たんべぇ山から

山歩きの記録、出会った植物を紹介します。

幌尻岳【北海道】 2009年7月9日~11日 その2

2009-07-19 | 北海道の山

その1 からの続きです。
*
*
*

7月10日(金)


いよいよ幌尻岳登頂の日です。
できれば、戸蔦別岳まで足を延ばしたいと考えているので早めの2時45分起床しました。

昨夜はなかなか寝付くことができず、頭がボーッとしていますが、はっと我に返り、外の様子を見ると予報どおり雨が降っています。

可能ならば今日中に下山したいと考えているので、雨ならば戸蔦別岳は諦めるつもりでいました。

選択肢はいくつかあります。

①幌尻岳のみピストンして今日中に仮ゲートまで戻る。
②幌尻岳から戸蔦別岳に周り幌尻山荘に連泊する。
③幌尻岳、戸蔦別岳を周回した上で仮ゲートまで戻る。

しかし、この三つの中のいずれにも該当しない「幌尻岳のみのピストンで幌尻山荘に連泊する」ことになろうとはこの時は全く考えていませんでした。


前日の羊蹄山で、デジタル一眼のレンズの内部までもが曇り、途中から使い物にならなかったため雨天の撮影はなるべく控え、コンデジ一本にするつもりです。
また、戸蔦別岳方面へ周らないのなら渡渉用の靴は必要なしと決断するのに、少しばかり時間を要しました。

なぜなら、最近の北海道の天気予報はコロコロ変わるので、この後急速に天気が回復するかもしれないという希望を捨ててはいなかったからです。

ですが、いろいろ考えて軽量化したことは結果大正解でした!


ザックは、外のザック置き場に置かなければならないので昨夜のうちに仕分けをすることができませんでした。
やはりサブザックを持ってくるべきでした。
狭く暗いザック置き場で必要なものだけを詰め、朝食は摂らずにヘッドランプを点けて出発しました。



7/10  幌尻山荘03:20-----命ノ泉05:00/05-----幌尻岳山頂06:45/55------命ノ泉08:10-----幌尻山荘09:05【行動時間:5時間45分】





雨は小降りでしたので、途中傘をさしてパンとお茶で朝食にしました。
朝食の時間込みで「命の泉」まで1時間40分、まずまずのペースです。


命の泉は左手に少し入った場所にあります。
雨が多かったせいで遠くからでもジャージャー流れている様子が見てとれます。
が、水はたっぷり持っているので先を急ぐことにしました。


ミヤマハンショウヅル

雨と風でブレブレですがとても美しい紫色でした!




ハイマツ帯に出ると風はさらに強まりますが、これくらいの風雨はこれまでも経験したことがあるので特に危険は感じませんでした。





風雨が強まり歩いていると時折突風に体を持っていかれそうになります。


北カール


相変わらずガスの流れが速いのですが、左手眼下に北カールの一部を見ことができました。戸蔦別岳らしい端整な山容も一瞬ですが目に飛び込んできました。


幌尻岳方面


足元にはミヤマアズマギク、エゾコザクラ、ムシトリスミレなどが咲いているのですが、もう写真どころではありません!
一歩ずつ前進するのがやっとです。
小さな雪渓を過ぎたガレ場で黄色い雨具姿の男性が登ってきました。
昨夜、幌尻山荘に宿泊した単独の方です。
彼は、4時に出発した大阪のツアーとほぼ同時刻に小屋を出たとのこと、私たちより40分も遅く出て、もう追いついてきました。
少しだけ言葉を交わし、その後は3人で山頂を目指すことになります。
彼の話では、山頂まであと30分ぐらいだろうとのことです。


エゾノハクサンイチゲが咲き乱れる登山道





北カールを見下ろす大斜面にもエゾノハクサンイチゲが強風に煽られ千切れそうに揺れ動いています。

キバナシャクナゲが咲き乱れる新冠コースとの分岐に下りたら山頂は目の前です。



06:45   幌尻山頂です。


小屋を出発して3時間25分、ようやく幌尻岳の山頂に立つことが出来ました!!


