風薫海航空翔

カゼカオル・ウミワタル・ソラカケル Presented by 柊(syu)

越後のミケランジェロを巡る旅・後編

2012-02-18 10:20:14 | 旅たびたび
浦佐駅を魚沼市の無料シャトルバスで出発。
この午後1便の終点が温泉。石川雲蝶の作品見たらそのまま温泉でも浸かりに行こうかなー♪。
なんて考えていました。

雪深い、というより雪が私の背丈以上に積もっている道を走りながら目的地・永林寺に到着。
シャトルバスはここで20分停車して、お客さんを観光させてくれるシステム。
さ、20分後の出発まで堪能するかーっ。見たら再び乗車してめざせ温泉。
拝観料を払ってお堂の中へ。
待っていたのは…「美」の世界。

今にも動きだしそうな鮮やかな孔雀の欄間。

100年前に造られたとは思えない、迫力の龍の顔。

御本尊の上部に施された「カリョウビンカ」と呼ばれる、上半身が菩薩で下半身が鳥の2対の彫り物。
今にもフワフワと宙を優雅に舞いそうで…。
(写真撮影禁止だったので、紹介出来ないのが残念)。

そして。
ある欄間にワタシは声を失った。



(↑観光パンフより)

あああああっ写真じゃ全然伝わらない!!悔しいぃぃぃっ!!。
この天女の欄間が、美しすぎてボー然としてしまった。

どぉーーーん、と天女が太鼓を鳴らし。
豊かな和音の笙の音が、美しい唇から放たれて。
白魚のようなその指で、高い音色の笛がなる・・・。

天女の欄間を凝視していると、まるでその演奏が聞こえてきそうになった。
うつくしい。うつくしすぎる!!。
見上げたワタシはぽかーんと口を開けて、しばらく動けなかった。
「心を奪われる」というのは、きっとこういう状態なんや。

どれぐらい時間がたったのか、足音がしてお寺のひとがやってきた。
「バス出ますよ」と言われた。
もう20分たったのか!?。
いやいや、もっと見ていたいっ。離れたくない。
シャトルバスの人に声をかけて、ここで下車させてもらうことにした。
温泉も行きたかったが、今はこのままでいたい。
お寺の人に「あとはタクシーしか足ないですよ」と言われたけど、今はこの天女をとにかく見たい。


誰もいなくなったお堂で、ザックを下して天女の欄間をひとり占め。
斜め下から天女の横顔を覗くと、憂いを秘めたその表情にうっとりする。
貴婦人の手のように美しく、なおかつ生命力がその指に溢れていた。
動いてもいい。むしろ、動いて欲しい。
ワタシは完全に、この天女たちに恋をした。同性ながら。

もうひとつの天女の欄間は、裏側から見るとなんと天女の背中が露わになっている!!。
帰宅してから調べたら、こういう肌をみせた天女というのはすごく珍しいらしい。
でもね・・・この背中。決して美女の背中じゃなかったんですよ。
どちらかというと、母親の背中だった。
それが、ものすごーく印象的で。
正面から見た天女は、まぎれもなく美しい飛翔でありながら。
後ろ姿が母親という。
いやいや、何度表裏と移動しながら見たことか。


感動の波に溺れながら、しかし身体はどんどん冷え切っていく。
西福寺同様、お堂の中って凄まじく底冷えする。
もう足の裏の感覚はない。
でも、でも。帰りたくない。この目に焼き付けたい。
こうな感情は久しぶりだった。

そのとき。ふと、廊下に永林寺の写真集が置いてあるのをみてパラパラと手にとった。
おー、買って帰ろう。と写真集を閉じたときのこと。

お堂の奥の扉が…スーッと開いた。
ん??。んんんん????。誰か…来た??。足音しなかったよ。
そろ~っと扉を覗きこんだが。誰もいない。
き、気のせいよな??。

もう一度写真集に目を向けると、またわずかに風が吹き込んですーっと扉が開いた。
ザザザザ…と血の気が引く。
そう言えば、さっきから何回も堂内に置いてある豆の袋が落ちた。
「気のせい、気のせい」と呟いてみるも、ゾワゾワしてきた。
開いた扉がパタン、と閉じたとき。超特急で床のザックを拾い上げて、写真集を抱えて一目散に堂内から走り出した!!。

すいませーんっ!!すいませーんっ!!。
大声で拝観料を払った入口で叫び、ようやく出てきたお寺のご婦人に写真集代を手渡した。
「あ、あのあのっ!!奥の扉が…勝手に開いたんですけどっ…」
たぶんこのときメッチャてんぱった顔してたぞ、ワタシ。
「ああ」とお寺の方。
「風で開くんですよ」。
な、なんだ…そうだったのか…。良かった~。ははは。ははは。

後で考えると、まあそうだったのかもしれへんけど。
天女のいたずらだったのかも、と思った方がなんだかロマンチックかも。


この旅は石川雲蝶と出会い、石川雲蝶に魅せられた旅でした。
これだから旅は素晴らしい♪。
西福寺開山堂の天井彫刻の迫力も、永林寺の天女たちも。
ワタシの中では宝石のように輝きつづけ、きっと年老いた日にも鮮やかにこの感動を思い出せる。
旅人で本当に良かったよ。
そして自分の旅力が衰えていなかったことに、ホッとしました。

帰ってから石川雲蝶の本を図書館で借りたら、新潟県内に雲蝶の作品がまだまだ沢山あるらしい!!。
み、みたい~っ!!。全て見たい!!。
今度は雪のない季節に西福寺の山門の彫刻だって見たいし
何時間も天女たちと一緒にいたい。

