文明のターンテーブルThe Turntable of Civilization

日本の時間、世界の時間。
The time of Japan, the time of the world

女性指揮者 細腕振るう…日経新聞7月26日夕刊16面より

2011年07月27日 04時48分30秒 | 日記
体力差はねのけ躍進

クラシック音楽の世界で女性指揮者が躍進している。何十人もの演奏家を従え、ときに4~5時間もかかる音楽をまとめる。そんな、体力と精神力を要する仕事に果敢に挑んでいる。

ほぼ満員の客席から「ブラボー!」の歓声が降り注いだ。6月24日、三ツ橋敬子指揮、東京フィルハーモニー交響楽団がベートーベン「英雄」を演奏し終えた瞬間だ(東京・サントリーホール)。

今年で創立100周年を迎える東京フィルの定期演奏会を、日本人女性が指揮するのは初めてだった。服装に意外と苦労 1980年生まれの三ツ橋は東京芸術大学大学院を修了後、渡欧。

イタリアのアントニオ・ペドロッティ国際指揮者コンクール優勝 (2008年)、トスカニーニ国際指揮者コンクール準優勝(10年)といった受賞歴を持つ俊英だ。

身長151・7センチと小柄な身体全体を使って、あいまいさのない、きびきびとした指揮をする。「指揮者は皆、動き方が違う。他の人のマネをしてもダメ。顔の表情も使いながら、欲しい音をどう引き出すかを試行錯誤している」と語る。指揮者の能力とはつきつめると「コミュニケーション能力」だという。

女性指揮者では、オーケストラが指示に従わない、長い曲の指揮は体力的に無理--。一般に、これらが女性指揮者のハンディとされてきた。

三ツ橋は「体力よりむしろ、感情をコントロールする力で男性との差を感じることがある。以前はつい、感情や思い込みを先行させてしまうと感じるときがあったが、それではオケに何も伝わらない。

演奏中のトラブルにも対応できない」と話す。8月30、31日に松本市の音楽祭「サイトウ・キネン・フェスティバル」の青少年のオペラを指揮する。

三ツ橋の先輩格にあたるのは、松尾葉子だ。若き日の小澤征爾と同様、フランスのブザンソン国際指揮者コンクールで優勝した。音楽大学の指揮科での指導経験も持つが「もう女性指揮者が特殊とはいえない。指揮者を目指す女子学生は随分増えた」と話す。

その一人、石崎真弥奈は今春、東京音楽大学大学院を修了、今年度は新日鉄文化財団の指揮研究員として勉強を続けている。幼い頃からピアノを学んでいたが。集団による音楽作りに魅力を感じて音大の指揮専攻に進んだという。

男性に比べて「腕の筋力が弱い」と自覚し、「たたき」と呼ばれる指揮棒を振り下ろす基本動作を熱心に繰り返す努力家。えんび服のある男性と違って、意外に苦労するのが服装で「指揮の最中に腹やお尻が見える上着はオーケストラに嫌がられる。

膝上20センチくらいまで隠れる服装にして、と具体的に要望されたこともあります」と打ち明ける。


日本の女性指揮者で特に有名なのは西本智実だろう。他にも専門分野を持つ指揮者は数多く、北欧音楽を得意とする新田ユリ、宗教音楽の合唱を追究する淡野弓子、ドイツのオペラ界で活動する天沼裕子や渡辺麻里らが、それぞれの分野で実績を積んでいる。

名門楽団トップもそんな意外に広い裾野の上に、欧米では名門楽団のトップに就く女性も現れ始めた。05年から独ハンブルク州立歌劇場の支配人と同歌劇場オーケストラの音楽総監督を務めるシモーネ・ヤングや、米ボルティモア交響楽団の音楽監督、マリン・オルソップだ。

オルソップは昨年、読売日本交響楽団を指揮した。
彼女たちの作る音楽をひとくくりにはできない。しかし、古楽の名指揮者ニコラウス・アーノンクールの妻で、コンサートマスターとして、夫と共にオーケストラを長く率いたアリス・アーノンクールは、昨秋の来日の際、音楽人生を振り返って語った。

「この数十年で、オーケストラにも指揮者にも女性が増えた。それがクラシック音楽を、変えていないはずはない」
(文化部 瀬崎久見子)

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。