慌しく記念撮影だけして比較的風を避けられそうな場所に移動します。

ゴアのカッパは着ているもののすでに中までビッショリです。
濡れた衣類に容赦なく吹きつける風雨、寒さで体は震え、歯はガタガタと噛み合いません。
急いでゼリーでエネルギーをチャージしたら一刻も早く下山しなければなりません。



新冠川コースの分岐


素晴らしいお花畑を横目で見、吹きつける風雨によろけながらも必死で踏ん張って下ります。
濡れた衣類に容赦なく叩きつける風雨、とにかく寒い、ザックには重ね着用にフリースなどの防寒具も入っているのですが、稜線上で立ち止まり衣類をまとうことなど全く不可能です。

樹林帯に逃げ込むことが先決です!






08:10  命ノ泉


山頂を出て1時間15分で命ノ泉に到着しました。
これより先は樹林帯なので風の影響はあまりありません。


09:05 幌尻山荘

命ノ泉から55分で幌尻山荘に戻ってきました。

大粒の雨が降りしきる幌尻山荘前、沢は増水しており渡渉不能、今日の下山は諦めなければならないようです。
小屋の中に入ると大阪と東京の二組のツアーと単独の男性が登頂を諦めて引き返してきていました。

ツアーの方々は苦しい登りを終えて雪渓の所まで行くも、あまりの雨風に危険を感じ引き返す決心をしたとのことです。

あとわずか一時間で山頂というところでの撤退がどれほど無念だったか気持ちはよくわかります。
ツアーを引率するガイドさんの決断は断腸の思いだったに違いありません。
ガイドさんの話によると経験的に風速20mはあったのではないかとおっしゃっていました。

この時の決断が正しかったことは、この後に起きる「トムラウシ山の遭難」で実証されました。
新聞やテレビで見聞きする「低体温症」私自身もあのまま長時間にわたって風雨に晒されたら同じような状況になっていたかもしれません。

この日、お天気は回復するどころか段々悪い方向に向っていきました。
ツアーの方より出発が早かった私たちが登頂できたのは幸運だったとしか考えられません。
本当に紙一重で幌尻岳に立つことができたのです。

小屋の中は薪ストーブが焚かれていてヤカンには熱いお湯が沸いています。
ツアー客も個人客も分け隔てなく自由にお湯の提供を受けることができました。
この時食べたカップラーメンがどれほどおいしかったことか…

この後、小屋の中で濡れた物を乾かしながらおしゃべりをして過ごしました。

ツアーのお客さんの中には、4度目の挑戦だったのに今回もダメだった方もいました。

それでも、この悪天候ですからみなさん納得されているように感じました。

10年もこの仕事をされている地元ガイドさんは、渡渉できず断念することはあっても、小屋まで来ていながら風で登れなかったことは例がないとおっしゃっていました。
それほど今年の北海道の天候が不安定だということなのでしょう!


さて、明日の渡渉が大問題です!

幸い、夕方には雨も小降りになり沢水は徐々に引いてきました。
「この分なら明日は間違いなく下ることができる!!」とガイドさんの力強い一言を聞き安心して残りの食料を消費することができました。

昨夜と違い午後7時過ぎにはシュラフにくるまって夢の中でした。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

7月11日(土)

7/11  幌尻山荘04:30-----取水口06:45/07:00------林道ゲート08:10/15-----仮ゲート駐車場08:50【行動時間:4時間20分】



午前3時起床、4時に出発するという大阪ツアーにくっついて下山するつもりです。
水が引いたとはいえ昨日の今日ですからまだ沢は普段より水かさが増しているはず、渡渉に慣れたガイドさんの後を追っていくのが賢明だろうとの魂胆です。
しかし、私たちがモタモタしている間に大阪組は行ってしまいました。すごいチームワーク!!
東京組の出発は5時と聞いているの、時間が開きすぎます。
やはり大阪組を追いかけることにして4時30分に小屋をでました。

最初の渡渉でトラブル発生!!
夫の「フェルトわらじ」が流されてしまったのです。
予備のわらじに紐を通している時に、なんと東京組にも抜かされてしまいました。
え~~い!こうなったらわらじなしで行こう!!
と私もフェルトわらじを取りました。




