連句通信117号
2007年6月17日発行
思いつき花談義 坂本統一
お花をいただいた。紅白の、ふっくらした花弁を付けた八重椿の花でした。椿にしては大輪で、手頃なお供え餅を想像させる、枝葉の緑に映える見事なものでした。所用で近くに来られたとかで、たまたま留守にしていた、我が家の玄関先に置いて行かれたものです。
わたしは初め、その花に込められた思いやりの気持ちに気がつきませんでした。椿が好きで椿談義なら飽きずに出来ますよ、と言っていたのを思い出し、庭先に咲いていたものを、手軽に手折って来られたのだろう、くらいにしか思いませんでした。
その頃わたしの家では、かみさんがちょっとした手術をして、退院してきたばかりで、早い機会に快気祝いをしようかと考えていたところでした。玄関と食卓の上に活けたその花を見ているうちに、ああそうなのかと、はっと思い当たったのです。
そこで早速わたしたちは、娘夫婦に来てもらって、ささやかな快気祝いを、食卓に飾ったその花を愛でながらしたのでした。その時の、人というものの気持ちのありがたさの記念に、感謝の想いで次の句を浮かべることができました。
紅白のかさね餅なり八重椿
ところでこれは、明らかに花を素材にした作品なのですが、連句の世界では、この種のものは通常、花の句として扱われません。
花の句というのは、連句では特別なもので地位と名誉が与えられていて、興行の一座で花の句を詠むのは、もっとも栄えある立場、ということになります。そうして花は、さくらだと言い、桜であってもさくらではないと禅問答のようなことが言われます。
美意識の象徴としての概念を、即物的には、さくらの花とでも表現するのが適当であり他に方法がない、とでもいうことでしょうか。
それにしても、さくら以外の一般的な花の句、少し軽めに扱われているように思えて仕方がありません。
もともと花と言えば、万葉の頃には梅の花が珍重されていました。天平二年(七三〇)正月十三日、大伴旅人が大宰府の邸で「梅花の宴」を催したことなどは、よく知られています。
わが園に梅の花散るひさかたの
天より雪の流れ来るかも
(万葉集巻五・八二二)
いわゆるなべての花の句、連句の場でももう少し活躍の場所が与えられてもよいのではないか、それらの花々に代わって訴えたいところではあります。
二句表「鍔広帽子」
母の日の母の鍔広帽子かな 古賀直子
びいどろ風鈴郷里の手土産 杉浦和子
ウ
ガラス吹く職人の顔猿に似て 玉木 祐
日枝の社に角力興行 坂本統一
月渡る誰も見てない森の上 星 明子
名残の簾きりきりと巻く 直子
六方を踏んでみたいな花毛氈 峯田政志
フランス語にて述べる口上 祐
ナオ
帝政のロマンチックな馬車の中 明子
鬘歪みて紅もつくやら おおた六魚
凍月も余りのことにやわらぎて 梅田 實
慢性疲労症候群かも 統一
並べたよキャビアフォアグラトリュフまで 政志
ワインの蔵に樽を選びて 六魚
ナウ
花嫁は花の吹雪に迎えられ 祐
凧合戦に集う若者 實
2007年5月5日 於関戸第2学習室
二句表「朝光きらめく」
朝光のことに煌く立夏なり 坂本統一
青空泳ぐ緋の鯉幟 玉木 祐
ウ
アレンジを重ねつづけてジャズ弾いて 峯田政志
一人散策新松子踏む 星 明子
