「戦争とバスタオル」安田浩一/文 金井真紀/文と絵
『市井の人の言葉を丁寧に拾いあつめた比類なき湯けむりエッセイ。風呂から覗いた近現代史』、とある。
各地の温泉や銭湯を訪ねながら、昭和史「負の遺産」を掘り起こしていく旅エッセイ。
裸同士だからこそ聞ける「ホンネ」の数々が収録されている。
P12
いまはタイ国鉄のナムトック支線と呼ばれる路線は、かつての「泰緬鉄道」である。第二次世界大戦中の話だ。印度侵攻作戦を計画する旧日本軍は、タイとビルマを結ぶ鉄道を建設した。総延長415キロメートルに及ぶこの路線こそが、泰緬鉄道だ。
P13
タイ国内はもとより英語圏でも、泰緬鉄道(Thai-Burma Railway)ではなく、死の鉄道(Death Railway)と呼ばれることが多い。
P92
沖縄は全国でいちばん出生率が高い。未婚率はトップクラスで、失業率ではもうずっと最下位。
P94
「いま何やってるんですか」
「んーと・・・・・・」
ほんの一瞬だけ口ごもって、
「ラブホの掃除」
と答えた。
ラブホテルは、夏場は冷房が入っている。もうそれだけで天国みたいに楽なのだと彼女は言った。
P103
近辺にはいくつもの特飲街(米兵相手のバーが連なるエリア)が存在したが、コザ十字路から北は白人街、南は黒人街と区分けされていた。これはトラブルを防ぐことを名目とした、当時のMP司令部による一種の人種隔離政策でもあった。
P204
かつて釜山に、キム・ピルゴンさんという織物業者がいた。このキムさんこそがイテリ生みの親である。(中略)
60年代、キムさんはイタリアから大量の布地を輸入した。ビスコールレイヨンと呼ばれるものだ。洋服をつくるには適していない。思案を重ね、たどり着いてのがタオルとして活かすことだった。これを軽石に巻きつけて体を擦ってみたらどうだろう。試しに沐浴湯で使ってみたら、垢がぽろぽろと落ちるではないか。
P231
パッピンスとは韓国のかき氷。(中略)小豆と練乳のパッピンスが売られていた。3000ウォン(約300円)でドカンと大盛りだ。
【ネット上の紹介】
タイ、沖縄、韓国、寒川(神奈川)、大久野島(広島)―あの戦争で「加害」と「被害」の交差点となった温泉や銭湯を各地に訪ねた二人旅。心を解きほぐしてくれる湯にとっぷり浸かりながら、市井の人の言葉を丁寧に拾いあつめた比類なき湯けむりエッセイ。風呂から覗いた近現代史。
第1章 ジャングル風呂と旧泰緬鉄道―タイ
第2章 日本最南端の「ユーフルヤー」―沖縄
第3章 沐浴場とアカスリ、ふたつの国を生きた人―韓国
第4章 引揚者たちの銭湯と秘密の工場―寒川
第5章 「うさぎの島」の毒ガス兵器―大久野島
付録対談・旅の途中で