完全にすべての資源が自由に移動でき、最適な状態で均衡すると考えると、そのような状態が好ましいと考えるのは当然だ。しかし、問題は多くの場合、特に短期的には資源の移動が限られており、すべての資源が自由に移動できるわけではない。限られた資源と、限られた範囲の価格や賃金が変動することによって社会は一時的な均衡状態を作り出しているに過ぎない。
ここで重要なのは、このような資源の移動が制限される状況においては市場が歪むということである。また、このような状況において過度に市場の力に任せると、最適な状況に至らないだけでなく、最適な状態とは逆の方向に向かっていってしまうことがあるということである。前回、説明したように不況時の短期においては、全体の効率と分配にトレードオフの関係が存在する。そのため、短期において市場を過度に機能させようとすると分配は逆に本来望ましい状態からどんどんと離れていってしまうことになる。
だから、このような分配の視点なしに短期の市場主義を貫こうとする点で市場主義者の主張は間違っているといえる。正確に言うと、本来はこのような状況において、市場がちゃんと均衡することを妨げている市場間の障壁を取り払う必要があるというのが、市場原理の元祖アダム・スミスの考えである。なぜか市場主義者と称する人たちが弱者保護を全否定し失業者がいるのなら供給が足らないのが原因だから賃金を下げるべきだと主張したりするが、アダム・スミスが主張したのはほとんどまったく逆で正社員と非正社員との間の垣根があるから市場が効率化しない、だからこの垣根をなくして自由に移動できるようにしようというようなことだった。
つまり、本来の市場主義というのは市場が正しいとか、市場が効率的だとか言うのではなく、市場に障壁があり資源の最適な配分を損ねている状態は好ましくない。そのような市場の障壁を取り払うべきだというものだ。そして、市場間の障壁が資源の最適な配分を妨げている場合には、その障壁を取り払うことは社会全体の効率を上昇させるだけでなく、分配という点でも好ましいものとなるといっているのだ。
瀬戸弘幸氏のところにこの記事をトラックバックします。市場に関する問題については右も左もちゃんと理解していない人が多いので多くの人に読んでもらいたいです。