遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉(436) 小説 私は居ない(10) 他 生きるということ

2023-02-26 12:18:16 | つぶやき
        
          生きるということ(2022.4.6日作)


 
 人が生きるということ
 十代 二十代 三十代 四十代 五十代
 時 時間をかけて一つの城
 自分の城を築く作業
 時と共に人は 自身の城を築き 完成させる
 しかし 時 過ぎゆく時間は
 待ってはくれない やがて時は
 人が築いた城 自分の城 その城を
 崩壊 朽ちさせ 消してゆく
 六十代 七十代 八十代 九十代・・・・
 自身の築いた堅固な城も
 過ぎゆく時 時間の経過の中で
 少しずつ 少しずつ 朽ちてゆき やがて時が
 過ぎゆく時間が 人間 人の力を奪い 周囲の景色を変え
 城を包む世界を変えてゆく 少しずつ 少しずつ
 自ら築いた堅固な城 その城をも 砂の城へと変えてゆく
 足下から崩れる砂の城 崩れてゆく砂の城
 生涯かけて築いた城が そうして 消えてゆく
 少しずつ 少しずつ 消えてゆく その景色 その姿
 その姿と共に人もまた 朽ち 衰え 消えてゆく・・・・
 人の世の常 後に訪れるものは 残されるものは
 永遠の闇 無 無 無




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         私は居ない(10)



 その元女将の言葉は、その場に思わぬ活気を与えた。
 伯父も女も好奇心に満ちた視線を元女将に向けた。
 私も勿論、予想をしなかった言葉だっただけに、思わず沸き上がる期待感と共に言っていた。
「その写真、今、探して貰えますか ?」
「ええ、写真帳ならすぐに出せますよ。でも、そこに〆香の写真があるかどうか」 
 元女将は言った。
 その言葉を受けて女が言った。
「わたしは川万さんで何枚かの写真を撮っています」
「そうですか」 
 元女将はそう言うとすぐに腰を上げた。
 私達は部屋を出て行く元女将のうしろ姿を好奇心に満ちた視線で見送ったが、誰もなんとも言わなかった。
 元女将が程なくして古びた、かなり大型の写真帳を手に戻って来た。
「有りましたよ。たった一枚ですけど、〆香の当時の写真が有りました」
 元女将は椅子に腰を降ろす前に嬉しそうに言った。
 椅子に腰を落ち着けると元女将は早速に、写真帳をテーブルの真ん中に置いてページをめくり始めた。
 中程で手を止めると、写真帳の向きを変えて私達の方へ差し出し、右側のページの上の一枚の古ぼけた写真に人差し指を置いて、
「これが当時の〆香です」
 と言った。
「眼鏡を掛けなくちゃ分からん」
 伯父が上着の内ポケットを探って老眼鏡を取り出した。
 女は即座に元女将の指差した写真に体を乗り出して見入ったが、
「ああ、これはわたしです」
 と言った。
 私は女の横から体を乗り出して元女将の指差した写真を見た。
 はがき大程のやや茶色がかった写真には芸者姿の女の上半身が写っていた。
 その下には昭和十三年正月 川万にて 〆香 と記されいた。
 眼鏡を掛けた伯父が手を延ばして写真帳を手元に引き寄せ、改めてその写真に見入った。
「ああ、これは〆香だ。間違いなく〆香だ」
 伯父も即座に言った。
 写真の中に見る〆香はまだ若く、頬もたっぷりとしていたが、今現在、私の横にいる〆香と名乗る女性に通う面影が何処かに垣間見られた。私自身も写真の中の若い女が現在、〆香と名乗る女性と認める事に異論を挟む事は出来ない気がした。
「これは正しくあなたですね」
 私は写真に眼を落したまま口にした。と同時に私は、何故、元女将が写真の中の女を〆香と言いながら、今現在、眼の前にいる女性を〆香と認めないのか、不可解な気がして、
「女将さん、この方は、この写真の〆香とよく似ているじゃないですか」
 と、元女将に言った。
「そうでしょうか、確かに似ている所はあるのかも知れませんけど、だけどあなた、何よりも〆香はもう、亡くなっているんですよ。これは実際にわたしが係わった事で、この事実だけはどうする事も出来ませんから」
 元女将は敢えて依怙地になっていふうにも見えなかった。信念の滲み出ている言葉だった。
「でも、ほら。顔の輪郭といい、鼻筋辺りといい、歳による変化はあるけど、この人と同じだ。それに、この唇の右下の薄いホクロ、この人にもある。ねえ、伯父さん」
「うん。だから俺はこの人は〆香だってさっきから言ってるだろう」
 伯父は私の言葉を批難するように言った。
「写真の中の〆香は確かに〆香です。でもさっきも申しましたように、当時の〆香はもう、亡くなっているんです」
 元女将は頑固に言い張った。
 その時、女が口を挟んだ。
「失礼ですけど女将さん、女将さんの当時のお写真は御座いませんでしょうか」
「わたしの写真ですか。有りますよ」
 元女将はそう言うと改めて写真帳を手元に引き寄せ、ぺーじを前の方にめくり戻した。
「これがわたしの当時の写真です」
 元女将はそう言うとまた、私達の方へ写真帳を向け直した。
 そこには四十歳ぐらいの和服姿の、如何にも女将といった感じの女性の写真があった。
「ああ、これは若い頃の女将だ」
 伯父が一目見て、当時を懐かしむかのように柔らかい笑顔を浮かべて言った。
 私は写真の中の女将と現在の元女将とをそれとなく見比べた。
 女の場合と同じように元女将に付いても同じ状態が生まれていた。私には双方を否定する事が出来なかった。
「どうですか ?」
 私は女に尋ねた。
「この方が、当時、わたくしがおりました川万さんの女将さんです」
 女も言った。
「それで、この方が、写真の中の女将さんと違うんですか ?」
 私は元女将に聞いた時と同じように女にも聞いた。
「はい。何度も申しますようですが、川万さんの女将さんはお亡くなりになっておりますので」
「ちょいとちょいと、あなた。縁起でもない事を何度も言わないで下さいよ」
 と、元女将は機嫌を損ねたように言った。
 それはお互い様だったが、女は、
「わたくしは女将さんの事を申し上げているのでは御座いません。わたくしが
居りました時の女将さんの事を申しているので御座います」
 女も反発するように言った。
「これはわたしです」
 元女将が言った。
「いいえ、違います」
 静かな口調だったが、女も譲ろうとはしなかった。
「そうです。わたしに間違いはりません」
 元女将は言った。
 私は元女将と女との間の不穏な雰囲気を察知して、
「なぜ、こうも総てが違うんです。写真の中では総てが一致するのに」
 と、悲観的に言った。
「写真の中の女将も〆香も間違いなく、女将であり、〆香だからだよ」
 伯父は言った。
「だとすると、この方達が違うんですか ?」
 私は言った。
「違いありませんよ」
 元女将が言った。
「違いありません」
 女が言った。