威銃月のおもてを狙い撃ち 古賀直子
街の屋根屋根冬近き色 おおた六魚
ニュウ村長名水銘酒村おこし 杉浦和子
赤い襷でミスと準ミス 梅田 實
ナオ
明日は征く彼との時間短かくて 祐
荒虫黒女の多摩の凍月 統一
流されて番の鴛鴦の遠ざかり 明子
けらけら笑う老爺三人 政志
冥土への一里の塚を横に見て 六魚
夢か現かホールインワン 直子
ナウ
突風に舞い上がりたる花吹雪 實
春はここよと鶯の啼く 和子
2007年5月5日首尾 関戸公民館第二学習室
二句表「戦ひの日」 膝送り
戦ひの日忘れめや鯉幟 杉浦和子
噛みしめて飲む甘い氷水 梅田 實
ウ
ベッドにはテニスラケット眠らせて 坂本統一
文月すぎてテスト始まる 玉木 祐
たまさかに旧友と逢ふ望下り 峯田政志
節季のあけてくみかわす猪口 星 明子
吉原の楼門閉ずる大太鼓 古賀直子
まだ値のつかぬ一本の帯 おおた六魚
ナオ
古里の幼馴染みに手鍋下げ 實
月の夜回り供は野良猫 和
一茶忌の蝿と住みゐて団地族 祐
卒寿の婆が包丁を研ぐ 統
つれあひが鈍感力をきめこんで 明
当り籤札しまい忘るる 政
ナオ
花の雪霏々としてまた霏々として 六
博多どんたく稚児の行列 直
2007年 端午 於関戸公民館第二学習室
二句表「下り立てば」
下り立てば若葉尊き御嶽かな 坂本統一
眼前涼気濃き淡き山 玉木 祐
ウ
会席の皿にぎやかに箸つけて 古谷禎子
虫の音聞いて昔話を 藤尾 薫
月上り汽笛流れる遠い駅 星 明子
葡萄酒醸すパリに行きたし 古賀直子
風はらむ砂丘を越ゆる魔女の橇 おおた六魚
血統書付き子犬を膝に 杉浦和子
ナオ
香ぐわしき胸のぬくもり楽し刻 峯田政志
冬の薔薇に月白み居る 祐
想い秘め雪に別れし南部坂 統一
物語めく社に詣で 禎子
ばば一人何でも口出すバスの中 薫
変わる世間に靴はフェラガモ 明子
ナウ
道化師の衣裳整う花の昼 直子
蜃気楼にもジャズを奏でて 六魚
2007年5月11日 首尾 景勝の御嶽河鹿園
二句表「河鹿園にて」
瀬音満ち緑波打つ河鹿園 星 明子
滴る山に向かい昼の餉 古賀直子
ウ
単線の列車の駅に水飲みて おおた六魚
泡立草は乱れ咲いてる 杉浦和子
作曲家想を練りをり窓の月 峯田政志
鶇に似たる孤高なる人 坂本統一
閉じ籠もるあの娘は何を考える 玉木 祐
チケット送りメールも送る 古谷禎子
ナオ
湖の深みに眠る姫の墓 藤尾 薫
北風吹いて月は皓々 明
付け髭のパパのサンタは忍び足 直
猫ゆっくりとのびをしている 魚
抽斗に財布つかえて開きません 和
アクションゲーム孫に教わる 政
ナウ
老いもよし花につぶやく膃肭臍 統
八海山を春暮持ち来る 祐
2007年5月11日 於 河鹿園
半歌仙 「六郎の雲」
新緑や六郎の雲浮かびおり 實
幟高々藁屋根の家 直子
狂言の発声練習きりもなし 薫
ぶち抱いて籠寝の叔母 政志
月白に遅れ烏の陰ありて 六魚
紅葉かつ散る風か光か 明子
ウ
赤い羽根付けて嬉しい小学生 禎子
運動会の先生に恋 祐
合コンを重ねて後にゴールイン 統一
骨の髄迄沁み渡る酒 實
解剖学教科書一寸質に入れ 直
カルチェエルメスアウトレットで 薫
白雪の富士を見下ろす寒の月 志
鳥居の側に積める菰樽 六