“意外や意外”滑るかと思っていた沢ですが、たくさんの人が渡っているので苔が剥がされ、靴だけで問題ありませんでした。
登りでは何度もフェルトわらじがずれてそのたびに紐の閉め直しに手間取ったというのに…
私の力作であるわらじは全く無用の長物でした(~_~;)
でもね、小石の進入を防ぐためのスパッツは大正解でしたよん(^-^)v


東京組12名とガイドさん3名の後ろにピタッとくっついて渡渉を繰り返しました。
ガイドさんの機敏な行動と的確な判断に一つ一つ感心しきりです。



昨日から顔なじみになっているとはいえ、ツアー客ではない私たちのことも渡渉のたびに気を使っていただき本当にありがたいです!



けっこう流れが速いです!




ヒグマの爪跡について説明するガイドさん



最後の難関「へつり」







普段より水かさが多かった額平川、
登りに比べて下りが楽だったのは、ガイドさんのお陰です。
本当に有難うございました!





取水口到着


ここで登山靴に履き替え腹ごしらえして長い林道歩きに備えます。




自転車で林道を登ってくる人とすれ違いました。
帰りはスイスイでラクチンかも…



 08:10 額平林道ゲート



ツアーの皆さんと少し離れた場所で小休止していると、例のガイドさんから“トマト”の差し入れがありました。
ツアーの皆さんを迎えにきた運転手さんが持ってきたものとのこと。
渡渉で散々お世話になった上の心遣いに大感激!
写真を撮るのも忘れ、よく冷えた極上の大きなトマトに思わずかぶりつきました!!

半分かじったところで激写しておきました(笑)





ここでツアーの皆さんとは本当にお別れしました。



さて、おいしいトマトで元気が出た私たちは仮ゲートまであと一息!
約30分で仮ゲートの駐車場に着きました

仮ゲート駐車場着




いろいろ考えさせられた幌尻岳、
私たちは幸いにして何事もなく下山できたものの、吹きつける風雨に体温を奪われ、寒さに震えたことはトムラウシ山の遭難事故に通じるものがあり、決して他人事ではないと感じました。













コメント (20)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 幌尻岳【北海道】 2009年7月... | トップ | 大雪山(赤岳~白雲岳~黒岳... »

20 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (はなねこ)
2009-07-21 15:54:48
fu-coさん こんにちは♪

幌尻岳って、好天でも大変な山なんですね。
知識が全くなかったので
実況さながらのレポにドキドキでした。
  (結果は知ってましたが・・・^^;)

お花の写真や展望はともかく、ご無事で何よりでした。
返信する
はなねこさん (fu-co)
2009-07-21 20:56:45
はなねこさん、こんばんは!

幌尻岳は、条件が整えばそれほど難しい山ではないと思うのですが、今回は厳しかったです(^^ゞ
ガスで周りを見渡すことはできませんでしたが、高山植物は本当に素晴らしかったですよ~
写真が撮れなたったのは残念でした。
特に、お隣の戸蔦別岳の植生は素晴らしいと聞きます。
機会に恵まれたら再訪したいですね~^^


返信する
すごいですね (やまそだち)
2009-07-22 16:41:45
すごいですね!
まるで小説を読んでいるような気分です。
トムラウシ山の事があったのでハラハラしながら読んでいます。
こんな中でもきちんと写真を撮っているんですね。
返信する
Unknown (Mrs.K)
2009-07-22 20:30:59
こんばんはー。
99座目登頂おめでとう御座います!

幌尻岳に登るのは大変だと噂に聞いておりましたが渡渉の回数だけでも半端ではないですね。
そのうえ悪天候で大変な登山だったようで登頂できて本当に良かったですね。

いつかそのうちにと思っている幌尻岳ですが体力、気力があるうちに登ったほうが良さそうですねー。レポ読んでそう思いました。
返信する
Unknown (まきくま)
2009-07-23 02:42:38
fucoさん