嗚呼、また旅に出るときは行き先新潟で決まりやな(笑)。

越後のミケランジェロを巡る旅・前編

2012-02-16 10:25:10 | 旅たびたび
先日、約4年ぶりにひとり旅に出ました!!。

いや~やっとこの日が来た来た。ホンマ嬉しかったっすよ。
根っからの旅人なんよな。
旅人復帰戦、2泊3日で向かった先は…新潟。
一度でいいから雪国を旅してみたかったんですわ。
数年前それを期待して冬の青森に行ったら、何十年かぶりの暖冬で見事に雪ナシ。
かなりガッカリして是非リベンジを果たしたかった。

ニュースでみていた通り、上越新幹線で越後湯沢あたりから豪雪でした。
新潟市内も半端ない雪だったけど、どちらかと言えば長岡や魚沼とか内陸のほうがすごかった…。
もうゲップがでぐらい雪みた、触った、感じたって具合で。
当初の目的は十分果たしましたよ。

初日は新潟市内をウロウロして、翌日の朝「在来線全線、雪のため運休中」という事態に遭遇。



ははは・・・わははははっ。
新潟駅の改札前で、ウィークエンドパス片手にもう笑うしかなかった!!。
どこも行かれへんやーーーーんっ!!。
でもこんな旅の緊急事態が、これまたすごく嬉しくて(←変態)。
なんかねぇ~。「嗚呼、ワタシ旅してるなぁ」と実感しちゃうんです。

幸い新幹線は動いていたので、バビューンと浦佐駅へ。
実は前日、風景印巡りで立ち寄った新潟県庁の観光課でもらったパンフレットの中に、それはそれは心惹かれるお寺が掲載されていたんですわ。

それが「西福寺」。
この小さなお寺にある「開山堂」というものの中に、幕末の彫刻家・石川雲蝶という人の作品があるんですわ。
知ってます?石川雲蝶って人。
ワタシは全然知らなかったんですが、なんでも「越後のミケランジェロ」と呼ばれているらしい。
それぐらい作品が素晴らしいんだとか。
パンフレットで一目見て「ぬぉぉぉぉぉっ!!コレ生で観たい観たい観たい!!」と、前夜ビジホのベットの上で叫んだぐらい。
なもんで、浦佐駅からタクシーで西福寺へ。

堂内写真撮影禁止だったので、お見せ出来ないのが残念。
なので観光パンフレットから。

        

天井一面、四方の上部に張り巡らされた彫刻の数々。
さほど大きなお堂ではない。
恐怖で足がすくんで動かなくなる!!。
ナマで観るともう…言葉が追いつかない、感動・感動・感動・・・。
怖いんだけど、あまりの素晴らしさに感動の嵐。
「これ本当に木の彫り物?。粘土で作ったんじゃないの?」と思うぐらい、緻密で生命力が生半可なものじゃあありません。
圧倒されて吹き飛ばされそうな威圧感。
今にも動き出しそうな、龍や虎や動物たち。
ギロリとこちらを睨みつけて威嚇してそうな僧侶の彫刻。

真冬のお寺の中って極寒。足の裏が痛くなってくる。
でも動けない。素晴らしすぎて。もっと観ていたい、もっと感じていたい。

大人になってから欄間が好きになって、松島の瑞巌寺や柴又帝釈天の彫刻に惚れましたが。
もうその上をはるかに超えて魂揺さぶられるシロモノ。
この感動、言葉に出来ないのが歯がゆすぎるんですが。
越後の田舎町に凄すぎる芸術作品があっただなんて。
嗚呼、旅ってやっぱり素晴らしい…。
石川雲蝶、出会えてよかった。

夏は海外からの観光客も訪れるらしい、この西福寺。
雪に閉ざされるこの時期だからか、このとき観光客はワタシひとりでした。
あの雰囲気、感動をひとり占めできて幸せやったなぁ…。

この開山堂は外観も雲蝶の彫刻がほどこされているらしく、是非みたいな~と外へ。



雪に埋もれてみえませーん(笑)。
うぬ~、この季節は厳しいな。
とか思いつつ、雪の隙間から何とか見えないか背伸びしてたら。
「おねえさん、そこ危ないよ~。」とお寺のひとに声をかけられた。
振り向くとワタシが立っていた場所には「立ち入り禁止」の札が…。
雪がいつ雪崩れてくるかわからないから、だそうで。スイマセン、全然見えてませんでした(汗)。
「バス今来てたけど乗るの?」とお寺の方。は??バスですか??バス通ってるの??。
聞くと魚沼市が土日限定で無料シャトルバスを運行していて、今ちょうどお寺の前に止まっているらしい。
おおおおっ!!乗りますよ、乗ります!!。
タクシーだと2000円弱かかって痛かったのよ~。

車内でチラシを頂いてみたら、ナルホド魚沼市が観光客を呼ぶためにやっている企画なんだとか。
温泉地や観光地を無料で運行しているシャトルバス。
なーんも下調べしないままココに来てしまったので、全然知らなかった。
これぞ旅の神のお導き♪。

ワタシが乗りこんだバスは、そのまま終点・浦佐駅へ。
30分後にこのバスは再び浦佐駅を出発して、主要駅を経由しながら今度は「永林寺」というお寺にも寄るコース。
その永林寺にも石川雲蝶の作品がある、とのこと。

よっしゃー。永林寺にも行ってみるかー。
浦佐駅内の立ち食い蕎麦屋で山菜蕎麦をすすり(これが予想以上に美味しかったのよ。店のおばあちゃんも可愛かった♪)。
もう一度、無料観光バスへ。

そして、ワタシは天女に恋をしてしまったのだ…。

(つづく)。