宣伝にズラリと並ぶ出演者 明
土手に並んで奴凧揚げ 禎
宴会の津軽三味線花吹雪 祐
紫煙うららか午後の灰皿 統
2007年5月20日 首尾 於 聖跡桜ヶ丘関戸公民館
半歌仙「初鰹」
押し花を飾る飲み屋の初鰹 峯田政志
蝸牛嗅ぐ猫の来る路地 おおた六魚
宗匠の謡の声の聞こえ来て 藤尾 薫
遊覧船のテントはね上げ 古賀直子
望月を湖面に写し撮影す 玉木 祐
林檎をもぎりがぶり噛みつく 梅田 實
ウ
前髪をのばして待ちし村芝居 古谷禎子
はっきりいって私はいいよ 星 明子
近頃は夢もまずいと莫嘆き 坂本統一
またお爺ちゃん探す放送 政志
廃線のホームの列車乗り込んで 統一
お菓子な麻薬子供を狙う 祐
おかめ市福掃き寄せる右左 直子
アセチレン燃す寒月の店 薫
本郷の木曜会の常連に 明子
下駄あり靴あり春宵の土間 魚
いつまでもカラオケやまぬ花筵 實
お玉じゃくしが笑う音程 禎子
2007年5月20日 於 関戸第三学習室
半歌仙「遠き巴里」
マロニエの咲く並木路や遠き巴里 坂本統一
のれんのかげに動く出目金 玉木 祐
潮に濡れすべる岩場に遊ぶらむ 古谷禎子
小石拾って小筥にしまう 星 明子
夜々の月峯より峯へ傾ける おおた六魚
色づく野山よぎるハイヤー 峯田政志
ウ
秋の宿さしつさされつ時忘れ 藤尾 薫
結婚指輪はずす暗闇 古賀直子
われ知らず奈落の底に落込んで 梅田 實
大江戸線は工事延長 統一
老人はろはの乗車でどこまでも 祐
鍔広帽子ヒール鳴らして 禎子
寒月は洋酒の壜をきらめかす 明子
五重の塔も黒き古寺 六魚
デモ隊の写真懐かし若き父 政志
幼な児連れて巣箱をかける 薫
秘境の湯千客万来養花天 直子
夢のまにまに亀の看経 實
2007年5月20日 首尾 関戸公民館第三学習室
二句表「六月といひし朝」
声に出しさあ六月といひし朝 杉浦和子
グラジオラスがせいくらべする 梅田 實
ウラ
静物を描いたパレット置き去りて 星 明子
銀座の画廊でもらう瓢箪 玉木 祐
臍あんぱん買いに並んだ十三夜 古賀直子
蟋蟀啼いてなぜか哀しい 藤尾 薫
横綱に花の弟誕生し 峯田政志
大型犬はおっとり構え 和
ナオ
今日もまたハートのメール次々と 實
語りて明かす月のかまくら 明
りんりんと橇の音の行く母の里 祐
Uターンして酒屋コンビニ 直
おむすびのいろいろありて迷う僕 薫
温泉郷は北の山奥 政
ナウ
晩節は花に浮かれてほろ酔いて 實
春のぬか雨濡れていこうか 明
2007年6月2日 於 関戸公民館ワークショップ
二句表「乳飲み子の」
乳飲み子の匂いのふわり夏衣 古賀直子
マシュマロを食む緑濃き庭 玉木 祐
ウ
堤防をサイクリングの連なりて 藤尾 薫
わんわん吠える犬も爽やか 峯田政志
周平の路地裏を行く十三夜 祐
威銃うつ庄内平野 星 明子
白寿翁西部訛りの英会話 直子
隣の彼女タカラジェンヌで 薫
ナオ
とりもつはグラスを満たすカルバドス 明子
先の大戦偲ぶ凍月 政志
この寺に文人の墓多くあり 杉浦和子
四季折々の富士に抱かれ 梅田 實
朝夕に移ろう写真撮り溜めて 祐
種かかしにはかぶす鳥打 實
ナウ
廃校を飾る爛漫花大樹 明子
ぶらんこを漕ぐ海見える迄 和子
2007年6月2日 於 関戸公民館ワークショップ