99座ですか? おめでとうございます!
それにしてもも、悪天候のなか頑張りましたね。
トムラウシの事故をどうしても重ねてしまうので、どきどきしながら読みました。
ほんとうに、そんなに寒くなってしまうんですね。やはりカラダがぬれてそこに風が吹くとたまらないですよね。
それにしてもも、防寒具を出せないくらいの風ってすごいですねえ。
このときのツアーはそれぞれ、的確な判断と行動だったようですね。事故のために、すべてのツアーやすべての中高年登山者が不適格なように書かれてしまうことがとても悲しかったので、こういうレポ読むとほっとします。
って、話がわき道にそれてごめんなさい。
あとひとつ。
どこなんだろう。
いまからわくわくしますね。
返信する
おめでとうございます。 (木曽駒)
2009-07-23 15:22:31
難関の幌尻岳登頂、おめでとうございます。
避難小屋宿泊予約が最難関なんですね。
でもこの悪天候の中、しっかり判断されて登られてすばらしいですね。
お疲れ様でした。

まっきーも書いていますが、同じ中高年登山者としての私は、トムラウシの事故が身につまされました。
だからfu-coさんのレポ、本当に嬉しかったです。

後ひとつはフィナーレを飾るにふさわしい日本一のお山でしょうか?
(あれっ?違うかな?)

頑張ってくださいね。
返信する
やまそだちさん (fu-co)
2009-07-23 20:44:24
やまそだちさん、こんばんは!

>こんな中でもきちんと写真を撮っているんですね。
いえいえ、ほんの数枚撮るのも必死でした!
写真は少ないですが、チラッとだけ見えた北カールに広がる花園は瞼に焼き付いています!
北海道の山の厳しさを思い知らされた山旅でした。
返信する
Mrs.Kさん (fu-co)
2009-07-23 20:55:02
Mrs.Kさん、こんばんは!
ご無沙汰です(^^ゞ

今回で、ようやく北海道の山をクリアーできました。これからは、花の山をのんびり歩きたいと考えています。
って、もう百名山は終ったような物言いですね^^;;

>いつかそのうちにと思っている幌尻岳ですが体力、気力があるうちに登ったほうが良さそうですね。
私たちが入山した日、かなり年配の女性が日帰りしてました!思わず「負けた…」と夫と顔を見合わせた次第です(笑)
Kさんご夫妻なら、まだまだ先でも十分ですよ~~
お天気さえ見方につければそれ程難しい山ではないと思うので、Kさんご夫妻も日帰りに挑戦してはいかがでしょう(^-^)v
ガンバ!!
返信する
まきくまさん (fu-co)
2009-07-23 21:22:45
まきくまさん、こんばんは!

北海道から帰ったら、あの遭難事故だったので幌尻での私たちの行動はあまり褒められた行動ではなかったようです。

>ほんとうに、そんなに寒くなってしまうんですね。
私も初めての経験でした。歩いて体が温まっていいはずなのに、寒くて手はかじかみ、ガタガタ震えるななんて…!

小屋に戻ったツアーお客さんの一人が『疲労凍死するかと思ったよ~!』って!その時はオーバーだと思いましたが、トウラウシでの事故を考えるとそれもありだったかもしれませんね!
ガイドさんが的確に判断されて良かったです。
ツアーのお客さんは残念だったことには変わりありませんが、「悪天候だったのだから仕方ない」と次回に意欲を燃やしている姿は立派でした。
小屋での停滞は、いろいろな話ができて楽しかったですよ~~

>あとひとつ。
どこなんだろう
うふふ、私の名前がヒントです。
返信する
木曽駒さん (fu-co)
2009-07-23 21:36:23
木曽駒さん、こんばんは!

>避難小屋宿泊予約が最難関なんですね。
そうそう、電話かけまくりましたよ!!
もし幌尻山荘が駄目なら、私たちも日帰を考えたのですが、やはり山荘の予約が取れれば楽ですよね~
特に今回は多いに助かりました。

>日本一のお山でしょうか?
ピンポ~~ン♪
いよいよ、あとひとつになちゃいました(^^ゞ
でもね、、、最後のひとつは残しておこうかなって考えているところです。
登ってしまうと、登高意欲がしぼんでしまう気がして(笑)
それにあの山はとっても混むようだし…
ま、気が向いたらひっそりと登ってきますです(^-^)


返信する

コメントを投稿

北海道の山」カテゴリの最新記事