インフルエンザをめぐる報道も世間一般の雑談も盛り上がるこの頃。耳にした誤解や流言や思い込みや・・・を記録しておきます。それ自体が被害を出したりしなければ、おおむね他愛ない話として忘れられてゆくものではありますが、しかし、将来のリスクコミュニケーションに役立つことがあるかもしれません。というわけで、忘れないうちのメモです。身近な文系学生君やマスメディアで接した人びとなどから収集。
【抗インフル薬の予防投与】
*「インフルエンザの予防薬があるん? そりゃ知らんかった。そんなもんあるんやったら自分かってのんどったのに」
⇒ 兵庫県の老人施設で集団感染、入所者にタミフル予防投与がおこなわれていなかった調の報道がありました。管理人の関与した番組では犯人捜しけしからん調にはならず雰囲気よかったですが、代わりに芸人さんから出た台詞。
(回答案)いやいや、治療薬とおなじタミフルを半分の量服用するのですと。
(リレンザ・イナビルも予防投与が認められていますが、あのような吸入薬は、「吸って吸って!」という指示が理解できなかったり、あるいは理解できても実行が難しい高齢者には困難なこともあわせて伝えられれば良いでしょう)
*インフルエンザの予防薬? それ飲んだら(シーズン中)ずっと有効なんですか?
⇒ワクチンとの混同。
(回答案)経口薬は基本的に血液中の濃度が確保されているときに有効なものなのですから、服用期間だけ(プラスアルファ、血中濃度が残ってる時間)が有効でワクチンとは根本的に異なるものです。
*予防薬は、(医療機関に行って)言うたら出してもらえる。
これも管理人関与の番組。パネル案に「病院を訪れ『ください』で処方」とあってOA直前に変更してもらいました。修正後「病院を訪れ『感染者と接触したのでください』で処方」(元々つきあいがあってスタッフとある程度ラポールもついている番組で、パネルの案を全部事前に見せてくれるので助かりました)。
(回答案)予防投与には条件がありまして、感染した人に接触した場合や免疫能低下などの場合に限られます。受験前だからというだけでは(感染者接触とか免疫低下とかなければ)、ほんまはダメなんですよ。
*前にもらったタミフルの余りを飲んどけば良い
⇒意外にこういう人います。だされた抗インフル薬はのみきるよう確認。
なお、耐性発生可能性を含めて説明すると、「抗生物質と同じですね」という反応がかえったこともありました。つまり、世間にAMRの理解の方が先行しているわけで、NCGMのみなさまのご努力に頭が下がります。
【治療薬】
*タミフルは熱が下がったらやめていい
⇒ 残薬を他人にあげるという行動に結び付く。3日分だけ服用して残薬2日分を他人にあげるという行動をとる人がいたら、もらった人は2日分だけ服用ということになってしまう。
【ゾフルーザ】
*タミフルより、ずっと効く薬が出来たんですってね?
(回答案)ざっくり言って、同じと考えてください。いまのところ(2019.1現在)タミフルがちゃんと効きます。むしろいま、ジャンジャン使っちゃって、将来いつの日かタミフルがダメになるようなことがあった時、使える薬がなくなるのが怖い。ゾフルーザの耐性発生、9.5%は「ざっくり1割ぐらい」の表現。
ゾフルーザ関連は、耐性の報道や、塩野義も抑制的な態度をとっており、ひっちゃかめっちゃかな事までならんのではとは思いますが、どうなるやら。
【旗色悪いそもそも論】
心ある医療者が言う正論。
(脳炎肺炎重症化の救急車案件は別として)インフルエンザは、ゆっくり寝てりゃなおるんですよ(正論)。抗インフルエンザ薬をのんでも、発熱期間が1日短くなる「だけ」なんですよ(正論)。病院にいってかえってうつっちゃうこともありますし(正論)。
これらの正論は説得力をもつでしょうか。ほぼダメだろなあというのが管理人の実感。多忙な日本の現役世代で、発熱が1日短くなる「だけ」といわれて「だけ」と納得する人はほぼいないでしょう。仕事を丸一日飛ばしたらリカバリーに走り回らなならん人などなど。
関西ではお金に敏感な人もいるのですが、沢井のタミフルジェネリック(オセルタミビル)新登場も影響するでしょう。薬価は1錠136円×10錠×3割負担の人でお財布から出るのが約410円、お財布に優しいワンコインです(実際には初診料とかかかるけど)。仕事で丸一日助かるためのコストがワンコイン、う~ん。