2007年6月17日発行
思いつき花談義 坂本統一
お花をいただいた。紅白の、ふっくらした花弁を付けた八重椿の花でした。椿にしては大輪で、手頃なお供え餅を想像させる、枝葉の緑に映える見事なものでした。所用で近くに来られたとかで、たまたま留守にしていた、我が家の玄関先に置いて行かれたものです。
わたしは初め、その花に込められた思いやりの気持ちに気がつきませんでした。椿が好きで椿談義なら飽きずに出来ますよ、と言っていたのを思い出し、庭先に咲いていたものを、手軽に手折って来られたのだろう、くらいにしか思いませんでした。
その頃わたしの家では、かみさんがちょっとした手術をして、退院してきたばかりで、早い機会に快気祝いをしようかと考えていたところでした。玄関と食卓の上に活けたその花を見ているうちに、ああそうなのかと、はっと思い当たったのです。
そこで早速わたしたちは、娘夫婦に来てもらって、ささやかな快気祝いを、食卓に飾ったその花を愛でながらしたのでした。その時の、人というものの気持ちのありがたさの記念に、感謝の想いで次の句を浮かべることができました。
紅白のかさね餅なり八重椿
ところでこれは、明らかに花を素材にした作品なのですが、連句の世界では、この種のものは通常、花の句として扱われません。
花の句というのは、連句では特別なもので地位と名誉が与えられていて、興行の一座で花の句を詠むのは、もっとも栄えある立場、ということになります。そうして花は、さくらだと言い、桜であってもさくらではないと禅問答のようなことが言われます。
美意識の象徴としての概念を、即物的には、さくらの花とでも表現するのが適当であり他に方法がない、とでもいうことでしょうか。
それにしても、さくら以外の一般的な花の句、少し軽めに扱われているように思えて仕方がありません。
もともと花と言えば、万葉の頃には梅の花が珍重されていました。天平二年(七三〇)正月十三日、大伴旅人が大宰府の邸で「梅花の宴」を催したことなどは、よく知られています。
わが園に梅の花散るひさかたの
天より雪の流れ来るかも
(万葉集巻五・八二二)
いわゆるなべての花の句、連句の場でももう少し活躍の場所が与えられてもよいのではないか、それらの花々に代わって訴えたいところではあります。
二句表「鍔広帽子」
母の日の母の鍔広帽子かな 古賀直子
びいどろ風鈴郷里の手土産 杉浦和子
ウ
ガラス吹く職人の顔猿に似て 玉木 祐
日枝の社に角力興行 坂本統一
月渡る誰も見てない森の上 星 明子
名残の簾きりきりと巻く 直子
六方を踏んでみたいな花毛氈 峯田政志
フランス語にて述べる口上 祐
ナオ
帝政のロマンチックな馬車の中 明子
鬘歪みて紅もつくやら おおた六魚
凍月も余りのことにやわらぎて 梅田 實
慢性疲労症候群かも 統一
並べたよキャビアフォアグラトリュフまで 政志
ワインの蔵に樽を選びて 六魚
ナウ
花嫁は花の吹雪に迎えられ 祐
凧合戦に集う若者 實
2007年5月5日 於関戸第2学習室
二句表「朝光きらめく」
朝光のことに煌く立夏なり 坂本統一
青空泳ぐ緋の鯉幟 玉木 祐
ウ
アレンジを重ねつづけてジャズ弾いて 峯田政志
一人散策新松子踏む 星 明子
