「永遠の武士道」研究所所長 多久善郎ブログ

著書『先哲に学ぶ行動哲学』『永遠の武士道』『維新のこころ』並びに武士道、陽明学、明治維新史、人物論及び最近の論策を紹介。

手島堵庵に学ぶ④「何にかぎらず心に是はあしきとおもふ気のつきたる事は、かたくいはずなされぬものにて候。」

2021-10-26 15:43:43 | 【連載】道の学問、心の学問
「道の学問・心の学問」第七十六回(令和3年10月26日)
手島堵庵に学ぶ④
「何にかぎらず心に是はあしきとおもふ気のつきたる事は、かたくいはずなされぬものにて候。」
                  (手島堵庵『前訓』)

 堵庵の晩年には、一回の講釈に三百人も集まったと言う。更に堵庵は、大人だけでなく、婦人への道話、子供に対する教訓話にも力を注いだ。堵庵は、月に三回、七歳から十五歳(女子は十三歳以下)までの児童を集め、日常生活に関する心得を話し、そのつど一枚刷りにして印を押して渡し、自宅でも保存させて教訓の実を上げる様にした。それが纏まって『前訓』として出版されたのが堵庵五十六歳の時の安永二年だった。「心学」を学ぶ土台を培うものとも言うべき内容で、二十の守るべき心得について、子供達に丁寧かつ解り易く説いている。ここでは、その戒めの内容のみを紹介する。

「口教」一…「朝起きたら、手水を使って身を清めて、先ずは神様を拝みなさい。」「次にお仏壇に向かって拝みなさい。」「食事の時や寝る時には、祖父母や両親に手をついて挨拶しなさい。」「外出の際は、手をついて両親に必ず尋ねて許可を得なさい。」「両親の言いつけには何事も“はい”と速やかに返事して機嫌よく言いつけを守りなさい。」

「口教」二・・・「何事に限らす嘘を言ったり、したりしてはいけません。」「遊び事でも悪い事は決してしてはなりません。」「殺生をする事は甚だ悪い事です。」「総じて、人が慎んで述べない様な無礼な大口は決して申してはなりません。」「男女の別を弁える事が大事です。」

「口教」三…「総じて悪い所へは立ち寄らず、悪い人に交わってはいけません。」「かたわ(不具)の人を見て笑ってはなりません。人が来り帰ったりする時に、かげに隠れて笑ったりしてはなりません。」「使用人を苛酷に扱ったり、とりわけ打ったり叩いたりなどしてはなりません。」「衣服や食べ物に不平は言わないものです。」「他の人との物のやりとりは父母の許しを必ず得てからする事。」

「口教」四・・・「毎月一回灸をすえるのも親孝行の為と思いなさい。」「飲食に注意し、身体を大切にしなさい。」「善悪共に、報いが必ず来る事を逃れることは出来ないと心得なさい。」「二親が居ない子供でも、親代わりの人が必ずいるものです。その方を両親と思って大切に仕えなさい。」「何事に限らず心に是は悪いのではと気づく事は、決して言わず、しない事です。」

 この最後の教えに対し、「これは軽い事では無い。幼い時より成人の後迄も、学問の至極とはこの事を言うのです。只此の悪いと思う事を言わない事としない事の他にはありません。」と強調し、言ったりしたりしてはいけない例として、「主人・親・兄・夫等への口答え」「人に対する我儘な言葉」「ありようのない嘘」「色事の話又は噂」「大口」「男女の間の悪い戯れの言葉」「残酷な言葉」「高慢・自慢の言葉」「いやらしい気味悪い言葉」「意地の悪い言葉」「無理非道な言葉」を挙げて戒めている。

 児童達に、殺生を禁じ弱者への思いやりの心を培い、為すべき事と為す可からざる事、言う可からざる事を明確に教えた堵庵の「前訓」は、江戸時代の善良なる日本人の基礎を形成したといえよう。今日の児童教育にも大いに参考として欲しいものである。

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