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           takeziisan様


            今回も懐かしさを呼び覚ます数々の記事 楽しく拝見させて戴きました
            今週の明星 よく見付け出しました 懐かしい歌声です
            娯楽の乏しかった時代 毎週 楽しみにしていたものでした
            藤本二三吉 そこで聞いた記憶があります 当時
            赤坂小梅 市丸 勝太郎 音丸 などとそうそうたるメンバーが揃っていたものですが
            二三吉は一番早く亡くなってしまいました
            後の藤本ふみ代が娘ですね
             昼下がりの情事 ヘップバーンと共にクーパーです
            少し前にクーパーの 遠い太鼓 という映画を観てクーパー主演の映画には
            どんなものがあるのかなどと 思い浮かべていました 当然
            昼下がりの情事も含まれていました 偶然を面白く思いました
             水泳三十年 よく続きました それでもまだ基本の練習 ?
            いい加減にしてくれよ と言いたくなるのでは ?
             つららーーかねっこおーり 初めてです 面白い表現です
            一覧を拝見していますと 以前 拝見したにもかかわらず
            結構 似たような表現が在るものだ と改めて思いました
            狭い日本国 共通する部分も多いものですね
             自然の景色 鳥たちも寒そうです
             クンシラン 外に出しっ放しのせいか まだ蕾さえ見当たらないようです
            昨年は確か今頃には蕾が見られた気がするのですが       
            今年は寒さが強いのでしょうか  
             何時も楽しい記事 有難う御座います ホッと
            くつろげる瞬間です
            毎週 自分の思いだけを綴った退屈な文章にお眼をお通し下さる事への感謝と共に
            御礼申し上げます
             有難う御座います







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