威銃月のおもてを狙い撃ち 古賀直子
街の屋根屋根冬近き色 おおた六魚
ニュウ村長名水銘酒村おこし 杉浦和子
赤い襷でミスと準ミス 梅田 實
ナオ
明日は征く彼との時間短かくて 祐
荒虫黒女の多摩の凍月 統一
流されて番の鴛鴦の遠ざかり 明子
けらけら笑う老爺三人 政志
冥土への一里の塚を横に見て 六魚
夢か現かホールインワン 直子
ナウ
突風に舞い上がりたる花吹雪 實
春はここよと鶯の啼く 和子
2007年5月5日首尾 関戸公民館第二学習室
二句表「戦ひの日」 膝送り
戦ひの日忘れめや鯉幟 杉浦和子
噛みしめて飲む甘い氷水 梅田 實
ウ
ベッドにはテニスラケット眠らせて 坂本統一
文月すぎてテスト始まる 玉木 祐
たまさかに旧友と逢ふ望下り 峯田政志
節季のあけてくみかわす猪口 星 明子
吉原の楼門閉ずる大太鼓 古賀直子
まだ値のつかぬ一本の帯 おおた六魚
ナオ
古里の幼馴染みに手鍋下げ 實
月の夜回り供は野良猫 和
一茶忌の蝿と住みゐて団地族 祐
卒寿の婆が包丁を研ぐ 統
つれあひが鈍感力をきめこんで 明
当り籤札しまい忘るる 政
ナオ
花の雪霏々としてまた霏々として 六
博多どんたく稚児の行列 直
2007年 端午 於関戸公民館第二学習室
二句表「下り立てば」
下り立てば若葉尊き御嶽かな 坂本統一
眼前涼気濃き淡き山 玉木 祐
ウ
会席の皿にぎやかに箸つけて 古谷禎子
虫の音聞いて昔話を 藤尾 薫
月上り汽笛流れる遠い駅 星 明子
葡萄酒醸すパリに行きたし 古賀直子
風はらむ砂丘を越ゆる魔女の橇 おおた六魚
血統書付き子犬を膝に 杉浦和子
ナオ
香ぐわしき胸のぬくもり楽し刻 峯田政志
冬の薔薇に月白み居る 祐
想い秘め雪に別れし南部坂 統一
物語めく社に詣で 禎子
ばば一人何でも口出すバスの中 薫
変わる世間に靴はフェラガモ 明子
ナウ
道化師の衣裳整う花の昼 直子
蜃気楼にもジャズを奏でて 六魚
2007年5月11日 首尾 景勝の御嶽河鹿園
二句表「河鹿園にて」
瀬音満ち緑波打つ河鹿園 星 明子
滴る山に向かい昼の餉 古賀直子
ウ
単線の列車の駅に水飲みて おおた六魚
泡立草は乱れ咲いてる 杉浦和子
作曲家想を練りをり窓の月 峯田政志
鶇に似たる孤高なる人 坂本統一
閉じ籠もるあの娘は何を考える 玉木 祐
チケット送りメールも送る 古谷禎子
ナオ
湖の深みに眠る姫の墓 藤尾 薫
北風吹いて月は皓々 明
付け髭のパパのサンタは忍び足 直
猫ゆっくりとのびをしている 魚
抽斗に財布つかえて開きません 和
アクションゲーム孫に教わる 政
ナウ
老いもよし花につぶやく膃肭臍 統
八海山を春暮持ち来る 祐
2007年5月11日 於 河鹿園
半歌仙 「六郎の雲」
新緑や六郎の雲浮かびおり 實
幟高々藁屋根の家 直子
狂言の発声練習きりもなし 薫
ぶち抱いて籠寝の叔母 政志
月白に遅れ烏の陰ありて 六魚
紅葉かつ散る風か光か 明子
ウ
赤い羽根付けて嬉しい小学生 禎子
運動会の先生に恋 祐
合コンを重ねて後にゴールイン 統一
骨の髄迄沁み渡る酒 實
解剖学教科書一寸質に入れ 直
カルチェエルメスアウトレットで 薫
白雪の富士を見下ろす寒の月 志
鳥居の側に積める菰樽 六
宣伝にズラリと並ぶ出演者 明
