弁護士は習体制のなかで法の支配が後退しても、それでもお金は稼げますが、メディア人はしんどいですよ。

 ──ただ、習近平体制で困っているのは、いわゆる人文系のエリートだけ。大多数の一般の人からは、むしろ歓迎すらされかねません。 王:ええ。習近平は中国共産党のほかに(メディアや知識人など)いかなる勢力が権力を持つことも許さず、そうした対象は絶対に鎮圧します。

ただ、他の分野については、できるだけ良き統治をやる。経済を発展させ、役所のサービスを向上させる。中国共産党は経済の面では「社会民主党」ですし、「人々の権利を守ってくれる」存在としての顔すらある。この複雑性が中国共産党なのです。


 中国共産党の経済政策は非常に「右」(自由主義的)です。それによって中国は過去40年の経済的成功を果たしてきました。ただ、彼らは政治面では極めて「左」(マルクス・レーニン主義、スターリン主義的)です。つまり党以外のいかなる権力も認めない。このような特殊な政治体制は人類の歴史上に存在しません。


「中国人の98%が台湾武力侵攻を支持してしまう」理由

──習近平体制のもとでメディア管理が強化されたことは、庶民の考えにどのくらい影響を及ぼしていますか。 王:いわゆる「洗脳」は、実は強力なプロパガンダのみによるのではなく、情報を制限することでなされると感じています。その方法はふたつです。まずは情報の壁。人々が海外の情報を得られないようにしてしまい、国外から自国がどのように見られているのかをわからなくする。

 ──その結果、中国人の多くは、自国が国際社会から複雑な目で見られていることをまったく理解していませんね。 王:2番目の方法は、特定の情報だけを伝えることです。たとえば列車事故が起きたとすれば、「運転士が乗客の生命を救おうと殉職した」といった情報ばかりを伝え、他の情報(詳しい事故原因や背景など)は制限します。

真実を伝える情報を大量に制限し、いっぽうで特定の情報だけを大量に流す。一般の人に対しては、これで十分に洗脳をおこなうことができます。

 ──加えて、近年の愛国主義的な風潮も心配です。 王:ええ。他の問題についてならば客観的で、こうした「洗脳」から距離を置ける人でも、たとえば台湾や新疆の問題については扇動されてしまいやすい。

たとえば台湾について、武力による両岸統一を支持するかをアンケートしたとすれば、おそらく現代の中国人の98%は武力行使に賛成するでしょう。たとえ、見識が広いタイプで良質な教育を受けている人でも、こうした問題には冷静さを失います。  

すると、中国国内での言論はますます難しくなります。台湾や新疆の問題について冷静な意見を口にすれば、国賊だ売国奴だと吊し上げを受けることになる。ならば、常識的な判断をする人は、たとえ心に思うことがあっても、口を閉ざしてしまいます。 

◆ 王志安(Wang Zhi’an):1968年4⽉21⽇生まれ。調査報道ジャーナリスト。過去にCCTV(中国中央電視台)のキャスター・記者・解説員、北京大手紙『新京報』⾸席調査記者を歴任。

かつては武漢大学政治学部の学生として天安門事件の学生デモにかかわるも卒業、⼤学講師を経て北京大学歴史学系で修士号(中国近代史)取得。9月9日発売の『文藝春秋』10月号にて、台湾問題やウクライナ取材など今回の記事とは別内容のインタビューを掲載。  20人死んだ鉱山事故でも「死者2人」と発表…日本に逃げ込んだ中国“超大物ジャーナリスト”が暴いた闇  





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