土手に並んで奴凧揚げ 禎
宴会の津軽三味線花吹雪 祐
紫煙うららか午後の灰皿 統
2007年5月20日 首尾 於 聖跡桜ヶ丘関戸公民館
半歌仙「初鰹」
押し花を飾る飲み屋の初鰹 峯田政志
蝸牛嗅ぐ猫の来る路地 おおた六魚
宗匠の謡の声の聞こえ来て 藤尾 薫
遊覧船のテントはね上げ 古賀直子
望月を湖面に写し撮影す 玉木 祐
林檎をもぎりがぶり噛みつく 梅田 實
ウ
前髪をのばして待ちし村芝居 古谷禎子
はっきりいって私はいいよ 星 明子
近頃は夢もまずいと莫嘆き 坂本統一
またお爺ちゃん探す放送 政志
廃線のホームの列車乗り込んで 統一
お菓子な麻薬子供を狙う 祐
おかめ市福掃き寄せる右左 直子
アセチレン燃す寒月の店 薫
本郷の木曜会の常連に 明子
下駄あり靴あり春宵の土間 魚
いつまでもカラオケやまぬ花筵 實
お玉じゃくしが笑う音程 禎子
2007年5月20日 於 関戸第三学習室
半歌仙「遠き巴里」
マロニエの咲く並木路や遠き巴里 坂本統一
のれんのかげに動く出目金 玉木 祐
潮に濡れすべる岩場に遊ぶらむ 古谷禎子
小石拾って小筥にしまう 星 明子
夜々の月峯より峯へ傾ける おおた六魚
色づく野山よぎるハイヤー 峯田政志
ウ
秋の宿さしつさされつ時忘れ 藤尾 薫
結婚指輪はずす暗闇 古賀直子
われ知らず奈落の底に落込んで 梅田 實
大江戸線は工事延長 統一
老人はろはの乗車でどこまでも 祐
鍔広帽子ヒール鳴らして 禎子
寒月は洋酒の壜をきらめかす 明子
五重の塔も黒き古寺 六魚
デモ隊の写真懐かし若き父 政志
幼な児連れて巣箱をかける 薫
秘境の湯千客万来養花天 直子
夢のまにまに亀の看経 實
2007年5月20日 首尾 関戸公民館第三学習室
二句表「六月といひし朝」
声に出しさあ六月といひし朝 杉浦和子
グラジオラスがせいくらべする 梅田 實
ウラ
静物を描いたパレット置き去りて 星 明子
銀座の画廊でもらう瓢箪 玉木 祐
臍あんぱん買いに並んだ十三夜 古賀直子
蟋蟀啼いてなぜか哀しい 藤尾 薫
横綱に花の弟誕生し 峯田政志
大型犬はおっとり構え 和
ナオ
今日もまたハートのメール次々と 實
語りて明かす月のかまくら 明
りんりんと橇の音の行く母の里 祐
Uターンして酒屋コンビニ 直
おむすびのいろいろありて迷う僕 薫
温泉郷は北の山奥 政
ナウ
晩節は花に浮かれてほろ酔いて 實
春のぬか雨濡れていこうか 明
2007年6月2日 於 関戸公民館ワークショップ
二句表「乳飲み子の」
乳飲み子の匂いのふわり夏衣 古賀直子
マシュマロを食む緑濃き庭 玉木 祐
ウ
堤防をサイクリングの連なりて 藤尾 薫
わんわん吠える犬も爽やか 峯田政志
周平の路地裏を行く十三夜 祐
威銃うつ庄内平野 星 明子
白寿翁西部訛りの英会話 直子
隣の彼女タカラジェンヌで 薫
ナオ
とりもつはグラスを満たすカルバドス 明子
先の大戦偲ぶ凍月 政志
この寺に文人の墓多くあり 杉浦和子
四季折々の富士に抱かれ 梅田 實
朝夕に移ろう写真撮り溜めて 祐
種かかしにはかぶす鳥打 實
ナウ
廃校を飾る爛漫花大樹 明子
ぶらんこを漕ぐ海見える迄 和子
2007年6月2日 於 関戸公民館ワークショップ